第915話 冒険者ギルドでヤンさんに事情説明
「まぁその……助かったには助かったのですけど……」
「ユノが、爆発の魔法を使う者を見つけてな。私達の目をすり抜けて、冒険者ギルドに対して魔法を使おうとしていたんだ。すぐに阻止しようと動いたのはいいんだが……」
「我々が動く前に、ユノさんが動いて殴り飛ばしたのです。その結果が……」
言いづらそうにするヤンさんに変わり、ソフィーが教えてくれる。
警戒していた人達の間をすり抜けて、冒険者ギルドに近付いた工作員がいたらしく、気付いた時には魔法は発動寸前だったとか。
その際に、誰も阻止できなさそうだったのを、ユノが動いて阻止したらしいけど……勢い余ってギルドの塀に殴り飛ばしてしまったらしい。
「もしかして、その瓦礫?」
「「……」」
途中からなんとなくそうかなぁ? と思っていた事を口に出して聞いてみると、同時に頷くヤンさんとソフィー。
通常なら、塀が受け止めて終わるんだろうけど、そこはユノ、勢いが付き過ぎて破壊し、今目の前にある瓦礫になってしまったという事だ。
「今アルネがユノに説教中なんだ。まぁ、もう少し力加減をしろとか、それくらいだが。そもそも、魔法を発動前に止めたのはお手柄だからな」
「……魔法と殴り飛ばすのと、どちらの被害が大きいかは微妙ですが……我々だけでは止められなかったのは間違いないので、こちらから何かを言う事もできません」
「それで、アルネがユノに注意しているんだね」
爆発の魔法が使われていたら、もっと大きく壊れていたかもしれないし、逆に小さかったかもしれない。
でもユノ以外に誰も止める事ができなかったから、ヤンさん達の方から怒る事はできないって事か。
俺もよく言われるけど、加減は大事だよね、うん。
アルネなら厳しく言い過ぎる事はないだろうし、そもそも顕現したアルセイス様と一緒に話もしているから、畏れ多いとかで注意というよりお願いになっていそうだけど。
「その、殴り飛ばされた人は?」
ユノの事はアルネに任せておけば大丈夫だろうし、瓦礫の方は後片づけがちょっと大変なくらいだろうけど、殴り飛ばされた人がどうなったのかが少し気になった。
頑丈な塀が壊れるくらいの勢いで殴り飛ばされたんだから、軽傷で済んでいる可能性は低いだろうから。
「まぁ、命は無事だな。骨くらいはいくつか折れているだろうが」
「捕らえて、衛兵に引き渡し済みです。ただ、意識はなく手足の一部が変な方向に曲がってはいましたが……衛兵達なら、多少治療できるでしょうし、そのままという事はないでしょう」
「そうなんですね」
取り調べもするだろうから、話せるくらいに治療はするんだろう。
治癒魔法とかはないから、その曲がった手足が今後まともに使えるかはわからないけど……死なせる事はないと思われる。
処罰されてどうなるかは、俺の感知するところじゃない。
クラウリアさんの部下らしいから、あっちから何か言われるかもしれないけど、騒動を起こした張本人がどうにかできる事でもないからね。
「とりあえず、ユノの事はアルネに任せていればいいから……えっと、ヤンさん。ソフィーもだけど、少し話せますか?」
「事も収まったようだし、私は問題ないぞ」
「そうですね……少々、ギルドの職員に指示をしてからとなりますが、可能です。ですがリクさん、ここで話さないという事は、他に聞かれたくない話……なのですね?」
「今回の経緯もあるので、多少は聞かれても大丈夫ですけど、あまり大っぴらに聞かせない方がいい話もありますね……」
「畏まりました。ギルドの中で部屋を用意しましょう……いつもの部屋ですが」
「はい、ありがとうございます」
クラウリアさんの事や、今回の騒動の事、組織の事などもあるため、全部を外で話せる事じゃない。
組織の話とか特にね……どこで誰が聞いているかわからないし。
とりあえず、部屋の用意や職員さん達、集まっている冒険者さん達に指示を出しに行くヤンさんを見送って、ソフィーと俺はアルネとユノにしばらく話をしてくる事を伝える。
その際、ユノには片付けの手伝いも頼んでおく。
塀を壊した罰……と言えなくもないけど、暇になりそうだったからね。
ユノ自身は、手加減しきれなかった事を反省している様子だったし、片付け自体はむしろ楽しそうにやり始めた。
「では、リクさん」
「はい」
ヤンさんが指示を終えるのを待って、一緒にギルドの建物の中へ。
よく訪ねて来ると通される部屋に行き、職員さんがお茶を持ってきて退室した後、ヤンさんから話を促される。
「えっと、まずは今回の騒動の原因……というか張本人なんですけど……」
クラウリアさんが仕掛けた事の説明から始まり、捕まえて今は抵抗しないように押さえて獅子亭に置いている事。
見た限りではそうそう暴れたりしなさそうだった事や、怒るモニカさんに取り押さえられていたから大丈夫だろうという事を伝える。
ついでに、クラウリアさんが使った魔法の合図で、街全体で行われていた爆破工作は終わらせたある事、聞き出した情報から工作員を取り押さえるよう、クラウスさんが動いているのも伝えた。
これは、クラウスさん達と話した時にクラウリアさんから部下の事を聞き出しており、それをもとにまだ捕まえられていない者がいれば、捜査をして捕まえる。
さすがに、クラウリアさんから離れて行った元部下の事は全部わからないようだった……数が多くて全てを覚えきれないとか言っていたけど、元でも部下の事はもう少し把握していて欲しかった。
ともあれ、そちらの方も引き続き捜査して捕まえる手筈を整えるという事だ。
「成る程……獅子亭であれば、マックスさん達もいるので下手な事はできないでしょう。それでリクさん、そのクラウリアという者は……おそらく、ここからがあまり人に聞かれたくない内容だと思われますが?」
「はい。そのクラウリアさんですけど……本人が言うには……」
続いて、クラウリアさん自身の話。
全てを信じたわけじゃないけど、組織に所属していて、その組織は帝国と深く拘わりがある事。
ヘルサルに押し寄せたゴブリンの大群の事など……あんまり他人に聞かせられる内容じゃないからね。
まぁ、ツヴァイの事を知っていて、さらに同じくらいの魔力量だったりと、組織に所属していたというのは間違いなく本当なんだろうけど。
「帝国との関係ですか……」
クラウリアさんの話を伝えて、ヤンさんが一番悩むようになったのは、帝国との拘わりがあるという部分。
姉さんやヴェンツェルさんが帝国に対して、というのなら国同士の関係もあるため、わからなくもないんだけど……。
「帝国の冒険者ギルドに、確認や情報の要求をしてみましょう。何かわかるかもしれません」
「そうですね、お願いします」
「ただ……期待はできないでしょうけど……」
「……どうしてですか?」
冒険者ギルドは、国に寄らない組織として複数の国での活動を許されているから、こちらはこちらで独自に連絡を取って情報を入手するのも可能なんだろう。
ただ、国からの依頼は冒険者に直接だったり、あまり政治的な拘わりは推奨されない……というよりも、嫌な顔をされる……らしい――。
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