第1042話 芳しくない調査の報告



 調査の進捗は芳しくないようで、報告する事はほとんどないらしい……難しい表情で言っているシュットラウルさんは、大まかに聞いていたらしい。

 報告する事がほとんどないようなので、むしろ俺がやった演習の方が大事件……事件じゃないか。

 他の人達にとっては驚くべき事だったらしい。


「はぁ……」

「ま、まぁリク殿の演習の話は、ここではあまりな。話を戻そうではないか……」


 食卓から少し離れた場所で、立っている執事さんが溜め息を吐き、シュットラウルさんが焦り始める。

 多分だけど、俺が寝ている間に相当執事さんから軍費の事で、色々言われたんだろうなぁ。


「では、まず私達から……昨日の調査では、話していた通り魔物の死骸を調べていたわ。でも、特にこれと言って……」

「何かおかしな事とかは、見つからなかったの?」

「おかしな事と言えば、おかしな事になるのだが……結局、話していただけの事しかわからなかった」

「倒されてそのままになっている魔物が、他の魔物に食べられているのは間違いない、というくらいね」


 モニカさんの報告に、ソフィーも付け加える。

 一昨日話していた事だけど、誰かが倒してそのままになっている魔物が、他の魔物に食べられている形跡が見られたと話していた。

 昨日の調査では、予想混じりだったのが確定したというくらいか。


「どういった魔物が、食い荒らしているのかまではわかりません。おそらく、鋭い牙を持つのだとは思われますが……」

「そういった魔物は、それなりどころか多くいるからな。それだけでどういった魔物かは断定できん」

「そうですね……」


 フィネさんが言う、鋭い牙がある魔物……シュットラウルさんも言っているけど、牙を持つ魔物はたくさんいる。

 センテ付近にはいないけど、リザードマンだってそうだし、以前センテとヘルサルの間にある森で討伐した事がある、フォレストウルフだって牙は鋭い……それこそゴブリンだって牙を持っているし。

 それだけじゃどんな魔物が来ていたのか、種類が多過ぎて何もわからないのと同じか。


「ただ一つ、シュットラウル様にも報告したのだけど、少しだけ気になる事が増えたわ」

「気になる事ばかり増えるけど、どんな事?」


 わからない事はそのままなのに、どんどん気になる事が増えていくなぁ。


「周囲に痕跡がなさ過ぎるの」

「痕跡が……?」

「私達以外にも、冒険者達が毎日魔物討伐をしているから、それらの痕跡はあるのだけど……」

「放っておかれている魔物が、センテ付近まで来た痕跡と、それを食い荒らしていた魔物の痕跡が見当たらないんだ」


 モニカさん達によると、倒されていた魔物も、それを食べた魔物も、センテ付近にまできた痕跡がないらしい。

 当然ながら、魔物が他の場所から移動して来ているのであれば、多少なりとも痕跡が残ったりはするものだ……目撃情報や、足跡とかね。

 それらがないって事は、誰かが消したかあるいは……。


「冒険者達の痕跡に混じって、見つからないだけなのかもしれないけど……」

「どうにも、周辺に何もなさすぎだな。まるで、元々食い荒らされていた魔物の死骸を、誰かが運んできたようにも感じる」

「魔物の死骸を持って来る……何が目的なんだろう?」

「わかりません。魔物の死骸で他の魔物を呼び寄せる、という事も考えられますけど……それにしては街の近く過ぎて」


 魔物の死骸を、それも食い荒らされた後の残りを、わざわざ持って来る理由がわからない。

 そんな事をしたって、街の近くだったら魔物が寄って来るよりも早く、誰かが発見して片付けてしまう可能性の方が高いからね。

 現に、他の魔物が寄ってきた痕跡はなく、モニカさん達が発見しているわけだし……今増えているらしいセンテ南の魔物が、それらに呼び寄せられている、というわけでもなさそうだ。

 何か、俺達にはわからない理由があるのかもしれないけど……。


「ん? でも運んできているような、痕跡もないんだよね?」

「そうね……私達が見逃しているのでなければ、だけど」

「発見した魔物の死骸には、人間より大きな魔物だっていた。運ぶにしても、荷馬車などを使う必要があるだろうな。だが、それらしき痕跡も同じく見つかっていないな」

「うーん……」


 荷馬車などを使えば、周囲に馬の轍や車輪の痕などが残っていてもおかしくない。

 それらもない……まるで、いきなりその場に現れたかのように……?


「もしかしてだけど……空からって事はないかな? 自分で言ってて、ちょっとおかしくも思うけど」

「空から?」

「空からであれば、周辺の痕跡がない理由も説明は付くだろうが……誰かが目的を持って運んでいるのと考えると、空からは不可能だろう。エルサに乗って運んでいるわけでもないからな」

「モッキュモッキュ……だわぁ」


 空から運んできたのであれば、周辺に足跡とかの痕跡は残らない。

 もし人間が飛べたり、飛ぶための何かがあれば……だけど。

 ソフィーの言葉を聞きながら、ふとエルサを見てみたらキューをひたすら食べていて、こちらの話には我関せずだった……食べ過ぎには注意して欲しい。


「んー、結局は何もわからないようなものだね。はぁ……」

「そうね。もうしばらく調査を続けて、何かを見つけられたらと思うわ」


 何かがあって、魔物の死骸が放置されているのかもしれないけど、その理由や方法が一切わからない。

 痕跡がないという事は、誰かが魔物を倒す際の戦闘の痕跡すら見当たらないという事。

 だから、どこかから運んできてはいるんだろうけど……エルサのように、空を飛べる手段を持っていないと、痕跡を残さず運んでは来れない。

 うーん、自分で言っていて、結構いい線行っていたと思うんだけど、人間が目的を持って運んだのなら、空を飛ぶ手段がないしなぁ……飛べる魔物くらいはいるけど、その魔物が食べかけの死骸を運んできているわけはではなさそうだし。


 とにかく、俺が寝ている間に話し合ってはいたみたいだけど、今日になっても気になる事が増えて、理由や原因なんかはわからないって事だね。

 確かにこれなら、報告会を始める時に大した事はわかっていない、とシュットラウルさんが言うのもわかる。


「モニカ殿達の報告はこれくらいだな」

「はい、引き続き調査を続けるというくらいの報告になります」

「そうみたいだね……あ、そういえばフィリーナはどうしたの? 俺が起きた時から、姿が見えないけど……」


 シュットラウルさんの言葉にモニカさんが頷き、センテ南での調査報告が締めくくられる。

 俺もそれに頷いたところで、そういえばと思い出した。

 食堂で皆が集まっているわけだけど、その中にフィリーナの姿が見えないんだ。

 ……昨日の寝る前や、起きた時の驚きなどもあって、皆の事に意識があまりいっていなかったのかも。

 決して、決してフィリーナの事を忘れていた、ってわけじゃない……よ?


「フィリーナは、朝から冒険者ギルドに行っているわ」

「冒険者ギルドに? でも、皆で一緒に行けば良かったんじゃないの? 俺も今日は調査に参加する予定だったし……」

「そのな、フィリーナだけは別行動する事になった」

「別行動?」



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