第758話 フィネさんとの模擬戦開始
ソフィーがフィネさんに何を言っているのかはっきりと聞こえないけど、ソフィーは一緒に行動している事が多いし、訓練だけでなく戦闘した時も俺を見ているから、助言できる事があるんだろうね……ちょっと怖い。
ともかく、フィネさんとの距離は数メートル……当然木剣は届かないけど、フィネさんは斧を投げるという手段があるから油断はできないか……。
ちなみにフィネさんが万全に整えておくというのは、武器の面でもそうだったようで、右手に小さめの手斧を持っている以外にも、両足にいつでも使えるようにそれぞれ一本ずつ、さらに背中に二本と、小さめの斧とはいっても重くないのかな? と思ってしまうくらい念を入れて武装している。
なんでも、斧に関しては十分な数を予備として常に持っているらしい。
投げてしまえば手元に戻らない可能性もあるから、当然か……戦闘中に回収なんて悠長な事もできないだろうからね。
今回はその予備も含めて使うようで、フィネさんのやる気が窺える。
一本だけならまだしも、計五本もあるんだから投擲は絶対にあると思っておいた方が良さそうだ。
ちなみに、エルサはソフィーに抱かれてスヤスヤと寝ていた……模擬戦には興味ないようだ。
「それじゃ二人共、これは模擬戦なんだからやり過ぎないように。……フィネさんは全力なんだなろうけど……」
「「……」」
俺達から少し離れて、戦闘に巻き込まれないくらいの位置でモニカさんが、俺とフィネさんに最後の注意。
一応、開始の合図だとか審判らしい事をやってくれるらしい。
槍を持っているのは、フィネさんの斧が飛んで来る可能性を考えてだろうか?
ともかく、モニカさんの言葉を聞きながらもフィネさんに向いた視線を外さないよう、戦う方面へ意識を集中させて頷いた。
「……始め!」
「……っ!」
「うぉ!?」
モニカさん手の代わりに槍を縦に振り、開始の合図。
それと同時に、フィネさんが弾かれたようにこちらへ向かいながら、持っていた斧を投擲!
いきなり投擲が来るとは……まずは軽く打ち合ってからとか悠長な事を考えていたんだけど……想像外で驚きながら、向かって来るフィネさんに備えるため、木剣で投げられた斧を叩き落す。
斧自体は、俺の顔面に真っ直ぐ向かって来たので落としやすかったけど……いきなりそこを狙うとは……フィネさんは本当に手加減をするつもりはないようだ。
「っ……せい!」
俺が斧を叩き落している間に、肉薄したフィネさんが背中に背負っていた斧の一本を持ち、そのまま頭上から振り下ろす!
「くっ!」
頭の中では、後ろに飛んで避けようと考えていたんだけど、思ったよりもフィネさんの淹れんの動きが速いのと、顔面に飛んで来ていた斧を落とす際に、一瞬だけ視界が塞がれたために反応が遅れたんだろう。
仕方なく振り下ろされる斧の柄の部分を木剣で受け止め、フィネさんの攻撃を防いだ……刃が目の前まで迫っていて、心臓に悪い。
できれば刃の部分を受け止めたかったけど、俺が持っているのはなんの変哲もない木剣だから、それで刃を受け止めたらフィネさんの勢いからすると、斬られたり叩き折られた可能性が高そうだったから。
柄の部分を受け止めてずっしりとした重さから、判断は正しかったのを認識する。
「瞬時にその判断をするとは……さすがですリク様! ですが!」
「ぐっ! っとと……斧だけじゃないんですね……」
フィネさんが褒めるように言っているのは、咄嗟に刃ではなく柄の部分を受け止めた事だろう。
やっぱり、小さくとも斧の重量はあるはずで、それを使って木剣を叩き折ったりするつもりだったようだ。
と、次の瞬間、フィネさんが斧を引いたと思ったらすぐにみぞおち辺りに、フィネさんの足が突き刺さった……正確には前蹴りされた、かな?
