第970話 リクは既に国の重要人物



 モニカさんやソフィーが気にしていたのは、断った事で侯爵が俺達を良く思っていないとか、再び誘われたり、今度はさらに強く勧誘されるんじゃないか……と心配していたみたいだね。


「ルーゼルライハは、国全体の戦力増強を考えているから、強者を引き入れる事には熱心よ。けど、しつこく誘って他へ行く可能性があるのなら、無理に誘わないわ。冒険者を止めて軍へ……という誘いだってする事はあるだろうけど、冒険者だからこそ無理矢理という事はないわね」

「冒険者は、他国へ流れていく事もあるから、ですか?」

「そうよモニカちゃん。まぁ、貴族を嫌って別の場所へという事は往々にしてある事だし、それで他国へ行ってそちらへ協力したら、こちらの損に繋がると考えているのよ。特にりっくんは英雄と言われて、最高勲章も授与したし、王城での活躍も目の前で見ているから……」

「なおさら敵には回したくはない……と考えますか」

「ソフィーの言う通りね。だから、ルーゼルライハがりっくんに対して何かをという事はないわ。むしろ、対面してすぐ謝るんじゃないかしら?」

「さすがに、面と向かって失礼な事をされたわけでもないのに、謝られるのは……」


 モニカさんやソフィーが姉さんと話すのを聞いていて、なんとなく無理な事を言い出さない人なんだろうなとは思ったけど……初対面で謝られるのはなぁ。

 歓迎されるのにはもう慣れたけど、会うなり謝られるなんて事……あぁ、フランクさんと会った時にあったっけ。

 あれはでも、息子のコルネリウスさんが原因だからね、驚いたけど。


「りっくんは、勲章とか英雄って呼ばれている事以外にも、実際に王都に押し寄せる魔物を倒した。他にも色々やっているけど……貴族達も助けたから、多分思っているより発言力というか、影響力があるのよ?」

「発言力はともかく、影響力は噂とかでよくわかっているけど……」

「今りっくんが何かをしようと考えた時、協力すると言い出す貴族はおそらく、国のほぼ全ての貴族になると思うわよ? もちろん、無茶な事は別だけど……唯一、授与式に参加せずバルテルに巻き込まれなかった、シュタウヴィンヴァー子爵もエフライム達兄妹を助けたりしているからね。ほぼ国全体に、恩を売っている状態なのよ」

「恩を売るつもりで、色々やったわけじゃないんだけどなぁ」


 ヘルサルではお世話になっていた人達を助けるためだし、エルフさん達は冒険者としてだけど、単純にエルフって種族を見てみたかった好奇心が大きい。

 王都では姉さんを助けるためで、それならできるだけ犠牲が少ない方がと考えてだ。

 他もまぁ、恩を売るとかじゃなくて流れで巻き込まれたというか……やれる事をやっていたらという感じが強い。


「リクさんはそのつもりじゃなくても、って事ですよね。ヘルサルなんて半分以上の住人はリクさんが言えば、協力すると思います」

「ハウス栽培、でしたか? あれとゴブリン達に前回の爆破事件。ヘルサルへの貢献が、群を抜いています」

「そういう事よ。貴族達も自分達がりっくんに助けられた。そして直接拘わった人も拘わっていない人も、助けられたと思っている人は多いわ。さらに、英雄と呼ばれて……影響力が大きすぎて、今では国が扱う一個人としての範疇を越えているわね。……冒険者ギルドが、クランをと言い出すのもわかる気がするわ」

「うーん……でも、クランは戦争だとかに関係するならって提案だったし……」


 俺一人でやった事ではないのに、皆俺に対してモニカさん達が言っているような感じらしい。

 フィネさんも、コクコク頷いているし……それはともかく、クランは別の話だと思うと抵抗したら、姉さんからは「口実の一つよ」と言われて一蹴された。

 マティルデさん達も、一介の冒険者とだけ扱うのは手に余るから、クランを作って自己管理と他の冒険者を任せよう、という意図も含まれているんじゃないかという事だ。

 うーん……俺、別に無茶な事や無理な事をやって、迷惑を掛けたりはしていないんだけどなぁ……まぁ、そういう事ではないらしい。


 そんな感じで、妙な気分になりながら、センテへ行く話から脱線して俺がアテトリア王国内でいかにして影響力や発言力を得たのか、そして持っているのかを力説される場になってしまった。

 おかしい……ルーゼルライハ侯爵の話だったはずなのに……。



 それから二日後、センテへの出発日。

 前日に準備はしたけど、ある程度いつでも動けるようにはしていたので、城下町に行くような準備はなく念のために武具の点検だとか、持って行く物の確認だけで済んだ。

 足りない物はセンテで買えばいいし、食べ物とかは王城で作ってもらって持って行くように頼むくらいだからね。

 王城から見ると、ヘルサルの向こうにあるセンテだけど……昼食分があればなんとかなるから、保存食までは必要ないし。


「はいこれ、今回の費用ね」

「えっと……ずっしりと重いんだけど……?」


 準備が整って、部屋を出る前に姉さんが訪ねて来て、ずっしりと重い革袋を渡される……宿代を含めた今回の費用らしい。

 人数が多いから、宿代と食事代だけでもそれなりにかかるのはわかっているけど、さすがに多過ぎなんじゃないだろうか?

 チラッと中を覗くと、金貨しか入っていなかった。


「思う存分使ってちょうだい。国の予算に余裕があるとは言わないけど、りっくんに対してお金を出し渋るわけにはいかないわ。私個人としても、国としてもね」

「うん、まぁ……ありがたく受け取っておくよ」

「あ、報酬に関してはまた別だからね」


 報酬と費用を含んだお金だと納得しようとしたんだけど、別らしい。

 諦めて革袋を荷物に入れながら、部屋を出て中庭に向かう際、モニカさん達と姉さんが話すのを聞く。

 それによると、俺に何かを頼むのだから冒険者への依頼報酬よりもちゃんと、報酬や費用を出さなければ……という人達が多いらしい。

 特に、文官さん達からそういう意見が上がっていたと言っていたけど……俺、ヴェンツェルさんとかの武官と呼ばれる人達とは話したり関わっているけど、あんまり文官さんとは話していないんだけどなぁ。


 まぁ、王城内ですれ違って挨拶くらいはするけど。

 疑問に思っていると、俺に付いて歩くヒルダさんから教えられた。

 なんでも、偉ぶった態度が一切なく、武官文官問わず接している様子が広まっているうえ、バルテルを止めた時に助けてもらったと、貴族だけでなく文官さん達が特に感謝しているらしい。

 武官は魔物相手に戦えるけど、文官さん達……自分達は何もできずに震えるだけだった、という人が多いとか。


 それに、功績を誇ったりして偉ぶらないのも、評価が上がる一因だとか。

 通常、武官と文官は敵対ではないけど予算などの関係で対立する事が多く、目に見えて功績を上げやすい武官は、文官相手にそれを盾に偉ぶったりする事も多いからだそうだ。

 まぁ、外勤と内勤で考えや意見の違い……なんてのも話だけでは聞いた事があるから、そういった対立なんだろうけど……。

 姉さんが言っていた、発言力や影響力が強いという片鱗を垣間見た気分だ――。



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