第916話 怪しい帝国側の冒険者ギルド



 冒険者は国家間の戦争にも参加はできるとは聞いたけど、ギルドは依頼を受けたりはしないし、自由意思で参戦するので義勇兵とかそういう扱いになるとも聞いたっけ。

 俺は姉さんから直接頼まれて、ツヴァイのいた研究所を押さえたけど、それだって正直にすべて話せば何か言われるだろうからね。

 あれは一応、ヴェンツェルさんの護衛として依頼を受けた、としている。

 でも、だからこそ国からの関与が少なくて自由に行動できるのが冒険者で、その冒険者を管理するギルドが情報を求めているのに、他国にあるからといって何かあるのだろうか?


「これは冒険者ギルドの組織としての問題なのですが……帝国にあるギルドからの連絡が、途絶えているのです。いえ、定期連絡はあるのですが、向こうの状況などの情報が一切ない……と言う方が正しいですか」

「向こうからの情報が……という事はもしかして?」

「冒険者ギルドも、帝国に取り込まれている可能性が考えられる、という事です。あくまで想像であり確証はありませんが……」


 冒険者ギルドは各国、各地に支部があり、それぞれが定期的に連絡を取っていると聞いた事がある。

 定期連絡があるので、帝国の冒険者ギルドが残っているのは間違いないようだけど、向こうからの情報がない状態かぁ……。

 何かの理由で、外へ情報を届けないようにしているという事だから、ヤンさんの言うように帝国とと考えられる。

 帝国を怪しんでいるからこその想像だけどね。


「冒険者ギルドが帝国に与している。そんな事があり得るのでしょうか?」

「残念ながら、あり得ないとは言い切れません。私が生まれるよりも前の話ですが、冒険者ギルドと国が手を組んで……という事も歴史上あったようです。まぁ、それを防ぐために定期的な連絡を取ったり、ギルドの支部どうしで情報交換をするのですが」

「最低限、定期連絡をするだけで、防止策であるはずの情報交換が行われていない、と」


 訝しむソフィーに、顔をしかめながら話すヤンさん。

 おそらく、組織として大きいために末端まで管理できないからこそ、そういう事も起こるんだろうと思うけど、それ以後は対策がされているみたいだ。

 多分、ここで話せない方法も使って、冒険者ギルドが国に与しないようにしていたんだろうけど……ヤンさんの表情を見る限り、それも機能していなさそうだね。


「はい。そしてこちらからの情報も向こうには行っていません。交換が行われないのですから当然ですが……それなのに、定期連絡の際にはこちらの状況がわかっているような事がありました」

「誰かが、情報を流しているわけですね?」

「あまり考えたくありませんが、そのようです。それらの事と、リクさんが話す組織や帝国、今回の騒動を起こしたクラウリアという人物を繋げると、帝国との繋がりを感じます」

「クラウリアさんが……かはわかりませんが、組織に所属している人が向こうへ情報を流し、それを帝国側の冒険者ギルドが受け取っている、と考えられますね……」


 現在はどうなのかわからないけど、組織の人間がアテトリア王国の各地に散らばっているのは間違いない。

 なので、こちらの情報が帝国側に流れているのはあり得る話だ。

 インターネットみたいな高速通信とか、映像や写真を撮ったり送ったりする手段がないので、基本的に離れた場所の情報を入手するには、その場に行った誰かからの報告を待つ事になるからね。


「まぁ、元々帝国の冒険者ギルドは、帝国内も他国でも評判が悪かったですから……やはり情報を取得しようにも期待できませんね」

「そういえば、前に聞いた事がありました。帝国は魔物を国が討伐する対応をしているので、冒険者の依頼が少なかったりして、質が悪いとか……」

「街や村に向かって来る魔物を、国の兵士が対処したりというのはこの国でもありますが、冒険者ギルドが機能している国では、人里離れた場所の魔物は冒険者が討伐します。それ以外にも兵士が通常やらないような事や、緊急時に兵士がいない場所への対応など、多岐にわたるのですが……帝国ではこれらのほとんどを国が対応しているらしいのです」

「それは……質が悪くなる以前に、冒険者の仕事がなくなりますね……」


 帝国の冒険者ギルドの話は、以前マティルデさんから少しだけ聞いた事がある。

 あれは、バルテルに協力していたのが帝国側から来たの冒険者だった、という話からだったっけ。

 ヤンさんの話を聞いて、納得するソフィー。


「危険を伴う職業なのでこの国でも、ならず者や孤児などが食い扶持を求めて冒険者に……という事は多いのですが、帝国ではさらにその数が多いとも聞いています。ただ、今言ったように仕事がないので、収入も少ないのです。当然、冒険者ギルドへの収入も少ないので、各支部の職員の質も悪くなる傾向にあり、冒険者達の管理すらできなくなります」

「この国では考えられない事ですね。こちらだと、ならず者は当然ランクが上がらないだけでなく、街の人達に迷惑をかければ注意され、資格の剥奪もあり得ます。まぁ、やり過ぎれば単純に捕まります」

「そうです。ソフィーさんの言う通り、この国ではギルドが冒険者を管理できているので、円滑に回っています。まぁ、完璧とは言えませんので、それでも低ランクの中にはならず者上がりが多いのですが……それでも帝国に比べれば少ないでしょう」


 お金と仕事を求めて、なんでも屋に近い冒険者になったのに、結局仕事がなくて収入がない……さらにギルドの方も収入がないので職員も少なく質が良くないと。

 悪循環が続いている状態のようだ。


「一応、本部から帝国のギルド支部へ職員の派遣もしているようなのですが……人材が無限にあるわけではありません。帝国全体に行き渡るのも難しく、効果は薄いようですね」

「まぁ、人が好きなだけ送れるのなら、総入れ替えでもしてなんとかしているでしょうからね……」

「はい。……これは私が言っても良いのか……いえ、本来はギルドマスターという立場で言う事は許されないのでしょうけど……リクさんになら」

「……なんでしょうか?」

「帝国にいるギルド職員の誰か……いえ、おそらく複数人が冒険者と協力しています」

「え? 冒険者と協力するのは、いい事じゃないんですか?」

「それが困っている人々を助けるため、とかであれば良い事なのですが……街や村、帝国が関知できない場所で裏家業のような事をやっているようなのです。早い話が、汚れ仕事といったところですね」

「汚れ仕事……」

「ならず者が冒険者になり、それらと協力して、という事ですね……」


 汚れ仕事と一言に言っても、色々な想像ができるため何をしているのかはわからないけど、ヤンさんの話しぶりからは犯罪というのも生温い事をやっているように感じられる。

 それこそ、盗み、恐喝……くらいならかわいいとさえ思えるような……殺しの仕事とか、かな。


「冒険者ギルドが、幾多の国に認められて以来そういった者達との争いがあったようです。いわゆる、裏ギルドと呼ばれ、通常では受けられない依頼を受けるのです。それも、表はちゃんとした冒険者ギルドであると装って。もちろんそういった者達は、即刻調べて取り潰すのが常なのですが、稼げないギルドがそちらに手を出して……という事もあります」



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