ちょっとだけ息が詰まりながらも、蹴られた勢いで少し後ろに下がり、斧が届かないくらいの距離を取る。
上から斧を振り下ろして注意を逸らしておいて、下から攻撃とは……いや、その前の投擲の時に視界を塞いだ事といい、考えられている戦い方だ。
やっぱり、戦い慣れているだけある。
「それじゃ、次はこっちか……」
「まだこれからです! っ!」
開始直後は先手を取られたけど、今度はこちらから……と思ってフィネさんに向かおうと思ったら、俺の声を遮ってさらにフィネさんが動く。
また投擲!? しかも今度は……三本!
「くっ! せい、はぁ! うぉ!?」
先程振り下ろした斧、さらに両足に取り付けられていた斧二本を連続で投擲するフィネさん。
先に俺へ向かって来た斧を木剣で叩き落とし、追撃とばかりに迫る二本の斧のうち一本を叩き落とすが、もう一本は間に合わない。
仕方なく体を大きく左横にずらして避ける……危ない危ない……。
多分、フィネさんの投げる斧に直撃しても、振り下ろすよりは威力が低いため、怪我をしたりはしないだろうけどそれでも当たるのは嫌だ。
特に細かいルールは決めていないとはいえ、模擬戦だから有効な攻撃が決まれば勝負がつくと考えているのもあるかな。
特にフィネさんと話し合ったわけではないけど、いくら俺が魔力のおかげで硬いからといっても、投げられた斧が本来突き刺さるはずの勢いで当たったら、通常なら怪我をして戦闘続行不能になる可能性が高いからね。
というより当たっても構わないとか、そんな戦い方をしていたらエアラハールさんに怒られそうだし、俺自身のためにもならない気がするから。
「まだまだぁ!」
「残った斧!? いや、さっき叩き落した斧だ! くぅ!」
なんとか三本続けて投げられた斧に対処し、ホッとしている隙も与えず、さらに投擲をするフィネさん。
残っていた最後の斧かと思ったけど、俺が対処している間に拾ったのか、最初に叩き落した斧を拾っての投擲だった。
先程、大きく体を動かして斧を避けていたので、体勢がまだ整ってはいない俺だけど、なんとか右回転をしながら木剣を当てて弾き飛ばす。
これで残っている斧はあと一本なはずだから、今度こそ投擲は終わったはず……。
「まだ残ってます、よっ! はぁっ!」
「最後の斧も!? こなくそぉ! ……これで攻撃する手段は……っ!?」
もう投げられる事はないと考えた次の瞬間、残っていた斧を投げるフィネさん。
全ての武器を投げるなんて、ここで決着をつけるつもりなのか? と思いつつ、回転させて木剣を振るった影響で、体が伸びきって泳いでいるような状態になっている俺。
当たるわけにはいかない! と、立っている事を止めて左手を地面に伸ばしながら、右手を戻して斧を叩き落とす……なんとか間に合った!
全ての攻撃を防いで今度こそ……と左手を地面に付いて、反動をつけて起き上がろうとした瞬間、さらにフィネさんがこちらへ駆けるのが見えた。
「はっ!」
「ぐぅ! なっ!?」
「せぇい! っ!?」
「やられてばかりじゃ、ないですよっ!」
駆けて来る勢いのまま、右足で蹴り上げるフィネさんに対し、左腕でガード。
勢いの乗った蹴りは、斧を受け止めた時程じゃないけど、さっきの前蹴りよりも威力があり、受け止めた左腕に小さな痛みを感じた。
俺が怯んだと見たのか、次の瞬間には足を戻したフィネさんが、ガードしていた俺の左腕を掴んで引っ張り、勢い任せで体を回転させながら俺を横に引きづり倒そうとする。
しかし、痛みは感じるけど動けない程じゃない俺は、逆に左腕を戻してフィネさんを引きずり倒す。
力比べだと、やっぱり俺に分があるみたいだね――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます