第990話 東門でシュットラウルさんと合流



「でも、ソフィーやフィリーナも参加するなんてなぁ……」

「初めて聞く遊びだったから、やってみたかったんだと思うわ」

「似たような遊びはありますけど、鬼ごっこ、というのは初めて聞きました」


 まぁ、日本での名称だからね。

 モニカさんとフィネさんの言葉を聞きながら、淹れてもらったお茶を飲む。

 うん、ヒルダさんのお茶もだけど、ここでもお茶が凄く美味しい。


「ユノははしゃぎ過ぎなのだわ。もっと私みたいに優雅に過ごす方がいいと思うのにだわ」

「……それは、優雅とは少し違う気がするよ、エルサ」


 ちょっと行儀が悪いけど、テーブルの上で満腹になった満足感から、お腹を見せて仰向けに転がっているエルサ。

 テーブルな事もそうだけど、食後すぐに転がるのは優雅とは違う別の何かだと思う……怠惰とかそんな方向かな。


「ちょ、ちょっと待てフィリーナ!」

「待てないわ! むしろ貴女が待ちなさい!」

「フィリーナ頑張るの!」

「楽しそうだなぁ……」


 食堂の外から聞こえてくる、ソフィーやフィリーナ、ユノの声……執事さんやメイドさんなどの使用人さん達の声も聞こえてきて、結構楽しそうだ。

 今はフィリーナが鬼かな?

 もしかすると、娯楽とかに飢えていたのかもしれない。

 まぁ、迷惑をかけすぎずに楽しんでいるなら問題ないか……。



 少し経って、そろそろ出発しなければいけなくなった頃、鬼ごっこに乱入して強制的に終了させ、荷物などを持って宿を出る。

 荷物と言っても、必要な者はシュットラウルさんが運んでくれているようだから、最低限の物くらいだけどね。

 モニカさん達は、冒険者ギルドから依頼の調査のため、それなりに荷物を持っているけど。


「センテは、食料を売っている所が多くて助かるわね」

「ヘルサルや王都は、食事をする店は多いのだがな」


 なんてモニカさんとソフィーが話すのを見ながら、合流場所の東門へと向かう。

 モニカさん達は調査する時の食事、早い話が昼食に使う食材を買うため、通りがかるお店で手早く買い物をしていたりする……お店で売っている物のほとんどが野菜だけど。

 宿に頼めば、携帯できる物とかも用意してくれたらしいんだけど、冒険者らしく自分でなんとかするとモニカさん。

 冒険者依頼のためだし、これはシュットラウルさんから頼まれた事とは別の事だからね。


 ちなみに、俺とフィリーナの方は向こうで用意されているとか。

 こっちにはシュットラウルさんも同行予定なので、仕方ない。


「農地に向かうのは、リク殿とフィリーナ殿なのだな。了解した」

「はい、よろしくお願いします」


 東門を出たところで、シュットラウルさんと十人以上からなる兵士さん達の一段と合流。

 中には、リネルトさんやアマリーラさんもいた。

 合流してすぐ、モニカさん達は別行動で農地には俺とフィリーナが行く事を伝える。

 本当は、昨日の大浴場で話しておけば良かったんだけど、別の話になっちゃったし、エルサがのぼせていたし……もっと長く話していたら、俺やシュットラウルさんものぼせていたかもだし。


「で、リク殿。ここからどうやって移動するのだ? 馬だと半日程度はかかるのだが……」

「あ、移動手段とかってシュットラウルさんと話していませんでしたね。えーと、もう少し街から離れましょうか。街の人達を驚かせちゃいけませんから」

「街の者達が驚く事なのか? ふむ、いたずらに騒がせるわけにもいかんか。わかった」

「あと、できれば農地に行く人の数も少なくしてもらえると……」

「それは問題ない。連れて行くのは、ごく少数だ。向こうにも配置しているからな。同行するのは私以外にアマリーラとリネルト、それからこの者達だ」


 移動はエルサが大きくなってだから、街の人達に見られて驚いてしまわないよう、少し離れる。

 ヘルサル防衛戦の時に見た人もいると思うけど、一応ね。

 それから、全員を乗せて運ぶのはちょっと多いかなと思ったんだけど、どうやらこの場にいる人達が全て一緒に行動というわけではないらしい。

 シュットラウルさんが街の外に出るから、見送りとか護衛って事なんだろうね。


「リク様、本日の同行を侯爵様より仰せつかりました。許可頂けますでしょうか?」

「執事さん。はい、大丈夫ですよ。でも、俺達の方が先に出たのに……」


 農地などでの護衛では、アマリーラさんとリネルトさんの二人に、宿で俺に付いてお世話してくれていた執事さん、あとメイドさんも一人いた。

 シュットラウルさんに言われ、一団の中から進み出て許可を求められる。

 特に断る理由もないので頷いたけど……執事さん達、宿から出る俺を見送ってくれたし、俺達より先に到着しているってどういう……。

 必要な道具などが入っているのか、結構な荷物を持っているし……あらかじめ用意していても、重そうな荷物を持って、先に来るのは難しそう。


 執事さんの方を見ていると、「企業秘密です」と言うように軽く微笑んで会釈されるだけだった。

 さすが執事さん、とでも思っておけばいいのかな?


「それじゃエルサ、よろしく頼むよ」

「了解なのだわー」

「む……おぉ! これがドラゴン様の真の姿なのか!」

「まぁ、街の中でこの大きさでいるのはできないですから、いつもは小さくなってもらっているんです」


 センテからある程度離れ、そろそろ大丈夫かなと思った辺りで、エルサに頼んで大きくなってもらう。

 兵士さん達もそうだけど、シュットラウルさんも驚いているのは当然か。

 アマリーラさんやリネルトさん、執事さん達は目を見開くだけでなく、口も開けて驚いていた。


「空を飛んで移動、というのは聞いていたのだが……このような方法とはな。ドラゴン様に乗るとは思わなかった」

「むしろ、それ以外で空を飛ぶ方法をどう考えていたのか、知りたいんですけど」

「なに、リク殿の事だからな。リク殿が全員を持って空に浮かんで運ぶのではないか、と考えていたぞ」

「……さすがに、荷物だけでなく人を複数人も、一緒に運べませんよ」

「はっはっは、確かにそうだな!」


 荷物だけで手が塞がっている時もあるのに、人を運ぶなんてできそうにない。

 ……全員が、俺の背中に覆いかぶさるとかなら? と一瞬思い浮かんだけど、そもそも俺が空を飛べるわけじゃないので、無理だ。


「それじゃモニカさん、依頼の方は頼んだよ。気を付けて」

「えぇ、任せて。リクさんには必要ないかもしれないけど、そっちも気を付けてね」

「侯爵様、お気をつけていってらっしゃいませ」

「うむ」


 大きくなったエルサの背中に乗り、見送りのモニカさん達と話す。

 モニカさん達は、このまま南に向かって魔物の調査をするようだ。

 シュットラウルさんの方も、兵士さん達の中で隊長格なのだろう人と話している。

 アマリーラさんや執事さん達は、初めて乗るエルサに緊張しているみたいで、ガチガチに体を硬直させているけど、リネルトさんは気軽そうに兵士さん達へ手を振っていた。


 リネルトさん、結構大物? マイペースなだけかもしれないけど。

 ともあれ、準備が整ったので北東の農場予定地へと出発だ。


「飛ぶのだわー」


 エルサの声と共に、ふわりと浮かんで上昇を始める。

 ゆっくりと浮かびあがりながら、初めてエルサに乗る人達、それを見送る人達は何やら感動するような声を上げていた――。



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