第756話 フィネさんの考え



 護衛の依頼が表向きではあっても、ギルドの方は薄々わかっていそうだ……というのは置いておいて、護衛対象のヴェンツェルさんが王都へ向かったのに、俺達がいつまでもここに残っていたら言い訳のしようがなくなる。

 権力闘争や、国家間の戦いに冒険者が無理矢理参加させられないように、という意味合いが強いため、俺達は表立って軍と協力する事はできない事になっているから。

 とは言っても、冒険者の自由意思が尊重されるから、表立ってギルドの依頼だとかでそういう内容のものが出せないだけで、絶対に参加してはいけないというわけではない。


 ……協力要請した側がギルドに小言を言われたり、複数の国に跨る組織だから、情報が漏洩したりなどいろんな弊害がある事を踏まえているなら、だけどね。

 今回は姉さんがマティルデさんに文句を言われるのを避けたいから、という意味合いが強い。

 あと、ヴェンツェルさんを始めとした軍を動かして、さらに冒険者に協力してもらったとなると、あまり外聞がよろしくないためだとかなんとか……色々、面倒なしがらみがあるもんだ。


「とりあえず、何事もなければ明日……遅くとも明後日にはルジナウムに向かおうと思っているよ。その後は、フランクさんへの報告とブハギムノングの様子見だね」

「フランク様への報告は私にお任せ下されば、とも思いますが、リク様がいて下さるのならありがたいです。フランク様、最近はリク様と話すのを楽しみにしていらっしゃるようですから」

「そうなんですか? 特別何か面白い話をしているわけではないんですけど……」


 とりあえずの予定を伝え、フィネさんからはフランクさんの報告を一緒にしてくれるとありがたいと言われる。

 ここまでやって、さらにフィネさんにまで協力してもらっておきながら、後の報告は任せた……なんて無責任な事はできないからね。

 フランクさんが俺と話をするのを面白がっている、というのは初耳だけど、まぁ、貴族の子爵様だから一般の人と話す機会が少ないからだろうと思っておこう。

 俺自身が英雄と呼ばれていたりして、一般かどうかは気にしない方向で。


「まぁ、鉱山の方はもうエクスブロジオンオーガがいたりはしない……とは思うが、例の怪しい装置を調べた結果も知りたいしな」

「怪しい装置……あぁ、あれだね」


 フォルガットさんと鉱山に行った時に見つけた、怪しい装置……隠されていた装置だけど、街の外へ向かって魔力の線が走っていたようだから、何かモリーツさんやイオスに関係している可能性が高いため、フォルガットさんだけでなくベルンタさんにも調べてもらうように言ってある。

 なんとなく、あの装置とルジナウムの魔物襲撃が繋がっているように、漠然と感じてはいるけど、はっきりした事はわかっていないからね。

 あと、クォンツァイタの産出量だとか、王都への運搬とかの状況がどうなっているかの確認も、良い王しておかないと。

 ……俺にわかるような内容だったらいいなぁ。


「……」

「ん、フィネさん。どうかしましたか?」

「いえ……」


 ルジナウムやブハギムノングで確認する事を、モニカさんやソフィーと話し合っていると、何やら俯いて考え事をしている様子のフィネさん。

 どうしたんだろうと思って声をかけてみたけど、首を振って誤魔化された。

 うーん……何か悩みでもあるんだろうか?

 コルネリウスさんの事とか、悩みしか出て来ない気もするけど……。


 そうこうしているうちに、日が落ちてきたので夕食の支度が始まり、フィネさんが何を思い悩んでいるのか、聞く機会を失ってしまった。

 夕食はモニカさんと同じように、先頭に立って準備を進めてくれるフィリーナがいなくなったけど、兵士さんの数も半分くらいになっているし、拘束した人達もいなくなったので、昨日までより大分楽になった。

 フィリーナもそうだけど、皆の食事を用意してくれるモニカさんも、近いうちに労ってあげないとね……。



―――――――――――――――



 翌日、エルサの試乗会が全て終わって昼食を食べた後、何もないならルジナウムに向かおうかな? と考えていたら、昨日から何か考え事をしていたフィネさんに、相談を持ち掛けられた。

 フィネさん、エルサの試乗会の時はほとんど表に出さなかったんだけど、朝食や昼食の時はずっと考えている様子だったから、よっぽど深刻な悩みなのかな?


「リク様、折り入ってお願いがございます」

「お願い……フィネさんには色々協力してもらっているから、俺にできる事なら」

「リクさん、また安請け合いして……」

「まぁ、誰かが困っていたりお願いされると、断れないのがリクだからな。それに、フィネさんには確かに協力してもらったし、私達も学ぶ事が多かった。お礼という意味で、お願いを聞くのも悪くないだろう?」

「それはそうだけどね」

「モニカは、自分以外の女性からのお願いをリクが聞くのが、嫌なんだろう?」

「そ、そんなんじゃないわよ……」

「……賑やかなのだわー。こういうのも、悪くないかもだわ……落ち着いて寝れないから、やっぱり静かな方がいいのだわ」


 何かを覚悟した、真剣な表情で俺と対するフィネさん。

 突入時の戦闘や、食事の準備、エルサの試乗会などなど、フィネさんには助けられているから、俺ができる事であれば協力したいと思い、頷く。

 俺の後ろでは、モニカさんとソフィーが何やらごにょごにょ話していて、エルサが頭の上で呟いていたけど、そちらはあまり気にしないようにしておこう。

 あと、エルサはただ寝たいだけのねぼすけドラゴンだけど……まぁ、試乗会でここ数日何度も飛んでくれたから、ゆっくり休んでもらおう……本当に疲れているかは疑問だが。

 

「その……私ではリク様に益はないとわかっているのですが……一度だけでいいので、私と手合わせ願えないでしょうか!」

「手合わせ……模擬戦をするって事でいいんですか?」

「はい! リク様がオーガをなぎ倒すのも見ましたし、私では絶対に敵わない事も理解しています。モニカさんやソフィーさん達とも一緒に戦い、参考にはなりました。ですが、一度でもいいので頂点と評される方と、私自身の実力差を見極めたく……いえ、私程度では足元にも及ばないとはわかってはいます」

「いや、フィネさんが足下に及ばないとかは思わないですし、俺が頂点だなんて事はないんですけど……」

「フィネさんで足下に及ばなかったら、私達はなんなのかしらね?」

「……路傍の石か? まぁ、リクの魔法や力任せの攻撃を見ていれば、納得だし、頂点と言われるのもわかる。誰が魔物集団に単独で挑んで蹴散らすなんてできるのか……」

「まぁ、エルサちゃんもいたし、ユノちゃんも途中から参加したけど、あれは頂点というのも生温いわよね。私じゃ、一体の魔物を相手に時間稼ぎするのが精々ってところね」


 フィネさんが昨日から考えていたのは、俺との手合わせ……模擬戦をするという事らしい。

 少々大袈裟な俺の評価はともかく、フィネさんはBランクの実力者だし、突入時の戦闘でも活躍していたようだから、俺としても参考になる事が多そうで、むしろありがたいくらいだ――。



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