第762話 例外の可能性
ユノの言い分を信じるなら、この世界で生まれた以上、人間がエルフ以上の魔力量になる事はない。
例外として、俺のように異世界で偶然魔力量が多い人間がこの世界に来る事くらい、と。
だとしたら……ツヴァイに魔力を与えたのは、同じエルフで魔力量の多い者か、それとも別の種族なのか……。
「エルフでツヴァイより多く魔力を持っていて……という可能性が一番高いか?」
「微妙なの。高いからといっても、それだけでリクが言うような魔力量になるかは怪しいの。……実際に見ていないから何とも言えないけど、エルフの魔力に別のエルフの魔力を足しても、大した事はなさそうなの。調節はできるけど、基本的には多い分の魔力くらいしか与えられないの」
「ふむ……」
ツヴァイが十の魔力を持っていたとして、魔力を与えた人物が二十の魔力を持っていると仮定。
そうすると、二人の魔力差である十の魔力が与えられるという法則らしいけど、それだけで簡単に可視化された魔力を滲みだすようにはできないかもしれないという事か。
これなら、ユノにも研究施設制圧を手伝ってもらって、実際にツヴァイを見てもらった方が話が早かったか……いや、エアラハールさんの見張りと考えたら、ユノを残しておくのが一番だったんだろうけどね。
「数人のエルフを合わせればできなくもないけど、多数の魔力を与える事はできないの」
「だとしたら、エルフ以上に魔力がある種族とかから、って事か?」
「かもしれないの。でも、エルフ以上に魔力があって、分け与えるくらい繊細な事ができる知識がある種族なんていないの。魔力だけなら、魔物にいるけどなの」
「うーん……だとすると、与えた人物は俺みたいな例外の可能性があるか……」
「一つの可能性としてなの。もしかしたら、別の可能性もあるの……でも、そっちの方が可能性は低いから……」
「別の可能性?」
「今は、言えないの。というより、私からは言えないの。そうだとして、判明したら話せるの……」
「そうか……やっぱり、なにかしらの制約みたいなのはあるんだな」
「制約というより、わかっているんだけどわからない、と言うのが正しいかもしれないの。確実にその事を知っている感覚があるのだけど、それを話すための言葉が出て来ないの。多分、人間とほぼ同じ状態になったからで、元々の部分との少しだけ繋がっているだけだからだと思うの」
制約というか、繋がりが希薄だからよくわからないって事かな? さっきも考えたように、何かしらの情報を持って話せば、その繋がりから話せるようになる……のかもしれない。
ちなみに、さすがにモニカさん達には詳しく聞かせられない部分なので、途中から小声で話している。
まぁ、あっちはエアラハールさんが大分回復して、手を伸ばそうとしていたり、それをソフィーが止めたりとしているから、こっちの話は聞いていない様子ではあるけど、一応ね。
ユノに関しては、そろそろ姉さん以外にも伝えてもいいと思うんだけど、まぁ、そこは落ち着いてからちゃんと話せばいいかな。
「だったら、魔力を与えた人物と言うのが誰かわかればってとこだね。まぁ、すぐにはわかりそうにもないけど……」
「あくまで、かなり低い可能性として、なの。今わかっているだけだと、リクのような例外の可能性が一番高いの。それか、メアリのような場合かもなの」
「……姉さん? あぁ、この世界で改めて生まれ変わって……って事か」
「そうなの。これまでも今も、そういうのが何人かいるの。でも、この世界に生まれている以上、リクのように異常な魔力を持ち込む事はできないの。それでも、ツヴァイに魔力を与えて……と言うくらいはできると思うけど。というより、リク程異常な魔力があるのは地球でも珍しいの」
「異常って……まぁ、さすがに自分が膨大な魔力を持っているってのは、色々やって来てわかっているけども。ともかく、何かしらの理由で普通ではない魔力を持った人物がいるのは間違いないって事か」
「そういう事なの。多分、リクなら問題ないかもだけど、一応気を付けるの」
「あぁ、わかった。ありがとうユノ」
「どういたしましてなの……言いたいけど、もっとちゃんとした話ができれば良かったの……」
「構わないさ。こっちだって、まだ確実な情報がわかっているわけじゃないからな。気を付けておいた方がいいのがわかっただけでもいいさ」
「うー!」
気にするなという思いを込めて、ユノの頭を少しだけ強めに撫でる。
頭が揺れて変な声を出すユノ。
はっきりとした事が言えなくて、気にしている様子だけど……ユノがいたからわかった部分も多いから、それだけでもありがたい。
確定でなくとも、参考になる話だったし、フィリーナも知らなさそうな話だったから、王都に戻ったら話しておかないとね。
とりあえず、今回一番の収穫は、きっかけがあればユノに色々聞けるって事だな……神様としての知識を直接聞く事みたいなものだから、研究したり苦労して色々調べている人には申し訳ないけど。
……さすがに、なんでもかんでもユノ頼みで聞いて楽をするのは、控えようと思う。
「しかしリク……しばらく見ないうちに、少し逞しくなったかのう?」
「そうですか? まぁ、訓練というか、素振りは欠かさずやっていますからね」
エアラハールさんの呼吸が整い、ようやくルジナウムに入ってまずは宿屋に向かっている途中。
俺の体を観察するようにしながら言われて、ちょっと微妙な気分……逞しくなったと言われるのは嬉しいけど、お爺さんにジロジロ見られるのはね……。
「かかさずやっているのなら、そのうち成果が出るじゃろう。訓練の基本は、焦らず確実にこなす事じゃ。特に若いうちは焦ってしまうからのう」
「はい。成果に関しては、ルジナウムを襲ってきた魔物相手に、既に出てはいますけどね」
「そうじゃったのう。じゃが?」
「まぁ、まだ最善の一手はあれ以来使えていませんけど……」
「じゃろうの。ワシもあれを編み出すのに随分苦労したもんじゃ。それを、一年もかけずに自由に使えるようになられたら、たまったもんじゃないわい」
最善の一手は、剣の方向性の一つを極めた技とも言えるから、まだエアラハールさんから教えを受けて数カ月も経っていない俺には、使いこなせなくて当然か。
「……ユノは、簡単そうに使っていましたけど」
「……嬢ちゃんは……意味がわからん。ワシの全盛期と比べても、敵う気がせん。あの年頃でそこまでになれるのは、もはや武の神様としか言いようがないわい」
「あはははは……」
当たらずとも遠からず……かな?
神様と言うのは元であれ当たっているけど、武ではないはず……というより、ユノも含めてこの世界の神様にも役割というか、担当とかあるんだろうか?
そういえば、エルフ達が信奉しているらしい、アルセイスと言う神様もいるんだっけ……そのうちユノに話を聞いてみよう。
ユノは神様なんですとは言えず、とりあえずエアラハールさんには苦笑するだけで返しておいた――。
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