第1017話 魔物の死骸もよく調べるように



 ソフィーの言葉に、首を傾げながら考える。

 魔物が魔物の死骸を食べた場合、よほどのグルメでもない限り、その死骸全てを食い荒らす。

 骨が残る場合も多いけど、残らない場合もあるらしいし……血の跡が残っているだけというのだって、珍しくない。

 草原などで簡単に見つけられるような痕跡は、あまり多くない。


「調査のために、私達は注意深く周囲を見ていた……絶対に見逃しがないとまでは断言できないが。それでも、魔物の死骸を食い尽くされた痕はどこにもなかった。そして、魔物が死骸を食い漁る時、弱い魔物達は群がって骨までも食い尽くす……」

「それが中途半端に食べ残しがあったという事は……?」

「話していて考えていたのだが……予想は二つ。群がって食べている時に、冒険者などが近付いて来て追い払われた。それか、そもそも食べる際に群がっていない」

「……冒険者とか、人間が近付いて来たなら戦闘になるだろうし、食べ残しだけが残るのは不自然だね」

「群がっているのを見て、そのまま残して餌にするとかなら別でしょうけど。でも、少なくとも群がった魔物の死骸なり、冒険者がやられたのならその亡骸があるのが当然ね」


 群がって食い荒らしている時、冒険者が来たのなら食べ残し以外にも何かしらの痕跡が残るのが当たり前。

 という事は、もう一つの予想……そもそもに死骸を食べるために魔物は群がっていないと考えられる。


「死骸を見つけ、食事をするために群がらないのであれば……そして中途半端な食べ残し。もしかしたら、確認されていない強力な魔物がいるんじゃないか?」

「……ソフィーの考えは確かにそうかもしれない」


 そもそもに群れを作らない魔物……大抵は、強力な魔物である事が多い。

 もちろん例外はあるけれど、弱い魔物は群れで行動し、強い魔物は単独で行動する傾向があるというのは、冒険者では広く認識されている事だ。

 単独で行動するような強力な魔物なら、一体の魔物の死骸を食べ尽くすまでに満腹になって……という事もある。

 中途半端に食い荒らされた魔物の死骸の近くには、強力な魔物がいる可能性が高いから注意が必要と、冒険者は教えられる。


 俺も、マックスさんから聞いた……発見した際には、その場を急いで離れてギルドに報告するなり、応援を呼んだりするらしい。

 今回の場合、そういった物を発見しても、見晴らしのいい草原でそれらしい魔物の姿は見えなかった事、他にも付近に冒険者がいた事から、すぐにそちらの考えにはならなかったみたいだけど。

 魔物の死骸が多かったのも、一つの理由だろう。

 でも……本当に強力な魔物が食い荒らしたのなら……。


「だがそこまで考えて、おかしな点にも気付いたんだ」

「おかしな点?」


 もしかして、ソフィーも俺と同じ考えなのかな?


「多くの冒険者がいながら、強力な魔物というのは確認されていない。少なくとも、単独で行動するような魔物はな。食い荒らしている時点で、確実に姿を現しているはずなのにだ」

「……そうだね。しかも、場所がそれなりに見晴らしのいい場所で、身を隠す場所が少ないんだから、何かしらの目撃情報があってもおかしくないよね」

「あぁ。だから話しながら、先程の予想まで考えたのだが……どうしてもわからない事があって、断言はできないと言ったんだ」


 草原には背の高い雑草や、木などもあるから全く身を隠せないわけじゃないけど……多くの冒険者が魔物討伐に行っている場所で、一切見つからないというのは不自然過ぎる。

 だとしたら、単独の魔物ではない……? でも、複数の魔物が群がっている痕跡もないわけで……。


「……わからんな。先程と同じ感想になるが、やはり情報が足りない」

「そうですね。モニカさん、ソフィー。それからフィネさん。明日からは魔物の死骸の方も、少し注意をして調べておいた方が良さそうだね」

「そうね……調査範囲が狭まるけど、気になる事を放っておくなんてできないわ」

「調査だからな、少しでも気になる事は調べるべきだ」

「今は、少しの情報でも欲しいですからね」


 難しい表情をしているシュットラウルさんの言葉に頷き、モニカさん達に明日以降の調査では、今日とは違った調査の仕方をお願いする。

 三人共頷いて、承知してくれた。


「明日からは、私も参加するわ。森の中なら確実な情報を得られたかもしれないけど、今回は違うからどこまで協力できるかわからないけど……」

「だが、フィリーナの目があるのは助かるな。よろしく頼む」

「えぇ」

「俺は明日、シュットラウルさんと兵士さん達との訓練だから、頼むよ」


 とりあえず最初のハウス化は終わったから、フィリーナの手が空いているため、調査の方に参加してくれるようだ。

 冒険者ではないけど、協力者としていてくれるしエルフとしての見方や、フィリーナの目があるのはありがたい。

 森の中だと、木々から何かしらの情報を得られるんだろうけど、雑草が無数にある草原じゃそうはいかないみたいだけどね。

 俺は訓練の予定があるため、調査には明後日以降かな。


「ここまで気になる話を聞いておいて、リク殿に頼むのは気が引けるがな……」

「調査依頼よりも、シュットラウルさんからの話が先でしたから。それに、アマリーラさんやリネルトさんも、調査に協力してもらえるみたいですし……俺一人よりも、単純に調査の人手が増える方がありがたいですよ」

「そうだな……調査となると、一人突出した能力を持つ者よりも、多くの人を使う方が情報が集まりやすいか。リク殿、明日の訓練よろしく頼む」

「はい。まぁ、さすがに明後日は俺も調査に参加してみますけど」

「うむ。リク殿がセンテにいる間、全ての日数をこちらで拘束するわけにもいかんからな」


 優先順位、というのはあると思うけど……現状での緊急性がない以上は、先着順というか話をした順番にやって行きたい。

 それに、アマリーラさん達が街中の情報収集をしてくれているから、俺が調査に行くよりも良さそうだし。

 俺、知らない人から話を聞き出すのとか、得意じゃないからなぁ……。


「リク、私も明日は訓練に参加するの!」

「ユノもか……まぁ、ユノなら俺より適任だろうけど。でも、調査するモニカさん達が少し心配だなぁ」


 モリモリと料理を食べながらも、こちらの話を聞いていたのか、ユノも訓練に参加を宣言する。

 エアラハールさんと考えた、次善の一手を広めたいんだろうけど……そうなると、調査をするモニカさん達の方がちょっと心配だ。

 まぁ、次善の一手を教えるならユノが適任なんだろう、俺じゃ上手く教えられる自信がない。


「大丈夫ですよ、リク様。今日の調査でも大した魔物はいませんでした。一応、先程の話に出てきた強力な魔物を警戒する必要はあるでしょうけど……私だってBランクの冒険者。モニカさんやソフィーさんは、Cランクとは言え実力はBランク相当です」

「多少強力な魔物くらいなら、なんとかなると思うわ。そのために、エアラハールさんからの教えを受けているんだから」



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