第974話 最初のハウス栽培はセンテ北東



「お待たせいたしました。では、私はこれで……」

「はい。ありがとうございます」


 シュットラウルさんからの謝罪などを終えた頃、受付の女性がお茶を入れて持って来てくれた後、お礼を言って退室するのを見送る。。

 女性が入ってきた時には、シュットラウルさんは先程までの感激などを引っ込めて、すまし顔。

 部屋に入った時、椅子ごと倒れていたので色々手遅れだろうけど……謝る姿とかも含めて、あまり他の人に見せたくない姿だったのかもしれない。

 だから、お茶を頼んだのかもね……単純に喉が渇いて自分が飲みたかった可能性もあるけど。


「さて、本題に入ろう……陛下から直々の報せにあったハウス栽培、だったか」


 お茶を一口飲んで、シュットラウルさんから話を切り出す。

 まぁ、忙しいかもしれないから、さっさと話をした方がいいよね。


「はい。報せが行っているなら、詳しい事も知っていると思いますけど……」


 改めて、シュットラウルさんに俺が結界を張って、最近見つけた新しい魔力蓄積の鉱石、クォンツァイタをエルフのアルネやフィリーナが研究して使いやすく改良。

 魔力を蓄積させたクォンツァイタを使って、結界の維持をする事で内外を隔てて気候に左右されず、また魔物の脅威からも守りやすくしたうえで、作物を作るという内容を説明。

 フィリーナも加わって補足なんかもしてくれた。


「クォンツァイタと呼ばれる鉱石と、温度管理だったか? それらに使う魔法具も王都より運び込まれている。鉱石の方は、門外漢の私では見ただけでわかるものではないが……温度管理に使う魔法具の方は素晴らしい」

「クールフトとメタルワームですね」

「うむ。エルフの作った魔法具だとは聞いている。輸送の際に不備がないかの確認のため、魔法具に詳しい物を同席させたうえで試験的に使用させたんだが……あれは、今回のハウス栽培だけでなく、部屋などで快適に過ごすのにも使えそうだ」

「そうですね……元々、作った際の考えがハウス栽培のためでなく、屋内の温度を暖めたり冷やしたりするためと考えて、作られた物ですから」


 クォンツァイタに関しては、鉱石であるという事以外、見ただけでわかる事じゃないよね。

 ともかく、クールフトとメタルワームはシュットラウルさんも気に入ってくれたようだ。

 冷暖房と考えれば、部屋の中を快適にするために使えるだろうね。

 ちなみに、確認のために使用したのは輸送する際に、アルネが指示していた事で、俺達が運ぶのと違って荷馬車などで運ぶ輸送に耐えられるか……という試験の意味合いもあったらしい。


 まぁ、早い話が強度の試験も兼ねている。

 もしそれで壊れたら改良しなければならないし、輸送法も考えなければいけないからとか。

 もちろん、強度は王城で研究する時に色々確認はしていたので、ほとんど大丈夫だろうとは言っていたけど。


 壊れて使用できなくなっていた場合、後から改めて改良したのを送るか、俺達がエルサで往復して持って来るかのどちらかだった。

 結界とクォンツァイタが設置できれば、温度管理の開始は少しくらい遅れても問題ないからね。


「他にも様々な用途ができそうだが……まずは陛下からお達しのハウス栽培だな。センテから北東に用意した農地をと考えている」

「北東ですか。センテは西側以外、広大な農地に囲まれた場所なので、他にもあると思っていたんですけど……」

「まぁ、内容を聞き、ヘルサルでの成果の報告を見る限り、全ての農地でやっても良いのだがな。しかし、全ての農地ですぐに準備するわけにもな……北東では現在、新しい農地を用意している所なのだが、ついでにそこでクォンツァイタを安置するための小屋を、用意している。実はな……」


 シュットラウルさんが言うには、既にある農地をハウス栽培にするには村や農家への説明もあるため、数日中に準備というわけにはいかないらしい。

 まぁ、いきなりこれまでと違う方法……畑を耕して作物を育てるという事は変わらなくとも、温度管理などが加わるとなれば、反発と言わなくても戸惑う人が多くいてもおかしくない。

 ただ、俺が関係している事もあって、噂の広まりのおかげでほとんどの人達が承諾してくれているとか。

 国や女王様、領主貴族からのお達しだから、承諾するしかない……というのもあるけど、英雄と呼ばれている事が役に立ってくれているのかもしれない。


 新しく北東に用意している農地は、これからのアテトリア王国……最近のキューを始めとした一部の作物に対する、価格高騰などに対応するためだとか。

 帝国との戦争の可能性は、各貴族には通達されており、その下支えも兼ねているとも。

 戦争ともなれば、兵糧……食糧が大量に消費されるからね。

 新しく用意する場所なので、説明などの手間が少なく、既にクォンツァイタを安置する小屋の設置や、管理するための人員などの用意も済ませてあるらしい。


「すでに、確認の終えた物資……クォンツァイタや温度管理用魔法具などは、そちらへ運ぶ手筈が整っている。あとは、リク殿の承諾だけだな」

「ハウス栽培をするために来たので、もちろん、承諾しますよ」

「そうか、ありがたい。では、すぐに運ぶよう通達する。馬で半日程度の場所だ、明日には到着しているだろう」

「はい、よろしくお願いします」


 北東の農地に結界を張る事を承諾し、クォンツァイタなどを運び込むようにしてもらう。


「明日農地へ向かってもらい、魔法や魔法具の設置……どのくらいの日数が必要になる?」

「んー……一日あれば、できると思います。もちろん、その後に境界の設置とかもしてもらわないといけませんけど」


 農地に結界を張り、クォンツァイタを繋げて温度管理用魔法具を設置……大体一日で終わらせられると思う。

 結界なんて、数分もあればできるからね。 


「そちらももちろん、手配している。確か、不可視の魔法だから内外の境をはっきりさせるため、だったか」


 結界がどこにあるか、わかるようにするために境界の設置は必要だ。

 ヘルサルでは木の柵を作ったりしていたけど、それがないとどこに結界があるかわからず、人がぶつかったりする危険があるからね。

 魔物がぶつかるくらいなら、問題ないんだけど。


「はい。結界は……説明するより、見てもらう方が早いですね。……っと、こんな感じで目に見えないので」

「……これは不思議だな。言われた通り見えないが、確かにそこに何かがある」


 言葉で言うより、実際に結界を使った方が手っ取り早いと、手の平にソフトボールサイズで結界を発動。

 シュットラウルさんの手に渡して、結界がどういうものかを確かめてもらう。

 目では見えないのに、確かに感触があるのを不思議がっていたシュットラウルさん……俺に許可を取って、拳を打ち付けたりしていたけど、一切壊れるような事はなく、感心していた。


「ヘルサルで作った農地に、魔物の被害がまったくないというのが良く理解できるな。これで囲めば、作物の育った農地に魔物が入って暴れる事もないだろう。むろん、出入り口の管理は必要だが」

「そうですね……どこからでも来られる状況ではなくなるので、出入り口さえ管理していればと思います」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る