第1046話 魔物とはそれなりに遭遇



「では、参ります……しっ!」

「てやーなのー」

「GI!? GIGIII!!」


 背中に背負っている斧を持ち、フィネさんがゴブリンへ駆けるのと同時、ユノも一緒に剣を抜いて駆けて行く。

 戦闘にいたゴブリンは、対処できない速度で迫るフィネさん達に驚きの声を上げただけで、特に抵抗らしい抵抗もなく、斬り伏せられた。

 フィネさんとユノがそれぞれ一体を倒し、返す刀のように武器を振り上げ、固まっていた三体のゴブリンのうち、残り一体も倒される。


「終わりました。手ごたえがないですね」

「ちょっとつまらないの」

「ははは……ゴブリンだからね。上位種でもなかったし……」


 さっさと片付けて武器をしまうフィネさんとユノは、つまらなさそうに呟きながら戻って来る。

 苦笑しながら、低ランクの魔物だからこんなものかなぁとも思う。

 その後、一応ゴブリンの討伐証明部位を切り取って、ウルフと一緒に埋めてその場を離れた。

 このままここにいても、他に目ぼしい情報は得られそうになかったから。



「……それにしても、モニカさん達が言っていたように、魔物の死骸は発見するけど本当に何も手掛かりが見つからないね」


 ゴブリンを討伐してから、しばらく周辺を見て回りながら、呟く。

 魔物が多くなっているという話の通り、他のゴブリンやウルフ、ホーンラビットなどの低ランクの魔物と遭遇したりもする。

 他にもオークや、ローパーという触手の魔物を生み出す、マンドラーゴって人くらいの大きさがある、植物の魔物などもいた。

 オークは豚に似た魔物で、四足歩行……突進の勢いはあるけど小回りが利かず、ちょこまかと動くウルフの方が厄介、ただし食料になるので素材として取引されていたりもする。


 まぁ、豚に似ているのに、何故か鶏肉みたいな淡泊な味がするんだけど。

 結構前に、魔物も食料として食べるのがわかってから、試しに食べてみた事がある……食べ物屋なら大体あるからね。

 マンドラーゴは、地球だとマンドラゴラとか呼ばれているものなんだろう、体の下半分が地中に埋まっており、引き抜くと絶叫する。

 ただし、その叫び声を聞いても死んだりはしないし、ただうるさいだけ。


 まぁ、その後イソギンチャクみたいになっている下半身……地中に埋まっていた部分から、切り離した触手がローパーになって襲って来るんだけど。

 うねうねしてて、かなり気持ち悪かった……こちらは、上半身部分が大根みたいな味らしいので、食料にもなる。

 とは言っても、Dランクに位置づけられる魔物で戦えない人が近付くと、地中から触手を伸ばして捕まえられたり、骨を砕く程の力で締められるので危険だし、数もそんなに多くないからあまり出回っていないらしい。

 危険を伴うくらいなら、味も似ていて安全に収穫する大根を作るよね。


 マンドラーゴは下半身を切り離しても、上半身が無事ならまた触手を生やしてローパーを生み出したり、それなりに生命力が強くて厄介でもあるので、延焼しないように気を付けながら念入りに燃やしておいた。

 薪よりよく燃えたのはちょっと驚いたけど、それ以上に引き抜いた時よりも大きな絶叫が響いたのは、うるさかったなぁ。

 モニカさんやソフィーには、念入りに細切れにすればいいと言われたけど、手間を惜しんで魔法で燃やしたのがいけなかった……だって、燃やしても叫ぶなんて思わなかったんだ……いや、生物としては当然なのかもしれないけど。


「やっぱり、魔物の死骸を魔物が食い荒らしていたのは間違いないのよね……」

「だが、リクも見た通り、周辺には他の魔物の痕跡が一切ない」

「一体、どのようにしてあの魔物達が食い荒らされていたのか、見当もつきません」

「うーん……」


 周辺の調査をしていて、確かにモニカさん達が言う通り魔物を食い荒らしているのは、他ならぬ魔物なのがよくわかった。

 他の冒険者さん達だったら、剣などの武器で倒した痕があるはずなのにそれはなく、牙の痕などがあるだけ。

 ただし、その食い荒らされている死骸の近くには、他の魔物の痕跡がまったくない……人の痕跡すらない。

 つまり、いきなりその場に死骸が現れた、もしくは空から落ちてきたとか遠くから投げられた、とかだ。


 でも、食事をしている魔物が食べる物を放り投げて、どこかへ行くわけはないしなぁ。

 死骸が勝手に歩くなんて、ホラー映画のような事もないし、そもそもその死骸になっている魔物の痕跡すら、周囲にはない。

 ……うん?


「えーと、さっき見つけた魔物の死骸……他のもそうだけど、その死骸の魔物が倒された場所まで来ている痕跡すら、なかったよね?」

「考えて見れば、そうだな。周辺に何者かがきた痕跡は何もなかった……綺麗すぎるくらいにな」

「誰かが死骸を置いて、痕跡を消してから逃げたとか?」

「いえ、それなら痕跡を消した痕跡が残るはずです。それにここら一帯は草原……一切の草花を踏まずに移動するなんてできません」

「踏んだ形跡を消すなら、草花を抜き取ればいいけど、そうしたらその場所が不自然になる……」


 ふと、魔物の死骸そのものが移動した形跡すらない事を考え、不自然な点に気付いた。

 死骸が動かないのはまぁ当然として、死骸があった場所に、その魔物が来てから倒されたなら周辺には絶対何かしらの痕跡がある。

 それが、一切の痕跡がなくその場に突然現れたような状態……絶対おかしいよね。

 痕跡を消したら、その痕跡を消した痕跡……ちょっとややこしいけど、何かしらの痕が残ってもおかしくない。


 それすらもないのだから、そもそも痕跡を残すような事を徹底的避けている。

 つまり、痕跡を残さないように魔物の死骸を置いているわけだ。


「魔物が痕跡を残さないように行動って、多分だけどしないよね?」

「そうする必要があるとは思えんな。知性のある魔物はいても、痕跡を残さないように魔物の死骸をおくなど……」


 俺の問いに、ソフィーが答えてくれる。

 知性を持っている魔物はいるけど、だからといってこんな事はしないはず……。


「前提として、これまでの経験から人為的、作為的な方面で考えてしまうけど……そうすると、やっぱり誰かが何かの目的のためにやっているんじゃないかな?」

「……確かに、そうも感じるわね。けど、だったらなんの目的で? 魔物の死骸を、それも中途半端に他の魔物に食べられているのを、痕跡を残さずにここらに置く理由がわからないわ」

「そうだよねぇ……ルジナウムみたいに、街の近くに魔物が集結とかだとなんとなくわかるんだけど」


 どうしても組織や帝国の関与が脳裏をかすめてしまうからだけど、そうすると何かしらの目的があるような気がする。

 ただ、その目的がわからないから、本当に人為的な事なのかどうかを断定できない。

 ルジナウムだと、魔物を集めて周辺の街や村を襲わせる……魔物を集めるための実験でもあったみたいだけど、とにかく国の北東に被害を出させるための目的があった。

 魔物が集まっている、作為的な気配がする……という時点で危険な企みがされているというのまでわかるんだけど、今回のはなぁ……。



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