第750話 エルサ試乗会開催



「あ、あと拘束した人達を運ぶ時でいいんですけど、フィリーナも一緒に王都へ連れて行ってもらえると助かります」

「フィリーナ殿をですか?」

「はい。クォンツァイタ……ブハギムノングで鉱石をもらって来て、一足先にそれを調べてもらおうかと。脆い物なので、割れないように兵士さん達にお願いしようと考えていたんですよ」

「成る程。でしたら、フィリーナ殿にも拘束者の一部を見てもらうのが一番良いかと。ツヴァイも運ぶので、もしもの際に備えて、ですが。鉱石の方は、兵士に持ち帰らせるようにします」


 ツヴァイは、魔法が使えないようにされているから多分大丈夫だろうけど、やっぱり兵士だけというよりフィリーナにも見てもらっていた方が安心なんだろう。

 もし魔法を使われたらフィリーナでも敵わない可能性が高いけど、あの特別な目があるから、何かが起きる前に察知して対処できるかもしれない。

 まぁ、念のためという事なんだろうね。


「わかりました。フィリーナには後で伝えておきます」

「よろしくお願いします」


 フィリーナは、今昼食の片付けのためにモニカさん達と川へ食器を洗いに行っているから、ここにはいない。

 後で伝える事にして、フィリーナには先に王都へ向かってもらう算段を付ける。

 後は……。


「あと、時間の空いている兵士さんを集めて、ちょっとエルサに乗せようと考えているんですけど、可能ですか?」

「エルサ様に? またなぜそんな事を……?」

「いえ、逃げた男を捕まえた後、ヴェンツェルさん達とちょっとありまして……」


 あの時の状況をマルクスさんに説明する。

 ヴェンツェルさんの大人げなさや、兵士さんがエルサに乗る……というよりそらっを飛んでみたいという興味に、溜め息を吐きながらも、マルクスさんは全員ではなく一部の兵士さんを集める事を了承してくれた。

 曰く、時には興味を満たす事も必要だから……と言いつつ、空を飛ぶ事の恐怖も味わっておいた方が、兵士として成長してくれるだろうとも呟いていたっけ。

 エルサに乗っていれば結界に守られるから、恐怖は感じないように思うけど、それは俺が慣れているからだ……初めて乗った人は恐ろしさを感じたりするのかもしれないね。


 ちなみに、一度ルジナウムに食材を買いに行った時にエルサに乗った兵士さんは、除外となった。

 経験した事があるためと、乗せる兵士を減らすため、さらにはその兵士さんが口々に恐怖を語っていたかららしい……まぁ、あの時はモニカさん達が夕食の支度を始めるのが遅くならないよう、少し急いだからね……。

 そんなこんなで、マルクスさんと打ち合わせをして、野営地から離れた場所でエルサの試乗会を行う事が決まった。

 ヴェンツェルさんも乗りたがりそうだなぁ、と思ったけど、マルクスさんが他の事をしてもらって邪魔はしないようにすると言ったので、今回は乗る事はなさそうだ。



「はーい、順番に乗って下さいねー」

「はっ! 失礼しますリク様、エルサ様」

「あ、立っていると危ないので、座って下さいね?」

「了解しました。……しかし、座り心地が良いですな」


 マルクスさんと話し終わった後、野営地からさらに西……建物のある場所から離れるように移動し、エルサに大きくなってもらう。

 兵士さん達の中で、まずは王都への拘束した人達を連行する兵士さんを優先に、希望者を募り、エルサ試乗会が催されている。

 エルサなら大丈夫だろうけど、さすがに重荷となる可能性があるため、全員鎧は脱いで乗る事になった。

 全員身軽になってはいるけど、エルサが大きいためによじ登る形になっているけど、そこは仕方ない……俺達もそうだからね。


 空を飛ぶ体験をした兵士さんの一部が、恐怖体験を話していたと言っていたのであまり集まらないかと思ったんだけど、想像以上に集まっている……この場にいるだけで、数十人かぁ……まぁ、数回に分けて飛べば暗くなる前には終わるかな。

 順番に並んでもらい、俺が先にエルサへ乗って兵士さん達を誘導。

 エルサに任せればそれでいいかと思っていたんだけど、乙女に乗るのだから契約者の俺が責任を持って同行しろ、とエルサに言われてしまったからね。

 空を飛ぶのは俺も好きだから、特に問題はないんだけど。


 それぞれ、兵士さんがエルサの背中に乗って戸惑ったりしているのを、落ち着かせるように声をかけて行く。

 結界があるとはいえ、一応飛んでいる時に不用意に動くと危ないから、地上を見下ろす時などの体を大きく動かす時はゆっくりで、あと立ったままではなく座ってもらうようお願いする。

 エルサのモフモフは大きくなっても健在だから、ふわりとした座り心地に、皆驚いているようだ……お風呂で丁寧に手入れしている甲斐があったね。

 モフモフクッションとか、作りたいなぁ……。


「で、フィネさんも参加ですか?」

「えーと、すみません……」

「いえ、別にいいんですけど……乗った事のない人だけと限定しているわけではないので」


 気付けば、兵士さんに紛れてフィネさんがエルサに乗っていた。

 兵士さん限定というわけではないから、乗っちゃいけないわけではないけど……しれっと紛れていたのでちょっと驚いた。

 でもフィネさん、ルジナウムからこっちへ連れて来る時、一緒に乗って来たんだけど。


「ありがとうございます。私も、こちらに来る際に乗せてもらいましたが、あの時は日が落ち始めていたので……明るい時はどうかなと興味があったんです」

「でも、今日はいつもとはちょっと違う飛び方をしますよ? 初めての人に体験してもらうだけですから、あまり高くは飛びません」

「それでも、乗ってみたかったんです。駄目ですか?」

「いえ、駄目というわけではないですよ。んー……それじゃあ、フィネさんに一つお願いがあります」

「なんでしょう?」

「俺一人で兵士さんを誘導するのはちょっと大変なので、一緒にやってもらってもいいですか?」

「それくらいならお安い御用です。エルサ様に乗せてもらえる対価としては、簡単すぎるくらいですから」


 一度に乗る兵士さんは十人程度とはいえ、集まった兵士さんはもっといるし、俺一人で全員を見ておくのは大変だからね。

 今回、一応全体の指揮をする真似事のような事をさせてもらったけど、だからといって大勢を見るのに慣れたわけじゃないから。

 ちなみにモニカさんとソフィー、フィリーナは武器を投げて穴を空けたテントの修復をしているから、こちらを手伝ってもらうわけにもいかないし、空を飛んでみたい兵士さん以外は見張りや調査の仕事がある。

 武器を投げる発端はフィネさんの講義なのだけど、やり始めたのがソフィー達だし、フィネさんは最初止めた側だったらしいから、時間があったんだろう。


「まだなのだわー?」

「あぁ、ごめんエルサ。うん、大丈夫だから飛んでいいよ――それじゃ、空に浮かびますよー!」

「わかったのだわー」


 手伝いを了承してくれたフィネさんが頷いたタイミングで、皆が乗るまでジッとしてくれていたエルサが焦れたように声をかけてくる。

 今回はあまり自由に飛ぶわけじゃないとしても、エルサは空を飛ぶのが好きだから、早く動きたいんだろう。

 少し待たせてしまったエルサに謝り、乗った人達を見て大丈夫そうなのを確認し、皆に声をかけた――。




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