第937話 エルフの集落はエルフの村へ



「だからこそ集落という呼称を改めて、正式にアテトリア王国の村とするわ。まぁ、ここで決めただけで、まだ通達以前の話だけれどね」

「陛下がお決めになさった事であれば、ほぼ正式に決まったような事かと」

「それでも、形式は大事だからね。とにかく、親書に書かれている通り、アテトリア王国にあるエルフの集落……正確にはアルネやフィリーナの故郷の集落は、今後エルフの村として、国に認可されている事となるわ。村の名前とかは、エルフ達で考えてちょうだい……これは、通達の方に書いておくかな」

「代表ではありませんが、エルフとして感謝を」

「ありがとうございます、陛下」

「帝国の方もエルフと協力しているようだからね。こちらもエルフとは協力したかったのが本音だし、今からでも遅くはないはずよ。まぁ、帝国の事がなくても、どうにかして仲良くとは思っていたから」


 正式にはまだだけど、これでほぼエルフの集落がエルフの村になる事が決定したようなものかな。

 だからといって何が変わると言う程でもないけど、人間とエルフとの交流が活性化するのかもしれない。

 まぁ、こちらより先に帝国側がエルフと協力しているし、破壊神の干渉とやらで様々な研究に関しては向こうが先を行っているんだろうけど、決して追いつけないわけじゃない。

 ……アルネ達の頑張り次第、かな?


「これからは共に国を豊かにするため、協力しましょう」

「はっ! 微力を尽くさせて頂きます!」

「あ、村の名前もそうだけど、長も必要ね。意見をまとめたり、村を代表したり……アルネが適任かな? それともフィリーナ?」

「いえ、私は研究をするため、王城にいる事が多いので……フィリーナは、エルフの中でも特別とは言えますが……」

「私だって、今は王城にいるわよ。そうね……陛下、親書に書かれている署名の中に、エヴァルトという名があります」

「……確かにあるわね」

「そのエヴァルトが適任かと。現在もエルフの集落……村をまとめているエルフです。長老の誰かだと、またいずれ人間との交流を絶とうと言い出すかもしれません」


 アルネやフィリーナは、エルフ村ではなく最近では王城にいる事が多いので、村長になるのは難しいと断った。

 フィリーナからはエヴァルトさんがいいという意見が出る。 

 確かにエヴァルトさんなら、俺もよく知っているしエルフさん達をまとめている様子だから、適任かな。

 様子を見た限りだと、長老達も考えを改め始めているようではあるけど、ここて長の立場になったらまた元に戻る事も考えられるからね。


「エヴァルトというのは、エルフの長老ではないのね?」

「はい。若いエルフ達をまとめていて、今では全体のとりまとめも行っているようです。長老達にも意見を通させる事もありますし、私達と同じく以前から人間との拘わりを推進していました」

「エヴァルトさんなら、俺達も会った事があるけど大丈夫だと思うよ。というか、エルフの村に行った時には、いつもエヴァルトさんが対応してくれたんだ。それと、アルセイス様の事も含めて全部じゃないけどある程度話してあるから」

「りっくん達も会った事があるのね。ふむ、それなら信用できそうか。こちらの事をある程度知っていて、りっくんから話も聞いている。改めて話をする手間も省けるし、そのエヴァルトというエルフを村長に指名しましょう。まぁ、本人が断ったり別のエルフを推薦するなら、それまでだけど」


 そうして、フィリーナとアルネ、ついでに俺の推薦という事でエヴァルトさんがエルフ村の村長に指名される事が決まった。

 エヴァルトさん、勝手に決まってしまったけど……まぁ、今もエルフ達をまとめているようだから大丈夫だよね、うん。

 それに、嫌なら断れるようだし。


「それと陛下、ヒルダ殿には伝えていますが……集落、いえ村から研究に参加する者が向かっております」

「研究って、クォンツァイタの?」

「いえ、今回持って帰ってきた温度管理に必要な魔法具です。クールフトという冷やすための物で……現状でも十分なのですが、改良の余地があるだろうという事で、そちらの研究を王城でと」

「成る程ね、わかったわ。そういえば、温度管理の方の魔法具に関しては、まだ聞いていなかったわね」

「途中で俺がアルネを呼んじゃったからね。えっと、それじゃ魔法具の事だけど……」


 人間や獣人、周辺の村との交流が始まっているという話から、ふとエヴァルトさんから何かを受け取っていたアルネを思い出したからね。

 そこで話が中途半端になっていた。

 とりあえず、アルネからの補足も交えて、魔法具に関しての報告。

 クールフトとメタルワームの性能に関しては、後日研究室で試すとして、ハウス栽培での温度管理ができそうなのを姉さんは喜んでいた。


 小型化とか、クォンツァイタを使えばもっと色々できそう……とかはまぁ、エルフ村からカイツさんが来てからになるだろうか。

 それまでにも、アルネや王城の研究者がクォンツァイタも含めて、色々やってそうではあるけど。

 十分な数の魔法具を作るのと性能試験などをしつつ、ハウス栽培はまずどの村から始めるか、などの検討も始めるそうだ。

 そうした中、話しが長引いてエルサが空腹を訴え始めたので、ヒルダさんに頼んで夕食を用意してもらう。


 久々の王城の料理に舌鼓を打ちながら、重要な事は話し終えたので、夕食時は適当な雑談に終始した。

 夕食後は俺達の報告を踏まえて、会議だなんだと忙しくなりそうな姉さんが、準備のために退室……大丈夫だと思うけど、無理はしないように気を付けて欲しい。

 アルネとフィリーナは、さっそく魔法具を試すと言って研究室へ……足取りが軽かったのは、集落が村と認められたこともあるのかもしれない。

 モニカさん、ソフィー、フィネさんはユノを連れて、王城から宿屋へ。


 エルフ村を離れてから、あまりゆっくりできていないので、今日明日はしっかり休むとの事だ。

 ヘルサルで俺とモニカさんが一緒に街を回った時の話を、根掘り葉掘り聞き出す……なんてソフィーが楽しそうに言っていた。

 ……俺のいない所で話されるのは、なんとなく恥ずかしかったけど、実際に話すモニカさんが一番恥ずかしそうだったので、心の中で応援しておく。


 皆がいなくなった後、騒がしかったのが静かになってちょっぴり寂しさも感じつつ、エルサをお風呂に入れてあげたりとして就寝した。

 寝る前にお願いして、人間くらいの大きさになってもらい、モフモフ抱き枕になってもらったのは、ここだけの話。

 ……やっぱり、エルサのモフモフは幸せの感触だ――。



―――――――――――――――



 ――翌日は、休日としてのんびり部屋で過ごし、ほとんど何もする事なくヒルダさんに淹れてもらったお茶を飲みながら、エルサのモフモフを堪能した。

 一応、荷物の整理をしたり汚れた服を洗ったりもする。

 まぁ、洗濯に関してはヒルダさんや王城のメイドさん達がやってくれたので、俺はソファーで寛いでばかりだったけど。

 ……休日のお父さん感と、姉さん辺りが見たら言われそうだ――。



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