第775話 王城への帰還



「降りるのだわー」


 王都上空を、少しだけ高度を上げて通過し、王城の中庭の直上で停止。

 ゆっくりと高度を下げて、地面に降りたら王城に到着だ……日が暮れる前には到着できたから、予想より少し早いね。


「お帰りなさいませ、リク様。他の皆様も」

「ただいま戻りました、ヒルダさん」


 着地したエルサから降り、小さくなって俺の頭にドッキングするのを受け止めていると、ヒルダさんが王城の中から出て来て迎えてくれた。

 エルサは目立つから、俺が戻って来たとわかってすぐに来てくれたんだろう、ありがたい。


「そちらの方は?」

「あぁ、こちらはフィネさんで……」


 見慣れないフィネさんに気付いたヒルダさんに紹介しつつ、王城の中へ入って宛がわれている部屋へと向かう。

 なんというか、最初は緊張したり不慣れだったけど、もう勝手知ったるとまで行かなくとも、かなり王城に慣れたもんだなぁ。

 王族どころか貴族でもないし、城勤めでもないのに王城に慣れる冒険者って……とは思わなくもない。

 あと、アメリさんの時と同じく、フィネさんも王城に直接エルサで降りる事に対して、驚くかと思ったけどそうでもなかったみたいだ。

 フランクさんが知っていたし、王都にいる時何度かエルサが飛ぶのを見かけていたからだそうだ……もう少し、高く飛んで見られないように気を付けた方がいいのかも?



「どうぞ……」

「ありがとうございます。……やっぱり、ヒルダさんの淹れてくれたお茶は、落ち着くなぁ」

「私はリクさんが淹れてくれたお茶も好きよ? もちろん、このお茶も美味しくて好きだけどね」

「ありがとうございます、恐縮です」


 部屋に戻った後は、皆でソファーに腰かけてヒルダさんの出してくれたお茶を飲んで一息。

 モニカさんは俺の淹れたお茶も好きだと言ってくれるけど、ヒルダさんの淹れてくれたのと比べると雲泥の差だと思う。

 一応、聞きかじった知識で基礎的な部分は、少しできているとは思うけど……根本的にヒルダさんのとは味や香りだけじゃなく深みが違う……ような気がする。

 お茶に関して詳しくないからわかんないけど、茶葉が違うのかな?

 まぁ、人気とはいえ街の飲食店にあるお茶と、王城で出すお茶の茶葉が同じなわけないか……俺が淹れるお茶は、マリーさんが買っていた物だし。


「ヒルダさん、姉さんは……まだ仕事中ですよね?」

「はい、執務中となっております。リク様がお戻りになられた事は、伝えるようにしております。何か伝える事がございましたか?」


 まだ夕食にも早い頃合いだから、仕事をしているのは当然か……女王様だし、やる事多くて大変だろうからね。

 特に急いで話さないといけないわけでもないから、伝言を頼まなくても大丈夫。


「あーいえ、戻って来たなら報告をと思ったくらいです。急ぐわけじゃないので、また後でも構いません。……どうせ、夕食の時にでも来るんでしょうし」

「リク様が戻って来られるのを、心待ちにしておりましたから」

「ははは、どうせまたこの部屋に入り込んでぐで~っとしながら、だったんでしょう?」

「さすがリク様。陛下の事をよくご存じで」


 ヒルダさんに褒められるけど、あまり嬉しくないなぁ……昔はよく見ていた光景だし、女王様になってからもそれは変わらなかったから。

 とそこで、フィネさんが不思議そうにしながら首を傾げているのを見つけた。

 どうしたんだろう?


「……リク様には、姉上がいらっしゃったのですか? 子爵様からもそうですが、噂でもそういう話は聞きませんでしたけど……でも、ヒルダさんが陛下って……」

「あ」

「リクさん、油断したわね……」

「時折、言い間違えそうになっていたくらいだからな。まぁ、戻って来て気が抜けたのだろう」

「……申し訳ありません、リク様。フィネ様がいらっしゃられるのに、私が思わず陛下と言ったばかりに……」


 フィネさんが気になっていたのは、俺が姉さんと呼んだ相手の事……近しい一部の人にしか、姉さんの事は教えていないのに、部屋に戻って緩んだ傍から出てしまった。

 これまでは言い間違えそうになっても、なんとか誤魔化せてたのになぁ……モニカさんからの言葉で、あまり上手くは誤魔化せてなかったようにも思えるけど、それは気にしない。

 ヒルダさんが頭を下げて謝るが、悪いのは油断した俺で、ヒルダさんが責められる事じゃない。

 姉さんの話をヒルダさんに振ったんだから、向こうは陛下と言うしかないからね。


「ほっほ、常に気を張り詰めておるよりは、いい事じゃ。張り詰めるだけじゃと、いつか切れてしまうからの。……さて、ワシはもう出るとするか。リク達と違って、常に宿が用意されているわけでもないからの。酒でも飲んでのんびり探すわい」

「お爺ちゃん、私も行くの」

「大丈夫じゃ、心配されるような事はせんよ。……たまには、ワシだって一人でゆっくり過ごしたん事もあるんじゃ」

「あ、エアラハールさん、トラブルには気を付けて下さい。それと、今回の同行ありがとうございました!」

「うむ。それぞれいい経験になったようじゃの……また近いうちに見てやるわい。まぁ、数日は休んでのんびりしておく事じゃの。自己鍛錬は、欠かすでないぞ」


 ヒルダさんへのフォローと、フィネさんにどう説明しようか悩んでいると、エアラハールさんが立ちあがって部屋を出ようとする。

 ユノが追いかけようとしたけど、さすがに王都でも常に一緒にいるのは嫌なようで、トラブルを起こさないと約束して出て行った。

 まぁ、見た目が小さい女の子なユノを連れて、お酒を飲みに行く事も難しいか……ブハギムノングなら、酒場くらいしか食事処がないから仕方ないけど。

 宿を探すと言うのも、早くお酒を飲むための方便な気がする。

 ともあれ、エアラハールさんはトラブルを起こさないと信じる事にして、まずはフィネさんに姉さんの事をどう説明するかなんとか誤魔化すか……なんて考えていたら……。


「りっくーん! お帰り! りっくんが帰ってきたって聞いたから、急いで仕事を片付けて来たわ!」

「……りっくん?」


 こんな風に、姉さんが部屋に飛び込んできたもんだから、説明せざるを得なくなってしまった、というのもある……はぁ……。



「な、成る程……つまりリク様はこの国の王子様でもある……と?」

「いや、そういうんじゃなくて……なんというか……」


 フィネさんは直接会った事はなくとも、姉さんの顔を知っているので、部屋に飛び込んできた姉さんが女王陛下だというのはすぐに気付かれた。

 当然ながら、もう誤魔化す事はできないので説明しなければいけないんだけど、一応別の世界からという話はせず、姉弟だっていう話をしたんだけど……死に別れとか魂が世界間を移動してとか、そういう部分を一切言わないようにすると、説明が難し過ぎる。

 これまで一緒に行動して、フィネさんは信用できる人だというのは皆同一の意見なんだけど……異世界がどうのという話は、あまり多くの人が知らない方がいいとなって、その部分を省いて説明するのに四苦八苦する事となった――。



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