第878話 リクに課せられる試練



 アルセイス様の言葉に驚いてユノを見る。

 ユノが神様だっていう事は聞いていたけど、創造神だとは思っていなかった……教えてくれなかったし。

 でも考えてみれば、他世界の地球へ遊びに行った事……は別か……時間を巻き戻して、死にそうになった俺を転移させたりエルサのようなドラゴンを創ったりとか、神様としての強い力を持っている片鱗は見せていたっけ。


 ドラゴンを創って、世界の監視役にしているらしいし……アルセイス様はエルフを創ったらしいけど、そこまで大きな存在を創ったわけでもなく、監視役というわけでもないのだから、合わせて考えると確かにユノの方が上位というのは納得できるか。

 上位どころか、創造神ってその世界における最高神と言えるんじゃないか?


 ともあれ、俺自身が子供を好む特殊な趣味があるように思われたくないので、まずはそちらを全力で否定しておく。

 ユノが子供の姿なのは、初めて会った時からそうだし、俺の趣味が反映されているわけではないはずだから。

 まぁ、かわいらしいというのはアルセイス様に同意するけど……。


「と、とにかく! ユノが創造神というのは初めて聞いたし……後で説明してもらうとして、アルセイス様の用というのは一体なんでしょうか?」


 これ以上話が逸れてしまうと、夜が明けてしまう可能性もあるので、さっさと本題に入るように聞いた。

 決して、俺の趣味が暴かれそうになったからじゃない……俺は単なるモフモフ好きだから。


「用はいくつか、てところかしらねー。リク君というより、ユノ様に伝えたい情報もあるのだけどー。とりあえず、先にリク君を連れて来てもらった用を済ませておこうかしらねー」

「俺への用って一体……? っ!? くっ……」


 情報というのも気になるけど、一先ずアルセイス様は俺への用を済ませると言って、俺の目をはっきりと見据えた。

 何が……? と疑問に思った瞬間、体の内部なのか外側なのか、よくわからない重圧が全身に降りかかる。

 よくわからない状況ながらも、なんとなく耐えなければいけない気がして、全身に力を込めるようにしながら、倒れ伏しそうになるのを踏みとどまる。

 思わず声が漏れてしまうけど、これ……結構どころか、かなり辛いぞ……? これが、神様としてのアルセイス様の力、なのか?

 とりあえず、頭にくっ付いているエルサは身じろぎ一つせず、平気そうに相変わらずのモフモフを感じるので、俺にだけ圧のようなものがかかっているんだろう。


「リク、どうした?」

「アルネ、大丈夫なの。アルセイスがリクを試しているだけだから、見ていた方がいいの」

「そうよー。ちょっと圧を加えてみただけなのよー。まぁ、神の力を使ってみたってとこかしらー?」

「ぐっ……くぅ……!」


 アルネが様子の変わった俺を心配して声をかけてくれるが、それに答える余裕はないし、ユノが代わりに答えてくれた。

 アルセイス様の方は、膝をつきそうな、むしろ崩れ落ちそうなくらいの圧をかけておきながら、気軽に話しているし……。

 神の力って、これ……魔力を直接いじくられているような、俺が持っている魔力が重りとして負荷がかかっているような感じだ。

 頭にくっ付いているエルサには何もないようだから、俺の内外にある魔力を外から干渉したり、体内も体外にも影響がある事を考えれば、確かに神の力と言えるのかもしれない。


「頑張るのリクー」


 気軽に応援するユノだが、必死で抵抗している状態だと逆にありがたい。

 アルセイス様が言っているように、俺の力を試すだけなら深刻になり過ぎない方が、こっちも気が楽になるからね。


「っ! くっ……ぐぅぅぅぅぅ!」

「あらあらー、圧を強くしたけどそれでもまだ抵抗するのねー。他の人間なら……エルフでもかしら? とにかく、他だったら最初の段階で全身が地面に縫い付けられるようになって、指一本も動かせなくなるはずなのにねぇ」


 ユノの応援で少しだけ気楽になったのも束の間、さらに圧がかかり全身への負荷や重さが増加する。

 さすがに膝をつきそうになってしまうが、歯を食いしばって耐え、全身の荒れ狂う魔力に気力で抵抗して地面を踏みしめる。

 ……他の人がどうかはわからないけど、これは確かに油断したら地面に倒れ伏し、動く気力すらもごっそり持っていかれそうだ。

 多分、一度膝を付いた時点で、もう立ち上がろうという気力はなくなるだろう……それくらい、強い重圧を感じた。


「リクー、頑張るのー!」

「はぁ……こんな事なら、もう少しリクに魔力の使い方を練習させておくべきだったのだわ」

「俺はどうしたらいいのかわからんが、これがアルセイス様の試練だというのなら、リクしか乗り越えられないだろう……」

「あら、さすがに私は誰にでもこんな事をしないわよー? 望むなら別だけど……ただ、リク君がユノ様の近くにいるにふさわしいかを、試しているだけだもの。とりあえず、ここまで耐えたのは凄いわねー。それじゃ、そろそろ全力で行くわよー!」

「ぐぅ……くっ! あぁぁぁぁぁ!」


 気楽に応援するユノの声や、頭上からエルサのため息交じりの声、さらにアルネからも声がかかるが、そのどれもに答えている余裕は一切ない。

 さらに、アルセイス様が全力と言った瞬間、さっきまでとは別次元とも言うべき重圧が全身に降りかかった。

 瞬間的に心まで折れそうになったのを、言葉にならない声を叫んで奮い立たせ、倒れそうになる全身に力を入れて必死に耐える。

 ほんと、これは一度膝を付いただけでも心が折れそうだ……もう耐えなくても十分なんじゃないか? なんて、体だけじゃなくて心の中からも悲鳴のような声が聞こえる気がするくらいだ。

 

「っ!? んんっ! あぁぁぁぁぁぁ!!」


 何かに気付いた……その一瞬で再び重圧に負けそうになるのを、声を絞り出して耐える。

 自分が今どういう状態なのか気にしている余裕はないけど、なんとか立っていると思える状態を維持しながら、ふと思い至った考を膨らませる。

 ……心が折れそうになっている、さっきから脳内に諦めるよう呼びかける幻聴すら聞こえる気がするくらいだけど、それってもしかして、アルセイス様の圧がかかっているから?

 いや、それはわかっているんだけど、自分はこうしてなんとか耐える事に集中しているのに、さっきから諦める方に考えが誘導されている気がする。


 もしかして……もしかしてだけど、この圧本来の影響は精神……つまり心にかかっているんじゃないか? 心が諦めるように仕向ける事で、俺の全身に圧がかかっているように思わせるとか……。

 いや、魔力自体は確かに荒れ狂っているから、全てが精神へ向けてではないのか……ちょっとだけ、試してみよう。


「負ける、もんかぁぁぁぁ! 俺は諦めない、膝を付いたりもしない!」

「あら、もしかして……?」

「その調子なの、リクー!」


 前向きというか、絶対に屈しないという決意のようなものを声に出して叫ぶ。

 すると、少しだけ……本当に少しだけだけど、体にかかっている圧が軽くなった気がした……気のせいかもしれないけど。

 何やらアルセイス様やユノが声を出している気がするが、それはもう耳に入っていない、とにかく今は屈しない事だけを考えるように集中した。

 叫んだ事により、先程よりも諦めろと叫ぶ内なる声が小さくなったようで、少しだけ楽になったから――。



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