第773話 鉱山内の様子見
鉱山探索、俺達の担当は西側で、モリーツさんがいた場所も含まれている。
ソフィー達の方は、エアラハールさんとユノと、もしもの際に備えてエルサを連れて行ってもらう……エクスブロジオンオーガが出た場合、結界を使わなきゃいけないからだね。
俺の方はモニカさんとフィネさんに、案内してくれる男性……これまた、元々鉱夫をやっていたらしく、フォルガットさん程ではないけど大柄だ。
別け方としては、鉱山に入った事のあるソフィーとエアラハールさん、それと見張りのユノを向こうに配置して、こちらは慣れていないモニカさんとフィネさん。
慣れているソフィーとエアラハールさんを一緒にしたのは、東側の方が調べていない範囲が広いためで、西側よりも魔物との遭遇率が高いと思われたからだ。
俺の方は、モリーツさんのいた場所も含めて、一度見た事の会う場所が多いので、不慣れなモニカさんとフィネさんとなった。
まぁ、フィネさんは鉱山というか、洞窟の探索とかはやった事があるらしいけど。
「鉱山というのは初めてですけど、明かりがあるだけで内部の探索が大分楽になりますね」
「フィネさんが行った事のある洞窟っていうのは、明かりがなかったんですか?」
「自然にできた物が多いですからね。暗くても問題ない魔物も多いですし……誰かが整備した場所なら、明かりが備え付けられていたりもするんですけど。でも、それはその洞窟に有用な何かがある場合くらいですね」
「洞窟に住む魔物の素材だったり、何かしらの効果がある苔とか、暗い場所で育つ植物用とか……以前父さんに聞いた事がるわ」
「何もないような洞窟だと、放っておかれたりしていますから。誰も入らない、何もない洞窟で明かりを維持する意味はありませんし……おかげで、時折魔物が発生したりして、討伐依頼が出されるんです」
「成る程ね……洞窟に発生した、もしくは棲み付いた魔物がいたら、いずれ増えて外に出て来るから……って事ですね」
暗い場所を照らすための明かりは、場所にもよるけど松明ではなく魔法具だ。
空気の流れがほとんどない場所で、火を焚いてというのは危険だからね……当然ながら、魔法具を取り付けるにもお金がかかるから、早い話が維持費をかける価値があるかどうかって事。
鉱山のように鉱石が産出されるならいいんだろうけど、何もない洞窟で収入が見込めない場所に、お金を使う程無駄な事はないからね。
まぁ、魔物が増えないようにする管理するなら、意味もあるんだろうけど、それも結局お金や人手が必要だから……収入源がなければ常に見張っているのも難しい。
だから、定期的に魔物が発生した際には対処療法のように、冒険者を派遣して魔物を討伐してもらう、としているみたいだ。
費用も抑えられて、冒険者は報酬がもらえてと、それなりに成り立っているらしい。
そんな風に、フィネさんにこれまでの経験を聞きながら、鉱山の中を調べて回る。
途中、鉱夫さん達が採掘する現場があったり、遠くから採掘する音や人の声が聞こえたりと、エクスブロジオンオーガがいた時とは違って、それなりに活気がある。
シーンとしている薄暗い場所を、ひたすら魔物がいるか調べるよりもいいね。
「ここが、隠し通路だったのね……?」
「うん。今は偽装していた岩もなくなっているから、隠れていないけど」
「こちらは、これから整備されて奥の採掘をするための、資材置き場にする事になりました」
「へー、そうなんですね」
イオスが使っていたと思われる、モリーツさんのいた場所に繋がる通路は、偽装していた岩がないため整備されていない普通の通路になっている。
モニカさんが珍しそうに周囲を見回したり、中を覗き込んだりしているのを見ながら説明していると、案内してくれている男性から、これからの用途を教えられた。
かなり広い場所だったから、ちゃんと整備して使えば有効に活用できそうだね。
「こっちの通路じゃなくて、エクスブロジオンオーガが移動に使っていた方の、穴はどうするんですか?」
「あちらは、両側の穴を塞いでおこうかと。余裕があれば広げて通路にする事も考えられましたが、今はリク様がもたらしてくれたクォンツァイタの方が重要ですから」
「いや、あれは俺がもたらしたわけじゃないんですけどね……」
「今まで捨てていたなんの価値もない鉱石を、価値があると見出したのですから、もたらしたのと同義と考えています。あぁ、穴の方はいずれ手が空いた者達で、ちゃんとした通路にするように計画しております」
「そ、そうですか……」
「リク様は、やはり色んな場所で色んな人達を助けているんですね」
フィネさん、そんな尊敬したような目で見られても……クォンツァイタに関しては、俺じゃなくてアルネの鉱石が大きい思うんだけどなぁ。
微妙な感じで苦笑するだけにして、とりあえずモリーツさんのいた広場へと向かう。
広場は散らばっていたガラスが片付けられ、通路とかを補修するための木材などが運び込まれていて、着々と準備が進められているんだなと感じられた。
ちなみに、モリーツさんが使っていたと思われる小部屋もチラッと覗いたけど、そこは現状手つかずに近い状態だった……作業をする人の休憩所代わりに使われる予定らしい。
例の悪臭を放つ壺は、既に撤去されていた……あれを運んだ人は大変だっただろうなぁ。
「ん? 何か遠くから聞こえるような……?」
「確かに、聞こえるわね」
「何か叫んでいるような……争っているような声にも聞こえます」
「採掘している者達が、喧嘩でもしているのでしょうか? 血の気の多い人達が多いですから……」
広場を確認した後、さらに別の場所を案内されながら調査をしていると、向かっている通路の先から複数の人の声が聞こえてきた。
叫び声には、少しだけ切羽詰まっているにも感じられる。
喧嘩だとしても、こんなところでしないように注意しなきゃいけないし、一度皆で顔を見合わせてから、声が聞こえる方へと向かった。
「そっちに行ったぞー!」
「任せろ! そりゃー!」
「これくらい、俺達にかかりゃなんて事ねぇ!」
「リク様に助けを求めるまでもねぇな!」
「えっと……?」
声が聞こえた場所に辿り着くと、数人の鉱夫さん達が採掘に使うだろう道具を振り回して、何かと戦っていた。
それぞれが威勢のいい事を言って、道具を振り下ろすたびに、人間の物ではないとはっきりわかる悲鳴が……魔物の声だね。
よく見てみると、数人の鉱夫さん達は二体の魔物を囲んでいた……あれは、ゴブリンかな? 見た事のあるゴブリンより、黒く見えるけど。
「あれは、ロッホゴブリンですね。鉱山や洞窟など、穴の中を好んで棲み付く魔物です。通常のゴブリンよりも黒く見えるだけで、能力は変わりません」
「ロッホゴブリンですかぁ。まぁ、エクスブロジオンオーガみたいに、肌が赤くなって爆発しなければ、任せても良さそうですね……って、話している間に片付いたみたい」
フィネさんの説明に頷き、ロッホゴブリンを見る。
確かに、通常のゴブリンとの違いは色だけで、動きが特別素早いとか、力が強いとかはなさそうだ。
観察しているうちに、鉱夫さんが振り下ろしたツルハシを受けて、倒れるロッホゴブリン……見る限り、立っているロッホゴブリンはいないみたいなので、被害もなく終わったようだ――。
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