第776話 なんとかなった説明と帰還報告
フィネさんへの説明中だけど、姉さんはヒルダさんによって部屋の隅で正座をさせられてお説教中……仮にも女王陛下である人物が、気軽に男性の部屋へ勢いよく入るのは……とか言われている。
無理したら誤魔化せた可能性のある先程と違って、姉さんの登場で決定的になってしまったので、それも含めてだ。
英雄だなんだと言われていても、一国の主である女王様が愛称で呼びながら、機嫌良く部屋に飛び込んで来るなんて、通常じゃあり得ないからね。
「リクさんと陛下は、昔からの知り合いで……本人達は姉弟のような関係と思っているみたいだから、お互い気安い関係なのよ。もちろん、公の場では表に出さないようにしているわ。さっきは、ちょっと油断したみたいだけど……」
「成る程……そういう事でしたか。兄弟のような関係……女王陛下にも気安い間柄の人物、それがリク様となれば納得がいきます」
「……納得できるんだ」
なんて、モニカさんが考えてくれた説明で納得してくれた。
魂だの記憶だのはともかく、血が繋がっているわけじゃないので、姉弟のような関係……というのは確かにその通りだし、気安い関係というのも姉さんを見ていればわかるから、かな。
まぁ、俺も油断して姉さんと口走ったのも悪いけど……もっと気を付けないと。
とりあえず、フィネさんが納得してくれて、姉さんの足が痺れて正座を維持できなくなって説教は終了となった――。
「そういえば、エフライムやレナはどうしてる? レナなんて、俺が戻って来たらすぐに部屋まで来そうなのに……」
「エフライムは、まだ忙しそうにしているわ。シュタウヴィンヴァー子爵……クレメン子爵から連絡があってね。エフライムにはまだまだ学べる事があるだろうから、王城で主に文官達の仕事ぶりを見て勉強しろとお達しがあったようなの。まぁ、私を含めて許可が取れたら、というのもあったようだけど」
「あぁ、まぁ……子爵領から離れて結構経つからね。本来ならエフライムも戻ってもおかしくなかったかぁ」
「そうよ。りっくんもそれなりの間、ここを留守にしていたから。あ、そうそう。レナーテは子爵領に戻ったわ。まぁ、現子爵の孫がどちらもずっと領内を離れているわけにもいかなかったみたい。……りっくん帰って来るまで、戻らないって泣いていたけど。罪作りね……?」
エフライムは勉強のためまだ王城にいるけど、レナは子爵領に帰ったのか……ちょっと王城を離れ過ぎていたみたいだ。
クレメン子爵の正式な跡取りだから、エフライムにはいい機会とここで色々と学んで欲しいんだろう。
……エフライムがいる事で、子爵領との連絡が取りやすいというのもありそうだけど。
でも、レナが戻ったのなら当然メイさんもいないわけで……ちょっとあの破天荒で、本当にメイドとか教育係としていいのか疑問な人を見れないとなると、寂しいような気も……しないかな、うん。
懐いてくれていたから、レナと会えないのはちょっと寂しいけどね。
「罪、なのかなぁ。まぁ、懐かれていたのは確かだけど……」
なんて呟いたら、レナを知らないフィネさん以外から溜め息を吐かれたけど……なんでだろう?
「あと、リク様。ヴェンツェル様とフィリーナ様も、帰還しております。ただ、本日はお休みになられるとの事です。リク様がお戻りになられるとわかっていたら、待っておられたのでしょうけど……」
「わかりました。まぁ、いつ帰るか、はっきりとは言っていませんでしたからね。ある程度日程は自由にしていたので、仕方ないですよ。えっと、捕まえた人達は?」
「そちらは、ハーロルトが対応しているわ。まぁ、連れて帰る途中で、問題も発生したようだけど……」
「問題……? もしかして、ツヴァイ……かな……?」
ヒルダさんからの報告は、フィリーナ達が拘束した人達を連れて王城へ戻っていたとの事。
長旅だっただろうし、俺達のようにエルサで移動しているわけじゃないから、疲れを取るためにひとまずゆっくり休んで欲しい。
それとは別に、捕まえた人達はどうなているのか気になったので聞いてみると、姉さんが難しい表情で問題が起こったと……考えられるのは、ツヴァイが暴れたとかそういう事かなと思う。
ただ、魔法具も使って魔法は封じていたはずだし、ヴェンツェルさんやフィリーナもいるんだから、油断して逃したりなんてしそうにないけど……。
「そっちは、報告では確かエルフだったわね。そのツヴァイというエルフの方は問題ない……とは言えないけど、ちゃんと捕まえてハーロルトが見ているわ。そっちじゃなくて、もう一人の方よ。確か、魔力が尋常じゃない量を保有していたんだって?」
「あぁ、うん。こちら側に紛れ込んで、隙をついて逃げようとしたけど、モニカさんと追いかけて捕まえた男だね。そっちは、魔力自体は多くても魔法は使えないって言っていたから、特に問題はなさそうなんだけど……?」
逃げた男の方だったのか……ツヴァイ程ではなくとも、通常より多くの魔力を保有していたのは確かだ。
でも、魔法を使うんじゃなくて、その魔力は研究のため魔物の核に注がれる役割だったし、そっちはツヴァイみたいな問題を起こしそうにはないと思っていたんだけども。
こちらも、戦い慣れてはいても周囲は訓練された兵士で固められて、ヴェンツェルさんやフィリーナがいるのに、取り逃がすなんて事はあり得ないはず。
まさか、実は魔法が使えてそれで……というのも念のため魔法具を使って封じているから、無いと思うんだけどなぁ。
「……その男だけどね、王都への道中で死んだわ」
「は?」
「え、それはどういう……」
「逃げようと抵抗を続けて、斬った……とかでしょうか?」
姉さんの言葉に、にわかに静かになる皆。
一体何があったのかわからず、俺は間抜けな声を出し、モニカさんやソフィーも驚いている様子。
「いえ、道中は観念したのかおとなしいものだったそうよ。でも、急に苦しみだして……何かをする間もなく死んだ、とヴェンツェルからは報告されたわ」
「もしかして……仕込んだ毒が? でも、あれは取り除いたはず……」
苦しみ出して、という事は何かしらで仕込まれた毒が残っていて、それが原因でとかだろうか?
でも、歯に仕込んでいた毒は取り除いたはずだし、他の場所にも仕込んでいたとか?
いや、捕まえた時に隅々まで調べられているから、仕込まれていたら気付いていたはずだし……。
「詳しくはわからないわ。詳細に関しては明日、ヴェンツェルやフィリーナ達、目にした者達から報告されることになっているの。ただ、毒ではない事は確かだそうよ」
「毒じゃないのに……苦しんで……」
「実際に見たヴェンツェル達は、恐ろしい物を見た……といった雰囲気だったわね。もしかしたら、詳細を聞けば何かわかるかもしれないけど、見た人達は憔悴していたようだから……作戦行動から捕まえた者達の連行、疲れもたまっているだろうし、今日はすぐに休むように言ったの」
「そう、なんだね……」
色んな物や、事を見てきているはずのヴェンツェルさんやフィリーナが憔悴する程、っていうのは、相当な何かを見たんだろう……一体何が――。
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