第774話 鉱山はもう大丈夫
「ロッホゴブリンは、いつの間にか入り込み、いつの間にか数を増やしているので、見つけたらさっさと倒さないと溢れる程になります」
「以前から時折、この鉱山内でも確認されていました。今のように、何事もなく倒して終わる事が多いですね」
「ベルンタさんに聞いた通り、冒険者に頼らなくてもあれくらいなら、鉱夫さん達でなんとかできるようですね」
今回はロッホゴブリンという、なりたての冒険者でも何とかできそうな魔物だったけど、鉱夫さん達の様子を見るに、少しくらいなら強い魔物が出ても問題なさそうだ。
ツルハシとか、武器として使っても攻撃力高そうだからなぁ……。
この様子を見て、ベルンタさんが言っていた、ブハギムノングに冒険者に対する依頼が少ない理由が深く納得できた。
爆発さえしなければ、エクスブロジオンオーガだって倒せたみたいだし、ここは問題なさそうだね。
とりあえず、魔物達の処理を始めた鉱夫さん達に挨拶だけはして、内部の調査を続ける事にした――。
「ソフィー達も、エクスブロジオンオーガは発見できなかったんだね?」
「あぁ。ロッホゴブリンだったか……他にも鉱山で以前から見かけた魔物が、数体程いたようだが、それだけだな」
「案内してくれた人も、調べていない所は全て回ったって言っていたし、これで完全にエクスブロジオンオーガがいない事が確定したと思っていいかな」
「そうじゃのう……何度も確認にしているのじゃから、もう問題ないじゃろう。まだ他に隠された場所があればわからんが……そこまで詳しく調べるのは、リクのやる事ではないからの」
「まぁ、そうですね」
鉱山を調べ終わり、フォルガットさんに報告した後ソフィー達と合流して、夕食の時間。
お互いに鉱山の中での事を話し合って、エクスブロジオンオーガはもういないという結論になった。
さすがに隠された場所を探すまでは、エアラハールさんの言う通り俺達のやる事じゃないので、これで鉱山の様子見は終了だ。
魔物への対処はともかく、見つかっていない場所などはこの街の人達に任せればいいからね。
爆発する魔物とかでない限りは、この街の鉱夫さん達でなんとかできるだろうし。
「ところでリクさん? お昼にも気になっていたんだけど……あれって?」
「リク様の名前が書かれていますね」
「前衛的なの!」
「あー……あははは……」
「……」
「もう、あんなことはコリゴリなのだわ……」
「ほっほっほ、英雄様もたまには暴れたい事もあるじゃろうて」
食事中、ポツリと漏らしたモニカさんに、フィネさんとユノが酒場の端の方を見る。
ブハギムノングに来た際には、いつもこの酒場で食事をするようにしていたから、俺が壊したテーブルに気付かれてしまった……迷惑をかけたお詫びに、せめて食事をしてと思ったんだけどね。
一応、その時の事はモニカさん達には説明してあるんだけど、壊れたテーブルを見てはいなかったので、苦笑しながら話すと納得して頷かれた。
でもソフィー……? 何も言わずに視線を逸らすのは、申し訳なく思うから止めて欲しい……。
あとユノ、あれは芸術品じゃないしから……エアラハールさん、英雄だとかは関係なくテーブルを壊す程暴れちゃいけないと思います。
なぜかフィネさんだけは、感心するように壊れたテーブルを見つめて仕切りに頷いていた……感心する物じゃないからね?
ちなみにそのテーブルなんだけど、縄で仕切りがしてあり、時折お客さんがその前に行って拝んでいたりと、本当に店主さんの言う通り宣伝になっている様子だった。
本人が近くにいるのに、壊れたテーブルを見て拝まれたりするのは微妙な気分になると思うんだ……。
―――――――――――――――
翌日、フォルガットさん、ベルンタさん、ガッケルさんにも挨拶をして、ブハギムノングを離れる。
街を出ようとする頃には、鉱夫さん達が鉱山の中からクォンツァイタを運び出しているのを、ちらほらと見かけるようになったから、産出量はかなり多くて問題はなさそうだった。
「それじゃ……まずはルジナウムによってノイッシュさんに、ベルンタさんの話をして、王都へ向かおう」
「今日中に王城へ到着できるわね」
「うん。俺は一度報告に戻ったけど、結構久しぶりの王都だね。エルサ、頼んだよ」
「了解したのだわー」
エルサの背中に荷物を持って乗り込み、一旦ルジナウムに向かって移動を開始する。
ソフィーだけでなく、エアラハールさんも高く飛び過ぎたり速度を出し過ぎたりするのに、怯える様子を見せたので、慣らすようにゆっくりだ。
まぁ、モニカさんの言うように今日中に王城へ到着できればいいから、急ぐ必要はないし、のんびり移動したらいいかな。
ルジナウムに到着後は、冒険者ギルドに行ってノイッシュさんと話、ちょっとだけ街の様子を見ながら昼食。
冒険者ギルドには、フランクさんがいなかったのでノイッシュさんにフィネさんを同行してもらっている事を、改めて伝言するように頼んでおいた。
フランクさんがいなかったのはコルネリウスさん関連らしく、ノイッシュさんには詳細を伝えていないようだったけど、コルネリウスさんの名前を出せばもし俺が来た時に納得するからと、いない場合の伝言を頼まれていたとの事。
息子に関する事で冒険者ギルドには関係ないし、身内の恥のように思えてノイッシュさんには伝えていないんだろう。
「コルネリウス様、昔に戻って下さればいいんですけど……」
なんて、ルジナウムから出る時に呟いたフィネさんが、少し印象的だった。
わがままになるよう仕向けて、吹き込んだ使用人さんというのがいなくなれば、フランクさんが厳しくする事である程度はまともになって……くれるといいなぁ、と思う。
人間、すぐに性格や考え方を変えられない……と思う反面、何かのきっかけで変われる事もあるから、これからに期待しておこう。
「……野営地は、撤去したみたいだね」
「そうね。私達が離れる前にも、既に半分以上物がなくなっていたし、調査するにしても建物から離れているから」
「建物の中でも、十分に寝泊まりできるようだったからな。魔物が近寄って来る可能性はあるが、訓練された者達なのだから、大丈夫だろう。川も近いしな」
「泊まり込みで調査をする依頼も、屋た事がありますけど……寝泊まりする場所と、調査する場所が離れていると面倒なんですよね」
「まぁ、最小限の人数に減らすって言ってたし、大丈夫だろうね。マルクスさんもいるんだし」
ルジナウムを離れた後は、王都に向かって飛んで移動しているんだけど、途中で野営地の上空を通過して様子を見たら、数百人が寝泊まりしていた野営地には何もなくなっていた。
王都に拘束した人達を連行した兵士さん達も多いし、調査をするための人員を残して段階的に、残る兵士さんを減らすと聞いたから、皆建物の方へ移動したんだろう。
建物自体はそこまで広くないけど、川付近でも野営はできるし、もし困ったら地下施設も使えるからね……ガラスの破片が散らばっていたりしたから、片付ける必要はあるけど。
野営地の様子を眺めながら通過した後は、何事もなく王都へ……今回は誰かが魔物に襲われたりしている事もなく、すんなり遠目に王城の大きな姿が見え始めた。
……誰かが魔物に襲われていたりする場面に遭遇なんて、早々ないよね――。
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