第749話 クォンツァイタはフィリーナへ
「鉱石の中にあるから……じゃないよね。うん……違うみたいだ」
鉱石の中にあるから魔力が動くような、流れるような反応がないのではないかと考えたけど、探知魔法でモニカさん達のテントの中……ソフィーの荷物に入っている方のクォンツァイタを調べたら、そちらでは確かに蓄えられている魔力の動きが感じられた。
ソフィーが保管している方は、量はともかく魔力を蓄えて色が変わっているクォンツァイタだからね……その魔力が動いていると感じられるなら、鉱石の内部にある魔力が動かない、という考えは否定されるはずだから。
「でも、どうして壊れているのかしら? これも、アルネに調べさせる必要がありそうね」
「自分で調べるわけじゃないんだね……」
「もちろんよ。私はアルネがやっている魔法や魔力に関する研究の、補助はできるけど主導はできないわ。あくまで、アルネを手伝う程度だから」
首を傾げながら、クォンツァイタの奥を覗き込んでいるフィリーナは、詳しく調べるのはアルネに任せるつもりのようだ。
そういえば、エルフのうち男性はどちらかというと魔法の研究を、女性は畑を作ったり外に出る事が多いような事を言っていたっけ。
まぁ、アルネの方も興味深い物であれば、喜んで調べてくれるだろうから問題ないだろうけど……無理さえしなければ。
「とりあえず、これは受け取っておくわね」
「うん。脆いようだから壊さないように注意してね?」
「わかっているわよ。手伝いとは言っても、こういう物の扱いは得意なの。割ったらアルネに怒られそうだからね」
「まぁ、もし割ってもソフィーが持っているのもあるし、ブハギムノングに行ったら同じ物はなくとも、別のクォンツァイタがあるから、それを持って来ればいいんだけどね」
「あー……そういえば、ソフィーも持っているって言っていたわよね。……もしかして、これと同じ?」
「いや、私が持っている方は、魔力が多少なりとも蓄積されているみたいでな。色が違う。全部で四個だったか?」
「そうだね。でも、大きさは同じくらいかな?」
「……それを私一人で王城まで持って帰るのね……はぁ……」
フィリーナにクォンツァイタを包んでいた布を渡し、もう一度くるんで割れないよう大事に持ってもらう。
大きさはソフトボールくらいと言っても、それが合計で四個あるからね……全部持って帰るのは少し面倒ではある。
エルサに乗って行けば時間がかからないけど、フィリーナはヴェンツェルさんと一緒に帰るだろうし、俺達は念のためにルジナウムとブハギムノングの街の様子を見てから帰るつもりだから、早くアルネに見てもらうなら、フィリーナに持って帰ってもらった方が早い。
確か、ここから王都まで馬車で数日くらいだから、俺達が様子を見ている間には帰り付いているはずだ。
お世話になった人達への挨拶もあるし、それぞれの街でゆっくりできていないから、少しは見て回ったりもしたいからね。
「なら、私が持って来た方は後で私達が王都へ帰る際に、持ち替えるようにするか?」
「いえ、一応全部私が持って帰る事にするわ。それぞれの状態の違いとかも比べた方がいいでしょうから。それに、多少無理しても持って帰らないと、アルネがうるさそうだし……」
「あはは……あ、でも、ヴェンツェルさん達と一緒なら、兵士さんに手伝ってもらえるから大丈夫かな?」
「まぁ、扱いには気を付けてもらう必要があるでしょうけど、お願いするしかないわね。想像以上に王都へ連行する人間も多いようだし、帰りの馬車で私と一緒に乗る兵士にお願いする事にするわ」
「そうだね、それがいいよ」
ソフィーが持っているのは、また後でアルネに届けよう……そう提案するソフィーだけど、フィリーナは首を振って持ち替える事を決めているみたいだ。
それぞれ細かな状態が違ったりもするから、一つよりはできるだけ数が多い方が研究は捗るんだろう。
それならと、兵士さんに手伝ってもらえばと提案。
馬に乗る人も多くいるけど、フィリーナや一部の兵士さん、連行する研究者やツヴァイに関しては馬車に乗って王都へ向かう。
さすがに、馬車は揺れるために布で包んでいると言っても、床に置かないよう持っている必要があるだろうから、同じ馬車に乗る兵士さんにお願いするようだ。
……そうだね、手伝ってもらうんだから兵士さん達にも何か特典のようなものを用意した方がいいか。
ヴェンツェルさん辺りは、兵士にはもっと厳しくしても……とか言いそうだけど、労うというか興味や楽しみをと思うのは悪い事じゃない。
思い出されるのは、モニカさんと逃げた男を捕まえた時の事……エルサに乗りたいという人が多かったから、あの時の兵士さん達以外にも乗せてあげればいいかなと思う。
さすがに全員というわけにはいかないけど、それでも周辺を軽く飛んで一度に十人程度乗せれば、あまり時間はかからないだろうから――。
「リク様、少々よろしいでしょうか?」
「はい、どうしましたマルクスさん?」
フィリーナにクォンツァイタを渡し、各々が投げた武器を回収させつつ反省を促しつつ昼食を終えた後、そろそろエルサに兵士さん達を乗せる催しをしようかな……と考えている所でマルクスさんが声をかけてきた。
「拘束した者の数も多いので、先に王都へ向けて連行しようと思うのですが……」
「あぁ、そうですね。いつまでもここで捕まえておくだけというのも、面倒ですからね」
建物の調査はまだ続いているけど、拘束した人達を見張らないといけないため、そちらにも人手が割かれている現状だ。
ツヴァイなどの一部はともかく、研究者達はほとんど観念している様子なので、逃げる心配はあまりないだけど、それでも一応見ておかないといけない。
まぁ、研究者達は騙されて集めた人がほとんどらしいので、正式に国からという軍を前にして抵抗しようとは考えないんだろう……本当は国に認められていた、と考えていたみたいだし。
「拘束した者った達は、順次馬車に詰め込んで王都へ向けて出発させようと思います。まぁ、快適さはないでしょうが、逃げないよう厳重に運びます。また、隠し通路にて眠らされていた兵士を発見しました。やはり証言の通り、岩陰に隠されていたようで、今も意識が戻りません」
「馬車に詰められて運ぶから、快適性はないですよね……。それで、意識が戻らないというのは?」
「やはり、オーガなどの魔物ようの薬のせいなのか、ずっと眠ったままなのです。調べたところ、怪我などはしていないようなので、こちらは起きるのを待ってという段階でしょう。命の危険はなさそうです」
「強力な睡眠薬……と考えればいいかな。もしかしたら、後遺症なんかもあるかもしれないので、起きた後もしっかり調べて下さいね」
「はい、承知しております」
どういう薬なのか、俺は知らないし薬には詳しくないからわからないけど、強力な物であればある程、副作用が強いというおぼろげな知識くらいはある。
兵士さんに使われた薬に、副作用があるのかどうかはわからないけど、長い間目を覚まさないとなると少し心配だね。
そういった事はよくわからないので、マルクスさんによく見て対処してもらうようにお願いする……要するに丸投げだね
よくわからない俺がなんとかしようとすると、邪魔になっちゃいけないから――。
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