第992話 順当にクォンツァイタを魔法具化
兵士さん達に頼んで、持って来ていたクォンツァイタを建物の中へ、俺達も一緒に入る。
シュットラウルさんだけでなく、他の人達もエルフのフィリーナが魔法具化をする作業を見られるのが、結構嬉しそうな様子だ。
そういえば、魔法具を作るのって人間でもできるけど、エルフの方が技術などが上だから、ヘルサルでも魔法具商店の人達が見学に来ていたっけ。
今まではエルフが集落……今は村になったあそこから、離れた場所に来る事がほとんどなかったようだし、見られる事はなかったんだろう。
「へぇ~」
建物の中に入って内部を見回し、感心すると言うよりちょっとだけ呆れた声を漏らす俺。
外側から見たら厳重だけど、中は単純な木造の建物だった……んだけど、家具とかはないのはわかるけど、特に部屋や廊下の区切りすらなく、いくつかの柱が立っているだけだった。
中央に人が入れそうな穴があり、木材で補強されているが特に目立つけど、多分そこにクォンツァイタを入れるんだろう。
「あれ、私が頼んでおいたの。クォンツァイタをただ積み上げるんじゃなくて、入れる場所が欲しいって。その方が、保管しやすいし色々やりやすいからね」
「そうなんだ」
中央のクォンツァイタ保管場所は、フィリーナが事前に頼んでおいた事らしい。
ヘルサルのようにガラスを積み上げてというより、ちゃんとした場所が作られている方が、確かに良さそうだ。
「侯爵様、リク様方、運び終わりました!」
「うむ、ご苦労」
「ありがとうございます」
「それじゃ、始めるわね」
クォンツァイタを運び込んだ兵士さん達に、フィリーナが指示した量を保管場所に設置。
完了した報告を聞いて頷き、フィリーナが一人で保管場所へと進み出る。
そこからは、ヘルサルでガラスを魔法具化した時と同じ作業だ……フィリーナの手の先から浮かび上がった文字は、やっぱり漢字のように見えた、読める漢字じゃなかったけど。
難読漢字というわけではなく、漢字っぽいというだけで多分違う物なんだと思う。
あと、ヘルサルの時よりも作業する時間が短かったんだけど、クォンツァイタが蓄積している魔力がガラスより少ないからとか、魔法具化するのを想定していたかららしい。
あらかじめ、やりやすいようクォンツァイタ自体に、簡単な細工みたいな事を施していたみたいだ。
「ふぅ。クォンツァイタの魔法具化を完了しました」
「ほぉ、さすがエルフというところか。いや、フィリーナ殿が凄いのかな」
「事前に、クォンツァイタには魔法具化しやすいように、処置していますから。エルフなら大抵はできるかと思います、侯爵様。それに私は、以前にもヘルサルで同じようにやった事がありますし……クォンツァイタではありませんでしたけど」
集中していたフィリーナが、息を吐いて体を弛緩させ、魔法具化の完了を告げる。
シュットラウルさんは一連の作業を見て感心し、フィリーナが謙遜。
まぁ、クォンツァイタへの処置もそうだし、一度経験しているからっていうのもあるだろうけど、それでもやっぱりフィリーナは凄いと思う。
研究はアルネ主導だけど、フィリーナは本来研究するエルフじゃないのにもかかわらず、ここまでできるんだから。
「それじゃ、次は……南か北側ですか?」
「そうだな……どちらもそう距離は変わらないか。とりあえず南側に行く事にしよう」
「はい、わかりました」
西から東へ行くよりは、北か南の方が近いので順番に一周するように、魔法具化を施していく予定だ。
どこからやらなければいけないというわけではないし、回る順番は自由。
とにかくシュットラウルさんの指示に従って、数名の兵士さんを残して南側へ向かう。
残った兵士さん達は、持って来ていたクールフトやメタルワームの設置だね。
温度管理のために各所へ設置する予定だけど、管理がしやすいクォンツァイタを安置する建物付近には、少し多めに設置するんだとか。
魔力補充は警備する兵士さんが担当してくれるらしい……まぁ、これは魔力があればいいので、魔法が使える必要はなく、誰でもできる事だからこそだね。
魔法具は複雑な用途はできなくても、やっぱり便利だ。
「よしっ……と。ここも終わりね、次は東側かしら?」
「そうだね」
南側のクォンツァイタ安置所に到着し、手早く魔法具化を終わらせる。
俺達が西側に行っていた間に、それぞれの場所に兵士さん達がクォンツァイタを届けてくれているので、やりやすい。
割れないように気を付ける必要はあるけど、温度管理用の魔法具よりは運びやすいみたいだ。
再び、兵士さん達を数名残して次の安置所へ。
途中で一旦、休憩と昼食のために侯爵家の執事さんやメイドさん達が、色々用意してくれたりした。
疲れて横になる場合も考えて、テントも用意してくれた……結局疲れていなくて、横になったりはしなかったけど。
俺やシュットラウルさんは歩いているだけで、特に重い荷物を持ったりしていないからね。
一応、魔法具化をするフィリーナが疲れている可能性を考えてだったらしいけど、慣れているのと実際は少し集中する必要があるだけで、そんなに疲れていなかったようだ。
エヴァルトさんのような一部例外を除いて、フィリーナはエルフらしい細身なので、体力がないと思われたのかもしれない。
実際には、研究漬けのアルネより体力があるんだけどね。
テントを用意してくれた執事さん達には、少し申し訳ない……あ、兵士さん達が休むから問題ない? なら良かった。
そんなこんなで、東側の安置所でもクォンツァイタを魔法具化し、今度は北側へ。
「ん?」
「なんだか、騒がしいわね?」
「何かが起こっていると思った方が良さそうだ」
北側の安置所に近付いた際、建物の向こう側で何やら騒がしい音や声。
何が起こっているかは判断できないけど、問題でも発生したのかな?
「ルーゼンライハ様! ご報告申し上げます。ただいま、クォンツァイタ北安置所のさらに北にて、魔物が発見されました。現在、待機している兵士達で討伐準備を進めています!」
「ふむ、魔物か。兵士達で対応できるか? それと、魔物の詳細を」
「問題なく! クォンツァイタを運んだ兵士と、警備のために来ていた兵士で対応できます! 魔物は、アダンラダ四体です!」
「わかった。安置所には絶対に近付けるな!」
「はっ!」
音がしている方から、シュットラウルさんが来た事に気付いた兵士さんが、駆け寄って報告してくれる。
多分、隊長格なんだろう、他の兵士さんより少し良さそうな金属鎧を着ている。
その兵士さんの報告に頷くシュットラウルさん。
アダンラダか……以前魔物の知識として教えてもらった事がある。
俺はまだ遭遇した事はないけど、アダンラダは猫みたいな魔物の事だ。
体長一メートルくらいで四足歩行、体長の倍くらいの長い尻尾を持っている。
特徴としては、鋭い爪で鎧ごと人間を切り裂く事ができて、素早い。
尻尾で相手を捕まえて噛み付いたり、爪で攻撃という事もあるけど、尻尾そのものは細く力は強くないのでそこまで脅威じゃない、と聞いた――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます