第1041話 寝てしまっていた原因は



 ソフィーに言われて気付いたけど、昨日は夕食を食べる前に寝たし、今は……もう朝食の時間は過ぎているくらいだから、お腹が空いて当然か。

 食欲はあるし、俺としては寝ていただけで特に体の不調はなさそうだから、食べられるだろう。

 なぜか、エルサが出て行くソフィーにキューを頼んでいた……朝食を食べたんじゃないのか? まぁエルサなら食べられるか。


「それでリクさん、体に何か不調を感じるとか、違和感はないの?」

「大丈夫だよ。寝る前は少し疲れた感覚があったのは確かだけど、良く寝られてスッキリした感じだから。特に、不調は感じられないよ」

「そう、本当に良かったわ……訓練だけじゃなくて、演習もやっていたって聞いたわ。その疲れかもしれないわね?」


 尚も心配してくれている様子のモニカさん。

 元気なのをアピールするように、手を挙げたり降ろしたり、屈伸運動みたいな事をして問題ない事を示す。

 ようやく、ホッと安心して微笑んでくれた……うん、やっぱりモニカさんは笑っているのが似合うね。

 あと、モニカさんは俺が寝ている間に演習の事を聞いていたみたいだ。


「でも、訓練や演習を終えてすぐは、ほとんど疲れを感じていなかったんだけどなぁ。どうして、ぐっすり寝てしまったんだろう? 別に、寝不足だったわけでもないし……」

「リクが、不用意にトランスモード……というか、バーサーカーモードになるからなの」

「バーサーカーモードって……」


 その呼び方で決定なのかな? ユノがバーサーカーって言いたいだけのような気がするけど。


「近くで見ていたら、バーサーカーというのも納得できるの。鋭く周囲を見て標的を探し、顔色一つ変えずに剣を振り下ろしていたの……怪我の治療で雰囲気は和らいだけど、あれを見た兵士達はリクの正面に立つときっと恐怖を思い出すの」

「そんなにかなぁ? 俺はただ、戦闘に集中していただけなんだけど」


 まぁ、寝る前に分析というか、あの状態がなんだったのか考えていて、自分でも怖い意識だったとは思うけどね。

 多分集中するあまり、無表情だけど目だけは敵を探し、睨むようにしていたのかも……自分の事だけど、そういった部分はあまり覚えていない。


「ユノちゃん、その……バーサーカーモードっていうのは、リクさんでも疲れるものなの?」


 話を聞いていたモニカさんが、ふとした疑問をユノにする。


「当然疲れるの。そもそも、通常の人間の魔力や集中力じゃ、バーサーカーモードにはならないの。けど、リクは尋常じゃない魔力を集中させて、意識に働きかけている……と思うの、多分。バーサーカーモードになると、神経が研ぎ澄まされて運動能力も異常に上がるの。だけど、集中するあまり、戦う事以外には意識がほとんど向かないの」

「……そういえば、余計な事は考えないようにもしていたっけ。余計な思考はノイズみたいにも感じていたかな」

「究極の集中モードとも言えるの。魔力で運動能力が底上げされている以上に向上するから、当然疲労が伴うの。魔力でカバーできるリクじゃなかったら、しばらく動けなくなるの」

「しばらくって、どれくらいだ?」

「んー、そもそも通常の人間はできないから、はっきりと言えないの。だけど……多分一カ月くらいなの?」

「一カ月……」


 怪我じゃないけど、重傷を負ったくらいじゃないか。

 それくらいのエネルギーを、あの瞬間に俺は使っていたのか……一カ月動けなくなるくらいのエネルギーって、相当なものだ。

 まぁ、魔力で補っている部分が多いけど、普段以上に運動能力を向上させ、神経も鋭くさせるのだから、反動が来てもおかしくないかな。

 人間って、普段は体を痛めないように、運動能力を制御されているらしいし。


「まぁ、それなのにリクさんが一晩寝ていただけで、回復するのは……リクさんだからね」

「そうなの」

「なんだか、その納得のされ方は俺の方が納得できないんだけど……」

「諦めるのだわ。リクはこの世界に来た時から、通常の人間の枠に収まっていないのだわ」


 ため息交じりに、俺を見ながら納得するモニカさんと、同意するユノ。

 俺が人間扱いされていないようで、ちょっと納得いかないけど……エルサの言葉で反論を諦めた。

 だけど、俺もちゃんと人間だし、枠組みから外れだしたのはエルサとの契約があってからだ! と心の中では主張しておく。


「おぉ、リク殿。目覚めたか。私はエルサ様やユノ殿から聞いていたから、あまり……いや、心配していたぞ、うむ」

「シュットラウルさん。ご心配をおかけ……しました?」

「うむ」


 モニカさん達と話していたら、フィネさんの報告を聞いたのだろう、シュットラウルさんが部屋にきた。

 言葉だけでなく、表情からもあまり心配していた様子は見られないけど、まぁ、ユノから寝ているだけと聞いたからと考えておこう。

 首を傾げながらも一応礼をする俺に、頷くシュットラウルさん。


「アマリーラとリネルトが心配していたぞ?」

「アマリーラさん達がですか?」

「うむ。特にアマリーラがだな。模擬戦に演習、リク殿に無理をさせてしまったのかとな。まぁ、何事もなく起きられたようだし、不調な様子には見えない。その顔を見せてやれば安心するだろう」

「……アマリーラさんが無理を言ったり……はしていましたか。わかりました」


 無理をさせたと言うなら、演習を勧めたユノが一番なんだけど……アマリーラさんも兵士さんに全力で、みたいな事を言っていたからね。

 まぁ、さすがにやり過ぎちゃいけないから、アマリーラさんの言葉通りにはしなかったんだけど、それでもバーサーカーモードとやらで、近い状況にはなってしまった。

 なにはともあれ、皆に無事な姿を見せる事にしよう。

 元々いずれ相談してみようと思っていたけど、ユノはバーサーカーモードについてそれなりに知っているだろうから、今度コッソリ聞いてみるかな。


 シュットラウルさんが入って来て話が中断されたし、今は皆を安心させる方が優先だ。

 あと、いつものように数多にドッキングしたエルサが、早く食べ物をと俺の頭をテシテシ叩いているし、俺もお腹が鳴らないようにするのも限界だから。

 ……というかエルサ、朝食を食べたはずなのに……食いしん坊め。



「それじゃ、リクさんが食べている間に、私達の報告ね」

「昨日はリクが寝ていたから、お互いあまり話さなかったからな」

「あぁ、うん。わかった」


 食堂に移動して、急遽用意してくれた使用人さん達に感謝して、食事を始めた俺。

 エルサと追加でユノが食事をしている……そういえばあの元神様も、食いしん坊だった。

 俺が寝ている時には、簡易的な報告しかされていなかったらしく、本格的な報告会はこれからのようだ。


「とは言っても、私も聞いたが……お互い、特に目立った事はないのだがな」

「おそらく、リク様が演習で兵士五百人に対して戦った、という事実の方が大きな報告だと思われます」

「そ、そうなの?」

「まぁ、五百人相手に一人で……ユノちゃんもいるにはいたみたいだけど、それだけで相手をするっていうのは、十分大きな事よ」

「そうだな。話を聞くに、兵士達はほぼ実戦に近い形でリクに挑んだようだしな」




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