第845話 クラウスさんと農場の話
「……さて、農場の話でしたな?」
「はい。結界を張ったりはしましたが、放っておくだけなのも無責任なので……どうなっているか様子を見に来ました」
喜びが抑えられないクラウスさんや、初めて会うアルネが若干引きながらも自己紹介などを済ませ、椅子に座って向き合いながら本題へ入る。
クラウスさんを呼ぶ際に、ヤンさんは俺からという事は伝えていなかったんだけど、冒険者ギルドで待っている間にある程度は話しておいてくれたみたいだ。
まぁ、最初から俺からと言うとクラウスさんが無理してしまうだろうから、という配慮だったのでここへ来てから話すのは問題ない。
それに、細かい説明をする手間も省けるからね……同席しているヤンさんには、先にお礼を伝えておいた。
「リク様のおかげで、農場の方は滞りなく進んでおります。と言うより、想像以上と言った方がよろしいでしょうか……」
「滞りなくと聞いて安心しました。けど、想像以上と言うのは?」
「おそらく、魔力溜まりが発生している状態なのが原因なのかと思われますが……作物の成長が早いのです」
「作物の成長が……」
そういえば、魔力溜まりの話を聞いた時に、そういった効果もあるって言われていたっけ。
作物の成長が早いというのは、早く実がなって収穫までの期間が短くなるため、俺のような素人の考えではいい事ばかりのような気がするけど、実際どうなんだろう?
「アルネ、魔力溜まりの影響で作物の成長が早いと、何か問題があるかな?」
「……俺より、フィリーナの方がこういう事は詳しいんだが、そうだな……植物の実というのは、時間をかけてじっくりと成熟させる方がいい事もある。その方が甘い物ができたりとかだな。なので、早い成長は味などに問題が生じる事が考えられるな。とは言え、我々エルフも魔力溜まりで作物を育てた事はないので、はっきりとした事はわからないが……」
「なんにせよ、作って収穫をしてからじゃないとわからないって事か……」
「ある程度は、農業の知識がある者が見れば、実の良し悪しはわかるかもしれないが、どちらにせよ実が成ってからだな」
魔法に関する事でエルフの知識が豊富なのは、よく知られている事らしいけど、長寿であるおかげで知識の蓄積も豊富で、作物を育てる事にも詳しいらしいから、念のためアルネに聞いてみる。
確か、エルフの集落では男性エルフは魔法研究に造詣が深く、女性エルフは狩りや農作に詳しい……とか前に言っていたっけか。
そのため詳しいのはフィリーナの方らしいけど、それでもある程度の考えられる事柄を上げて教えてくれた。
ふむ……確かに植物って、ただ成長が早いだけでいいというわけではないか……実が熟すのと同時に、時間をかけて栄養などを豊富に蓄える場合もあるわけだ。
「その心配は、農場で働いている一部の者からも出ています。ですが、成長が早いという事は熟すまでの期間も少ないのではないか……という考えも出てきております」
「じゃあ、結局収穫まで待ってみないとわからないわけですね……」
農場では全員が未経験ではないため、それなりに知識を持っている人もいるようで、クラウスさんからも同じ意見を聞いていると伝えられた。
ただ、成熟するまでの期間も短くなっただけで、実の味などは大きく変わらないのではないか……という意見も出ているらしい。
なんにいせよ、味や形、栄養分や大きさなどはこれから観察して行かないといけないという事だね。
「作物に関しては、これからを見守るという事で……結界の方はどうでしょうか?」
「リク様の結界は、問題なく今も農場を守って頂いております。目に見えないので何度か人がぶつかってしまうという事が起こりましたが、今は周囲に柵を設けていますので、人間がぶつかる事はありません。時折、魔物が突撃して来る事があるようですが、結界に阻まれてぶつかり、そのおかげで討伐も容易になっているようです。冒険者ギルドとも協力し、外周を巡回して魔物を排除しておりますが、今のところ通常よりもやりやすいという話ばかりです」
「魔物は、柵があってもお構いなしですからね。人間の方にも事故はほとんどなく、大した問題もないのなら良かったです。ちゃんと持続しているみたいですし」
結界を張った時に心配していた、目に見えないために人がぶつかってしまう事は、全て避けられなかったようだけど、大した問題になっていないなら安心だ……柵も作ってくれたようだしね。
魔物に関しては、人間が作った柵があろうと関係なく襲い掛かってくるため、結界がそれを阻んでよくぶつかっているようだ……どんな魔物かは知らないけど、頭から突っ込んで自滅するような感じかな。
……何もないと思って、ガラス窓に突撃して頭をぶつけるようなもので、勢いがかなり強いと考えればわかりやすいか。
あれ、俺も経験あるけど……完全に油断しているから痛いんだよなぁ……全力で突撃したと考えると、意識を失っている魔物とかもいそうだ。
「フィリーナが施したガラスの魔法具化は問題なく?」
アルネの興味は、魔物の事よりも魔法具にあるようで、クラウスさんへ質問。
「はい。魔法具商店の者にも確認してもらいましたが、今のところ魔力が尽きてしまったガラスもないようです。人間や魔物がぶつかってもびくともしない強固な結界のおかげで、農作業をする者達は安心して畑に集中できているようですな」
「ふむ……前回リクがここで結界を張った日から考えると、クォンツァイタの場合は多少なりとも消耗している予想だが……リクの作ったガラスはとんでもないな。いや、ガラスに大量の魔力を蓄積させるよう、変質させたリクがとんでもないのか」
「……狙ってやったわけじゃないんだけどね」
魔法具化した結界用の魔力タンクのガラスは、魔力が尽きる事ないようで、こちらも問題はなさそうだ。
作物の成長が早い部分に、少し心配事があるけど……全て順調に行きすぎてちょっと怖いくらいだね。
まぁ、それだけクラウスさん達や、農作業をしてくれている人達が頑張ってくれたんだろう。
まだクォンツァイタを使ったハウス栽培は始まっていないので、あくまでアルネの予想だけど、あちらはそれなりに消耗するようだ……その代わり、大量に産出される物で交換もできるので、メンテナンス性はいいと言えるかな。
狙ってあのガラス作ったわけじゃないから、ヘルサルの方は交換が効かないしなぁ……無理矢理作ろうとしたら、また魔力溜まりができてしまうおそれもあるからね。
魔力を追加で補充すればってフィリーナは言っていたから、こちらもメンテナンスはできるんだろうけど。
ただ、結界を維持するための魔力を誰がどれだけ集めるのかが心配なくらいかな、これはクォンツァイタの方もそうか。
とにかく、基本的には結界を張れば問題なくハウス栽培っぽい事ができそうだなと言うのはわかったから、後は一番重要な温度管理に関してだ。
「とりあえず、一応ハウス栽培が上手くいっているようなので安心しました……」
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