第768話 ルジナウムでもキューの値上がりを確認



「多分、それもあるんだろうけど……リクさんがルジナウムを救ったって事が、大きい気がするわよ?」

「俺が? えーと、それはもしかして……」

「えぇ。リクさんがキューを買い求める事が多いのは、街ではよく知られた事みたい。だから、真似をしてキューを……と、王都と同じ事が起こっているわね」

「そ、そうなんだ……うーん……」


 まぁ、ルジナウムに来るたびに、エルサのおやつ補充のために買っていたからなぁ……魔物の襲撃を何とかした事で、ほとんどの人が俺を知っているようだし、エルサも連れているからわりやすい。

 さっきだって、キューを買う時に店主さんが無料にしたり割引しようとしてくれたくらいだ……お金には困っていないから、ちゃんと定価で買ったけど。

 値段が上がっているという事は、仕入れにかかるお金も上がっているだろうし、損をさせるわけにはいかないからね。


「まぁ、こればっかりは仕方ないわ。行き過ぎると困る人が増えるかもしれないけど、深く考えないようにしていた方がいいのと思うわよ?」

「そうなんだろうけどね……俺のせいで、色んな場所で影響が出ているなぁと……」

「でもその分、ヘルサルに使える農地を作れるようにしたりと、悪い事ばかりじゃないわ。今すぐは買う人が多くて足りなくなっていても、後々には行き渡るようになるでしょうから。陛下も、力を入れているのだから大丈夫よ」

「うん、すぐに気にしないでおくというのは難しいかもしれないけど、気にし過ぎないようにしておくよ」

「そうそう。英雄様なんだから、これくらいの影響はあって当然って構えておけばいいのよ」

「ははは、さすがにそこまで簡単には考えられないけど、ありがとう、モニカさん」

「ど、どういたしまして……」

「……リク、キューが……キューが欲しいのだわ……」


 モニカさんに励まされて、考え過ぎないように気持ちを切り替える。

 キューが足りなくなるような事は、今のところないようだし、俺の影響であってもいずれ皆忘れるだろうからね。

 農地を増やすとか、キューを増産する対応はしているのだから、高騰も一時的な事だと思っておこう……一般の人が買えないようなくらい高くなったり、そもそもに物がなくて買えなかったりするようにはならないだろうから。

 買えなくなったら、エルサが暴走しそうだしなぁ。


 ともかく、気にしないように言ってくれたモニカさんにお礼を言い、照れている姿を見ながら寂しそうに呟いているエルサに、勝ったばかりのキューを二本程あげておいた。

 買ってすぐ食べられると期待していたみたいなのに、俺がモニカさんとの話に集中して、頭を手でペシペシ叩くのを無視していたからね……ごめん。



 キューは別腹だと豪語するエルサはともかく、買い物をしているうちに完全に日が落ちて、空腹を思い出したので、夕食を食べるために適当なお店を選んで皆で食べる。

 久々に皆が揃った食事だなぁ……と思いながらも、どうせなら同行する事になったフィネさんもいたら良かったのに、なんて考えながら夕食を済ませて、宿へ戻った。

 久々にベッドで寝られるし、今日はぐっすり眠れそうだね。

 明日の朝はブハギムノングへ行って様子を窺って……と予定を考えながら、用意をしてエルサを連れてお風呂場へ。


 戻って来た時、宿の人に伝えて男性用の方を貸し切りにしておいたから、じっくりエルサを洗ってやれる……汚れでエルサのモフモフが損なわれてしまったらいけないから。

 俺も、久しぶりに湯船に浸かりたいのもある。


「……リク、キューを食べるの、減らした方がいいのだわ?」

「いきなりどうしたんだエルサ? 確かにちょっと食べ過ぎかなと思う事はあるけど、減らして欲しいとは考えてないよ?」

「でも、さっきモニカと話していたのだわ。お金の事はよくわからないけどだわ、でも、高くなっているのだわ? 人間は、お金がないと生きていけないのだわ」

「確かに高くなっているけど、お金がないと生きていけないって……間違っているとは言えないけど、極端な気もするね……」


 一体どこでそんな事を覚えたのか……俺の記憶や、長い間生きて人間を見て来たからなんだろうけど。

 でも、エルサが食べるキューを減らさなきゃいけない程、貧乏しているわけじゃないし、褒賞金だなんだでむしろ使い道に困るくらいだから、大丈夫だ。

 もしかしたら、エルサは以前にも近い事を考えていたけど、自分が大量にキューを食べるから、不足して高騰しているのかもと思ったのかもね。

 まぁ、一人分どころか、一食で十人分以上も食べるから絶対ないとは言えないけど……しかもそれとは別におやつでも食べているし。


「でも、エルサが原因というわけじゃないから大丈夫。それに、そのためにキューを多く作ろうとしている所だから、なんとかなるよ。お金に困る事もなさそうだ」

「それなら良かったのだわ。もっといっぱいキューを食べるのだわ~」

「まぁ……程々に……でもエルサ、これからエルサに頼んで色んな場所に行く事になるかもしれないけど、その時は頼むぞ?」

「キューのためなら、どこへだって飛んで行くのだわー」


 現金なもので、問題ないとわかったらすぐに元気を取り戻したエルサ。

 あれだけ大量に食べても飽きない程の好物なのだから、ちょっとした事で不安になる程キューに対してナイーブになっているのかもしれないな。

 なんにせよ、クォンツァイタの研究が進んで、各地で結界を使ったハウス栽培ができるようになったら、俺が直接出向く必要があるだろうし、エルサには飛び回ってもらわなきゃいけないだろうから、ちょっと大変だ。

 エルサは、キューのためならと喜んで引き受ける……でも、全部の農地でキューを作るわけじゃないんだけど、まぁいいか。



 風呂から上がれば、部屋に戻ってドライヤーもどきの魔法でエルサの毛を乾かす作業。

 これを怠ると、至高のモフモフが至上のモフモフになってしまうので、気を付けないと。

 ……どんな違いがあるかは、風呂上がりのぼんやりした頭で考えているので、よくわからない。


「ふわぁ~、やっぱりこれがないと始まらないのだわ~」

「いや、毛を乾かしているだけだから、何かが始まるのは困るんだけどな?」


 むしろこれから寝るところだ、何かが始まるわけがない。


「私の中では、始まるのだわ~……くぅ……すぅ……だわぁ」

「相変わらず寝つきがいいなぁ。それだけ気持ち良くなってくれたんだろう」


 喋りながら、俺の手から出る魔法の風を受けてコテンと横に倒れて寝てしまうエルサ。

 いつもの事だけど、体が倒れても起きないくらい、一瞬で深い眠りに入れるのは凄いと思う……ドラゴンとしてそれが正しいのかはわからないけどね。


「さて、俺も寝ようかな……」


 エルサをベッドに運び、隣で横になって目を閉じる。

 乾かしたばかりのエルサの毛は、相変わらず至高のモフモフを感じさせてくれて、それだけで気持ちの良い眠りへと誘われて行った。



――――――――――――――



 翌日、数日ぶりにちゃんとしたベッドで寝られたから、疲れも取れてさっぱりとした目覚め。

 朝の支度を終えて皆と合流しようと、荷物を持って部屋を出る。

 合流した後は、朝食を食べてエルサに乗って……と考えていたら、宿屋のロビーでフィネさんが待っていた――。



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