第1054話 エルサは面白そうなセリフを言いたい



「そうは言っても、片付けとか持って帰ったりする事を考えたら、やり過ぎはね。さて……と、ユノは目を閉じていてくれ。……ワイドレンジライト」


 クラウリアさんが、ヘルサルで部下達に合図を送った魔法を見て、思いついた魔法のイメージ。

 それを魔法名と一緒に空へ向けた右手から解き放つ。

 瞬間、周囲にまばゆい光が溢れる。

 まぁ早い話が、強い光を全方位に放って近くにいる人に合図を送るだけの魔法だね……思ったより光が強くて、目を閉じていても眩しく感じる程だったけど。

 月明かりも木々に遮られて、暗いのに目が慣れていたから尚更ね。


 事前に、ちょっと離れている場所にいる人への合図を決めていて、こうやって光で照らすのはそこに集合の合図。

 光なら、発生源がわかりやすいからね……昼間でも、俺が使った光量ならわかるだろうし。

 他にも、破裂音を響かせると退避、みたいな事も一応決めて使えるようにしている。

 まぁ、イメージで魔法が使える俺以外だと、モニカさんくらいしか使えないんだけどね……話をしてすぐに魔法屋に行って呪文書を買って使えるようにしてくれた。


 音や光を出すだけの、初歩的な魔法らしく必要魔力も少なく、魔法屋でも安かったらしい。

 イメージだけで魔法を使っていたり、フィリーナ達エルフが魔法を開発して使っているのを見ていると忘れがちだけど……本来は魔法屋で呪文書を買って、それを自分の記憶に刻む事で魔法が使えるようになるんだよね。

 アルネ的に言うなら、魔力を変換する箱を自分の中に作るみたいな物……かな? 魔力を練る方法や、複数の効果を持たせる魔法の研究が進んでいるから、いずれ変わるのかもしれないけど。


「ちょっと眩し過ぎるの……」

「調整に失敗したなぁ。光らせるだけだからもう少し魔力を少なくしないと……」


 しばらく光を放って、収まった頃にユノが目をこすりながら呟く。

 暗闇に目が慣れていたせいもあるんだろうけど、目を閉じていても眩しく感じるくらいだから、もっと調整しなきゃね。

 でもまぁ、おかげでモニカさん達には伝わったと思う……光が強い程遠くまで届くし、探知魔法でこちらに向かっているのを確認した。


「目がぁ! 目がぁだわ!」

「……エルサ、目を閉じていなかったのか? ユノには言ったんだが……その時にエルサも聞いていると思っていたけど」

「ぐわぁ! だわ!」

「ただ遊んでいるだけなの」

「また俺の記憶からか……」


 急に俺の頭の上で騒ぎ始めるエルサ……足をジタバタさせながらも、落ちる気配が全くないのはさすがだけど。

 ちょっと申し訳ない事をした、と思っていたらユノから呆れ交じりの声。

 そういえば、有名な映画でエルサが叫んだセリフがあったっけ。

 俺の記憶から、使いたい言葉を抜粋しただけなんだろう……人騒がせな。


「あっちの方からね」

「中央だから、リクなのだろう」

「無事、ワイバーンを倒したのでしょう」

「お、皆来たみたいだ」


 そうこうしているうちに、ガサガサと草や葉をかき分ける音と共に、聞き覚えのある声が聞こえて来る。

 モニカさん達だね。


「リクさん。合図の事は知っていたけど……ちょっと光が強すぎて驚いたわ」

「急だったからな。まぁ、ああいう合図は急に来るのが普通だが。随分離れていたはずの私達の方まで、明るく照らされたぞ?」

「林全体を明るく照らしたのではないですかね? 驚いて、残っていた魔物達が逃げ出した様子もありました」

「……そんなにだったんだ」


 木々の合間から現れたモニカさん達は、合流するなり先程の合図について話す。

 目を閉じていたから、どこまで照らされていたかわからなかったけど……結構広範囲にまで光が届いていたらしい。


「それにしても、随分と派手にやったのね……」

「中々の惨状だな。うん? ワイバーンは二体じゃなかったのか?」

「切り落とされた翼が三つ……倒したワイバーンに付いているのを合わせると、六つになりますね。三体分? でも、残っている体は二つなので……」

「いや、二体でしたよフィネさん。まぁ、ちょっと驚く事があって……」


 俺やユノの周囲を見て、呟くモニカさん。

 ソフィーとフィネさんは、散らばっているワイバーンの残骸を見て不思議そうな表情。

 何度か翼を斬り取ったり、足を斬り取ったりとしたけど、全て再生されたから数が合わないんだろう。

 ワイバーンが再生する事について、ソフィーやフィネさん達に伝えながら、魔物の死骸も含めて素材などの回収と、調査を進めた――。



 ワイバーンの討伐と調査の後、モニカさん達が倒した魔物の回収と埋めたりと、手分けして事後の片づけを済ませる。

 俺の光を放つ魔法の影響で魔物達が逃げたらしく、林の中にはもう生きている魔物が残っていなかったので、作業はスムーズに行う事ができた。

 持ち帰る素材系の魔物や一部部位を、林の外へ集め、それ以外の不要な部分は中央に集めて埋める。

 その際、ソフィーとフィネさんが「ここはこれから森になりそう」と言っていた……魔物が土の栄養分となって、木々が大きく育つからだそうだ。


 まぁ、さすがに数日で木々が育って森になる事はないだろうけど、そのうち広がって行くんじゃないかという事。

 道から離れた場所だから、自然が増えるのは悪い事じゃない……かな? 魔物が潜める場所が増える事にもなるけど、そのあたりは管理次第だ。

 片付けが終わった後は、持って帰る物の輸送……なんだけど。


「さすがに、全部は持って帰れないわね」

「ちょっと量がな……」


 モニカさん達が倒した魔物は、フォレストウルフが多かったけどオークも含まれている。

 オークは頑張っても一人一体持つのが限界なのに、積まれているその場には八体あった。

 さらに言うなら、詳細を調べるためにもワイバーンは持って帰りたいし、そもそも素材としてはワイバーンが一番高く引き取ってもらえる。

 しかも、俺とユノが斬り取った部位が再生したりと、二体分以上だから報酬としては多く期待できる代わりに、量も多い。


「うーん……どうしようか?」

「ワイバーンは絶対ね。でも、オークも持って帰りたいわ。魔物が多くなって、買取金額が下がっているとはいっても、あって困る物じゃないし……それだけ、父さん達も仕入れにかかる費用を下げられるのよ」

「ヘルサルはセンテに近いから、そういった影響は受けやすいな」


 モニカさんは収入という面以外でも、マックスさん達獅子亭の事も考えているようだ。

 確かに、お店ではオークの肉を使った料理も多いし、仕入れ価格が下がれば利益も増えるね。

 まぁ、今人気店になっているあの獅子亭で、価格が下がった分の利益で喜ぶかどうかは微妙かもしれないけど……むしろ、マックスさんならその分、料理の価格も下げそうではある。

 そうなったらそうなったで、食べに来る人達が喜ぶからいいのか。


 ともあれ、数が増えれば価格以外にも、量を仕入れやすくなるからオークを持ち帰るのは悪い事じゃない。

 でもやっぱり、全員で頑張っても一度に持って帰るのは難しい――。



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