第998話 結界発動と確認完了
イメージをはっきりとさせ、魔力を集めて練った後に変換。
結界を使うだけの魔力の準備をしていると、離れた場所からシュットラウルさんとフィリーナの話し声が聞こえた。
「人間にも、これだけの魔力を可視化させる事ができるのだな。これを見られただけでも、今回一緒にいる価値がある」
「侯爵様、リクは特別です。人間どころかエルフでも、これほどの魔力を可視化させるのは不可能です。それから実は……エルフでも少々特別な目を持っているのですが、何度も見てようやくわかった事があるのです」
「エルフでも、フィリーナ殿だけわかる事か。それはなんだ?」
「エルフも人間も、自分の魔力を核にして自然の魔力を集めます。それができるかどうかが、魔法を使えるかどうかになるのですが……リクは、自然の魔力を一切使っていません」
「……ど、どういう事だ? 魔法を使う際の魔力の割合は、自然の魔力がほとんどのはずだ。それを全て自分のみで……それもあれだけ可視化できる魔力をだぞ?」
「どういう魔力量なのか、私にもリクの魔力の底が見えません」
「考えるだけでも恐ろしいな……だが英雄と呼ぶのに相応しいか。いや、英雄という呼称すら霞んでしまいそうだな……リク殿が味方で良かったと、心底思うぞ。下手な者に利用させるわけにはいかんな……」
「はい。私も最近ではそちらの事を考えています。陛下と共に」
「なんと、陛下もか。いや、そうだな……リク殿は王城にいるのだから、陛下とも近いか。そのため、陛下もリク殿の事をわかっていらっしゃるのだろう」
二人がなんだかんだと話しているようだけど、結界のイメージのために集中していて、ほとんど内容がわからない。
まぁ、ともかく魔力に驚いて、誰にも利用させないみたいな事を話していたと思う……利用って、結界とかクォンツァイタとかの事かな?
ともあれ、女王陛下である姉さんや、その姉さんに心酔している様子のシュットラウルさんなら、悪い事に利用したりはしないだろう。
安心して、イメージを解き放って結界を発動させた。
「……結界!」
魔力をイメージ通りの形に、頭の中にあるイメージを外に出す意識を、そして魔法名を叫んで発動。
別に叫ぶ必要まではなかったんだけど、かなり注目されていたから叫んだ方が、わかりやすいかなと思った。
発動しても可視化された魔力が広がったり、結界になって消えていくだけで、派手な演出もないし恰好良さはあんまりないんだけどね。
少し失敗したかも……恥ずかしい。
「うん、よし。できたかな」
結界が発動したかどうかは、可視化された魔力がなくなった事以外に、目視では確認できない。
そのため、探知魔法を追加で使って結界がちゃんとイメージ通りになっているかを調べる。
農地にいる人の数はあまり多くないし、大きな木とかもないので簡単に調べられるかと思ったけど、魔法具化したクォンツァイタが邪魔してちょっとだけわかりづらかった。
今回のクォンツァイタは今俺の魔力が蓄積されているから、同じく俺の魔力で作った結界と区別がつきづらかったんだよね。
ともあれ、細かい部分ではイメージと少し違ったけど、不備もなさそうだし成功と言って良さそうだ。
「……終わった、のか? あれだけリク殿の周囲に漂っていた魔力が、全てなくなっているように見えるが」
「おそらくは。私の目でも、はっきりとしたところまでは見えませんが……薄い膜のような物が農地全体を覆っていますね」
探知魔法で調べて一人頷く俺を見ながら、シュットラウルさんとフィリーナが結界を張り終わった事を確認している。
そうか、フィリーナの目には結界が薄っすらとでも見えるんだね。
周囲を見回してみると、アマリーラさん達や執事さん、兵士さん達はポカンとしている様子……可視化された魔力を見て驚き、その魔力は特に目立った事が起こっていないのに全て消えたので、どう反応していいのか困っているんだろう。
リネルトさんが、疑問を口に出して言っているのが聞こえた。
「シュットラウルさん、ほぼイメージ通り……さっき相談して決めた形に、結界を張り終えました」
「あ、ありがたい。だが、本当にそうなのか? いやリク殿を疑うわけではないのだが……驚くほどの魔力を私達の前で出して見せたのだからな。だが、そのわりには特に変わった事がなくてな」
「結界は基本的に目に見えませんからね。相談する時にも言いましたけど、境目がわかりづらいのでできるだけ早いうちに確認と目印をお願いします。――あとフィリーナは、クォンツァイタの確認かな?」
「あぁ、わかった。すぐに確認させよう」
「えぇ。ヘルサルの時は遠目に見て、繋がっているのを確認したし、今回もクォンツァイタと魔力が繋がって供給されているのは見えるけどね。でもクォンツァイタはこれからも使うんだし、研究成果として確認して来るわ」
首を傾げているシュットラウルさんに、結界は問題なく張られている事を伝えると共に、境目の確認などをお願いする。
見えないままだと、知らない人が近付いた時にぶつかってしまうから……魔物ならそれでもいいんだけど。
兵士さん達に指示を出し始めるシュットラウルさんを横目に、フィリーナにも声をかける。
フィリーナは、初めての事とクォンツァイタに関する研究などもあって、一度それぞれの安置所を見て回る予定だ。
すぐ近くに中央の安置所があるため、そこを見れば結界と繋がっているかどうかフィリーナの目なら見れるんだろうけど、他の場所もちゃんと確かめるのは重要だ。
一日や二日ではなく、数年から数十年は最低でも維持するものだからね。
「それじゃ、俺は一旦結界の外へ行って来るよ。えっと、西側の村で合流するでいいかな?」
「それでいいと思うけど、結界の外に何かあるの?」
「リク殿?」
シュットラウルさんは兵士さん達への指示で忙しいだろうし、フィリーナは各安置所の確認のため、俺は別行動をしようと思う。
合流場所の確認をしたら、フィリーナとシュットラウルさんに首を傾げられた。
シュットラウルさん、執事さんとも話しながらでも俺の話を聞いていたんだ。
「結界を使った後、確認のために探知魔法を使ったんだけど……東側の入り口付近に魔物っぽい反応があったんです。まぁ、遠いので本当に魔物かはっきりとはわからないんですけど。気になるので、ちょっと見て来ようかと。魔物なら村の人達に被害が出る前に、倒してしまわないといけませんから」
かなり遠くになるから、はっきりとはわからないんだけどね……もしかしたら、魔力を含む量が少し多いだけの大木とかかもしれないし。
ともあれ、結界の外側は今いる場所からだと出入口付近しか探れない。
結界に探知魔法で広げた魔力が妨げられるからなんだけど、見に行くついでに、周辺に魔物がいないかも探索して来ようと思っている。
警備の兵士さん達も結構な数がいるから、滅多な事にはならないだろうけど、できるだけ近くにいる魔物は減らしておいた方がいいだろうし……そもそも今東の村の人達は西の村に集まっていて、あちらに人が少ないから。
人があんまりいないからって、作っている途中の家とかを破壊されたらいけないし――。
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