第947話 武器によっても難易度が変わる
「私も、魔法具の武器で魔力を使った事はあるが……体の疲労は通常とは違う気がするな。なんというか、全身から力が抜ける感じというか……」
「あぁ、俺も最初魔法を使う時は、そんな感覚があったね」
俺も最初の頃は、体から何か力のようなものが抜ける感覚のようなものを感じていた。
最近は慣れたのか、多めに魔力を使う時以外は特に感じなくなったけど……もしかしたら魔力量が多くて、魔法を使っても全体からはそんなに減っていないからかもしれない。
「魔力は全身を巡っているからでしょうね。話によると、魔力が体を維持しているという考えもあるそうよ。そこまでとは言わないけど、魔力が枯渇すると生きられないとも言われているし、無理して魔力を使い続けるのは良くないわ」
極端に考えると、魔力が体をという事になるのか……。
魔力が暴走した例の護送中の人の事を考えると、血液との関係はありそうだから、あながち間違いとも言えないかな。
なにはともあれ、魔力が生きるのに不可欠なら無理は禁物だ。
「フィネ、次善の一手はどうだったの? 私が見ていた時は、難しそうだったの」
「そうですね……」
ユノの質問に、顎に手を当てて考えるフィネさん。
一人残って練習を始めた時は、まだ次善の一手というか武器に魔力を這わせるのは、成功しているとは言えなかったらしい。
まぁ、だからこそ新兵さん達相手に練習をしていたんだろうけど。
「感覚としては、斧よりも剣の方がやりやすいように感じます。なんというか……刃の部分に魔力を伝わらようとすると、間にある柄が邪魔になるんです。剣の方が刃と柄が近いので、そう感じるのかもしれませんが」
「それじゃ、基本的には剣を使う人にやってもらった方がいいのかな?」
「いえ、無理ではありませんから、練習次第かと。私は魔法を使えませんので、魔力を動かす感覚に慣れませんでしたけど……慣れれば問題なく。ただ、どれだけの魔力を這わせて覆うのかなど、考える必要はあると感じます。あとは、訓練を経て習熟度を上げれば、咄嗟に使う事も可能になると思われますね」
「やっぱり、練習が必要かぁ」
「それは仕方ないの。でも最善の一手に比べれば、訓練次第で誰でも扱えるようになるの」
最善の一手は、魔力だけでなく体の動かし方や力の入れ方など、様々な状況を一致させる必要があるから、誰でも使える技じゃないからね。
もしかしたら、訓練次第で誰でも使える可能性があるのかもしれないけど、数日どころか、数カ月や数年かかってもできない人の方が多い気がする。
それを考えると、少なければ数日……慣れて自由に扱えるようになるまで数カ月と考えても、ほとんどの人が使えるようになれそうな次善の一手は有効だ。
「柄と刃……なら、槍だと難しいのかしら?」
「練習次第ですが、斧よりもさらに難しくなるかと思います。ただ、モニカさんは魔法を使える関係上、魔力の扱いに慣れてますので、ある程度訓練で慣れれば容易になるかと」
「魔力の扱いかぁ……戦闘中に魔力を集めたり、魔法を使うまでの動作にばかり集中しないように、母さんから鍛えられたわ。槍の柄を伝わせる……這わせるのは魔力の放出する時に、少し意識を変えればと考えると、なんとかできそうね」
モニカさんは魔法を使えるし、マリーさんからも厳しく鍛えられていた。
魔力の扱いには慣れているので、少し難易度の上がる槍でも次善の一手を使えそうだね。
「まぁ、戦闘中に動きを止めて魔法を使う事にこだわっていたら、危険だからね。だからこそ、相手と距離が取れる槍が最適なんだろうけど」
「そうね。でも、母さんなんて近付かれた際の武器は、レイピアよ? ショートソードとかよりは長いけど、槍よりは短いわ」
「そういえば、以前使っていたのを見た事があるか。あれは、ヘルサルでゴブリン達と戦った時だったな」
「レイピアも上手く使ってゴブリンを貫いていたのを、何度か見たね。まぁ、あの時はともかくとにかく数を減らす事が最優先だったから。基本はマックスさんの盾で、魔物を近付けない戦いが主体だったんだと思うけどね」
長さだと、槍が柄も合わせて二メートル前後で、レイピアが刃渡り一メートル以上……両方突く事が最大の攻撃と考えれば、似ている武器ではあるけどリーチは全然違う。
数十センチでも、戦闘中では大きな違いになるから、その距離で戦いながらも魔法を使うとしたら、マリーさんは相当訓練をしたのだろう。
ヘルサル防衛戦の時も、レイピアを目の前のゴブリンに突き刺しながら、別のゴブリンに魔法を放つと醸していたからね。
とはいえ、態勢の整った状態だと、マックスさんが最前で盾を使い攻撃を防ぎ、ヤンさんがガントレットで近距離に詰めつつ、後方でマリーさんが魔法を……というのが定石だったとは思うけど。
……まさか、マリーさんも突撃しながら魔法を、という事はないはず。
マリーさんなら、やりかねないけど。
「私はそもそも剣だし、魔法具でもあるから多少は慣れているな。話に聞く限りではできそうだ」
「ソフィーさんの武器って、魔法具ですよね? それだと、魔法が発動する方へ魔力が流れませんか?」
「……その可能性は、考えていなかった。そうか、魔法具の方に魔力が行くから、むしろ何も仕掛けのない武器の方が扱いやすいのか……」
「やってみないとわかりませんけど……」
「それだと、私もソフィーと同じくね。持っている槍は魔法具だから……」
魔法具の剣や槍を使っているソフィーとモニカさん。
次善の一手を使おうとして魔力を流すと、魔法具の方が反応してしまう可能性があるのか……。
魔力を流したからって、勝手に発動する物じゃないけど、刃に魔力を這わせようとするとそこが邪魔になる可能性があると。
「なんにしても、試してみないとわからないの」
「そうだね。魔法具の武器だと難しいようなら、他の武器を持つ事も考えた方がいいかもしれないし……最終目標は、あそこにあるワイバーンの鎧くらい硬い物でも、刃を通せるようにかな?」
「リク様……その、あれはちょっと加減を間違えただけなので……」
「そうなんですか?」
話しているだけじゃ、感覚を掴んだりもできないだろう。
ユノの言う通りまずは試してみると考えて……隅の方で置かれているワイバーンの鎧に目を止めた。
あれくらいできるようになれば、高ランクの魔物にも有効な攻撃ができるようになるだろうし、プレートアーマーが相手でも刃を通す事ができるだろうと思って、目標に据えた。
けど……フィネさんからは、何やら申し訳なさそうに言われる。
次善の一手で穴をあけた事は間違いないようだけど、やろうと思ってやったわけじゃないみたいだ。
「はい。最初は魔力を這わせるのが難しかったので、加減があまりできませんでした。その時、できる限りの魔力を使った際に、あのような事に。ワイバーンの鎧は硬いので、相当な魔力を使います。その時だけの戦闘ならそれでいいのですけど……」
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