第761話 フィネさんは先に報告へ



「そういえば、エアラハールさんは?」

「お爺ちゃんは……あれ? 一緒に走っていたはずなのに……?」

「エアラハールさん、ユノちゃんに置いて行かれたのね」

「まぁ、ユノが駆けて来る速度は相当なものだった。高齢のエアラハールさんには、辛いだろう」


 ユノの事だから、俺達を見つけてすぐに駆け出しただろうというのは、簡単に想像できる。

 エアラハールさんがそれについて来ようとしたとしても……街から俺達の所までずっとあの速度だとしたら、お年を召したエアラハールさんには厳しいだろう。

 というより、体力が有り余ってそうなヴェンツェルさんでも不可能な気がする。

 とりあえず、エアラハールさんもこっちに向かっているらしいし、まずは合流して街に入ろうと考え、ユノを連れて歩き出した。


 後ろの方で、フィネさんがユノを見て「あの速度で? 街から? いったい……」なんて小さく呟いていたけど、ユノだからあまり気にし過ぎない方がいいと思う。

 一応、俺はユノが元神様だと知っているから、ある程度は納得しやすいけど、人間とほとんど変わらないと再会した時に聞いたはずなのに、人間離れし過ぎててあまり考えないようにしているから。

 ユノだから、でとりあえず無理矢理納得させていた方が……と歩きながらフィネさんに言ったら「それをリクさんが言うの?」なんてモニカさんに言われてソフィーも含めて苦笑されてしまった。

 うーん……俺もあまり変わらなかったか……。



「ひょっひょっひょ! 久しぶりじゃの、リク……ぜぇはぁ……」

「それなりに久しぶり、ですかね? エアラハールさん。でも、無理して平気なのを装わなくても……」


 街の門近くで、エアラハールさんと合流。

 ユノの速度について行こうとした代償と言えるのか、汗だくでかなりしんどそうだ……それなのに、平静を装って俺に声をかけてきた。

 すぐに耐えられなくなって荒い息を吐いていたけど……あまり無理はしないで欲しい。


「こ、これくらいの事で……はぁふぅ……だらしない姿は……はぁ……はぁ……」

「いや、ユノに付き合って走ったんですよね? あまり無理せず休んで下さい」


 強がるエアラハールさんだけど、息切れが激しくて我慢しきれていないし、我慢するところじゃないと思う。

 無理せず休んで欲しい……普段は飄々としている事が多いから、俺達にあまりそんな姿は見せたくないんだろうけど。


「すみません、フィネさん。俺達は少しだけ休んでいくので……」

「はい、子爵様には私から先に報告をしておきます。ギルドマスターには?」

「うーん……一応、少しくらいは教えておいてもいいと思いますが……その辺りはフランクさんお判断でお願いします。すみませんが、よろしくお願いします。俺達も、後から報告に行きますから」

「承知しました。……リク様、皆様。この度は私の同行を許して頂き、ありがとうございます。今回の事やリク様との模擬戦を通じて、この先も精進する事を。では!」

「はい、こちらこそ色々と参考になりました」

「楽しかったですよ、フィネさん。また今度、投擲の指南をしてもらえると嬉しいわ」

「あぁ、模擬戦ではそれなりにリクを驚かせていたからな。あれは有効な手段という事もわかった。またいずれ……」


 とりあえず、エアラハールさんを休ませてからルジナウムに行く事に決め、フィネさんには先に行ってもらうようお願いする。

 せっかくここまで迎えに来てくれたのに、置いていったりもできないからね。

 先にフィネさんから報告してもらった方がスムーズだろうし、ノイッシュさんにそのまま全てを伝える事はできないから、フランクさんに任せた方が良さそうだ。

 俺達から数歩前に出たフィネさんが、改めてお礼と一緒に頭を下げて、お互い声をかけあって別れる。


 まぁ、フランクさんの所に行けばまた会えるから、特に神妙になる事もないか。

 今回の同行は俺だけでなくモニカさん達も得る物が多かったようだから、フィネさんが協力してくれて良かったと思う。

 ルジナウムに向かって歩いて行くフィネさんに、皆で手を振って見送った。


「ふーん……そんな事があったんだー」

「あぁ。ヴェンツェルさん達と地下の施設に突入してな……」


 エアラハールさんが息を整える間に、ユノにこれまでの事を簡単に話す。

 あ、モニカさん、エアラハールさんが休みやすいようにするのはいいけど、あまり油断しない方が……息を整えながらも、視線はモニカさんを見ているから何をするかわかったもんじゃない……まぁ、ユノが剣に手をかけているのもわかっている様子だから、大丈夫だと思うけど。

 でもユノ、さすがに剣を使って止めるのは、エアラハールさんの命が危険で危ない気がするんだけど……ソフィーも見張っているから、大丈夫か。


「魔物の復元……魔力の譲渡……なの……」

「ん、何か思い当たる事があるのか、ユノ?」

「うーん……魔物の方は国によっての倫理観とかだから、私が何かを言う事はないの。でも、魔力の譲渡、というのが気になるの」

「倫理観かぁ……まぁ、そうだよね。命をどうのと考えたって、それが許されている国だってあってもおかしくないし……」


 俺はこの世界に来るまで、平和な日本で暮らしていたから命に関してもてあそんだり利用したり、という事に忌避感を感じるというのはあるんだろう。

 逆に、別の常識で育った人や国なら、忌避感を感じるどころか歓迎される研究の可能性だってある……この国では、姉さんが女王様という事も関係しているのか、禁止にされているけど。

 自分の常識は他人の非常識、という言葉もあるように、自分が正しいと思っている常識も人によっては考え方の違いとかで、非常識になってしまうというのは気を付けないとね。


「でも、魔力の譲渡の方はユノも気になるのか?」

「魔力を人に渡すという事は、当然相手よりも魔力量が多くなきゃいけないの。少ない魔力だと、対象者の魔力に取り込まれて終わりなだけだからなの。多くの魔力で相手の魔力を取り込んで渡す事で、与えられた人はその魔力を自分の者として活用できる……はずなの」

「フィリーナに聞かせたい情報だなぁ。つまり、ツヴァイに魔力を渡した相手は、それよりも多くの魔力を持っているって事か」

「そうなの」


 相手の魔力より多くの魔力を持っていないと……か。

 フィリーナと話していた時はそういう情報は出なかったけど、そんな事ができると知っていなかったんだから仕方がない。

 なんでそれをユノが知っているかというのもあるけど、多分元神様だった時の知識なんだろう。

 ユノは言わないけど、元とはいえ何かしら繋がりだとか制約があるみたいで、なんでもかんでも知っているとかではないんだけど……もしかして、きっかけになる情報を持ってきたら、その事に関しての知識がもらえる……みたいなことなのかもしれない、よくわからないけど。


「あれ? でも待てよ……ツヴァイはエルフだから、人間より魔力が多いはず……」

「そこなの。人間よりエルフの方が魔力量が多いというのは、種族に拘わる事なの。リクのような例外はあるけど……この世界で生まれた以上、その例外には当てはまらないの」



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