第700話 やっぱり便利な結界魔法
「それならばリク、こういうのはどうだ?」
「ん、ソフィーは何か思いついたの?」
「あぁ。結界があるだろう? 鉱山でも見ていた……正確には目には見えない不可視の壁だが、想像以上に自由に形を変えられるんだろう?」
「……そうだね。一度実験したみたいに、カップ一つを覆うように小さくもできるし、形に沿って結界を張る事もできるよ」
結界のイメージで、形を変える際には大きさによって違うけど、小さい物を覆う時はビニール袋をイメージしていたりする。
透明で薄いビニール袋を被せるイメージだね。
まぁ、形に沿う以外にもどこか一部だけ開けておいたり、となるとまた少しイメージの仕方が変わるんだけど。
とにかく、結界はイメージ次第で自由に形が変えられると思っていい。
「それなら、その扉の取っ手の鎖を結界で覆ってしまえば、音が向こうに届かないのではないか? あれは、衝撃も音も外には漏らさないだろう?」
「それは……いや、でもそれだと結界ごと鎖を破壊しないといけなくなるから、ちょっと難しいね……でもそうだね、ちょっとその応用で考えてみれば行けるかも……」
「むぅ、難しいか……しかし、リクは何かいい案を思いつきそうだな」
「そうね」
「まったく、音を中に伝わらせない方法なんて、エルフでも思いつかないしできないわよ?」
「それこそ、リク殿だからだろう。近くで見ているモニカ殿達はわからないが、離れて見ている私などは、リク殿ならどんな事でもしてしまう気がしてならないからな」
ソフィーからの提案からヒントを得ていい方法が思いつきそうだけど、後ろで話しているモニカさん達の声が気になって、いまいち思考に集中ができない。
忍び込んでいる最中だというのに、皆暢気だなぁ……一応、小声だし厳重に閉じられている扉を見れば、少々の声程度なら中に届かないだろうけど。
とにかく、扉を開けるために音を中へ伝わらせない方法を考えないとね……。
えっと、結界で鎖そのものを覆ってしまうと、破壊するとしても結界に守られてしまうからできない……結界ごと破壊したら、その際に結局音がでてしまう。
だったら、自由に形を変えられる結界を利用して……扉から壁を沿うように結界を張って、取っ手の部分だけ穴あきのようにする? それだけでも大分中に伝わる音は軽減されるだろうけど、結局音そのものを伝わらせないようにはできないか。
どれだけの音で中の人が気付くかはわからないけど、ここまで徹底的に見つからないよう忍び込んだんだから、雑に行動せずに最後までやり遂げたい。
……そもそもに、俺やモニカさん達だけでなく、兵士さんも含めて十人以上からなる集団で忍び込むというのもいかがなものかと思わなくもないけど、特殊部隊みたいな感じがして少し楽しい……俺も十分暢気だった。
もう運び出した人を調べたり、建物の地上階を調べてカギを探した方が早いかも? なんて思い始めた時、結界を使って音を漏らさない方法を思いついた・
「あ、そうだ……これでならいけるかな?」
「何か思いついたのか、リク殿?」
「はい。要は、結界で鎖と扉側を遮ればいいんです。ちょっと難しいですけど、取っ手にぴったり合うように結界を作れば可能だと思います」
「……よくわからんが、それで可能であるのなら任せよう」
「わかりました」
ちょっと細かいイメージが必要になって難しいけど、取っ手と結界に隙間を作らないようピッタリ張り付くイメージで作れば、鎖と扉側を隔絶できるはずだ。
ヴェンツェルさんに任されて、頭の中で結界のイメージを作り、発動。
「……結界っ……よし、少し離れておいてください」
「あぁ」
「えぇ、わかったわ」
結界が張られた事を確認した後、皆を少し後ろに下げて鞘から剣を抜く。
上段に構えて力任せに、左右の取っ手を繋ぐ鎖に向かって剣を振り下ろした!
ガキンッ!! という金属と金属がぶつかり合う甲高い音共に、錠と一緒に崩れて重さで落下する鎖。
思った以上に音が小さかったのは、剣が優れていたからだろう……これがボロボロな剣だったりしたら、絶対折れてただろうなぁ……最善の一手とかなら別だけど。
ユノを連れて来ておけば、やってくれたのかもしれないけど、いないのは仕方ない。
どちらのせよ鎖が落下した音が、かなり大きな音を響かせたので、鎖を斬る腕とか関係ないか。
「頑丈そうな鎖だったのに、それをあっさり壊すとはな……」
「剣のおかげですよ」
俺の腕は関係なく、使っている黒い剣のおかげなのは間違いない。
ワイバーンを軽々と斬り裂くくらいだからね……それに、今までも無茶な使い方をして、今もそうなのに刃こぼれ一つないのは、頑強の魔法がかかっているおかげなんだろう。
ほんと、こんな掘り出し物を仕入れていたうえに、売ってくれたイルミナさんには感謝だね……俺以外には扱えないけど。
「お、意外と軽い?」
「魔法がかかっているのかもしれないわね。重い扉でも簡単に開くように、簡単な仕掛けか魔法具を使っている場合があるわ。王城でも、よく使われているわよ?」
「そうなんだ」
結界を解除して、鎖がなくなった扉の取っ手に手をかけて開こうとする。
金属の扉だからと、重そうだと思っていたけれど、実際は軽く力を入れただけで扉が動いて隙間ができた。
フィリーナが後ろから覗き込むようにしながら教えてくれたけど、そういえば確かに、王城でも重そうな見た目の扉はあったけど、開けるのに力が必要だったりはしなかったっけ。
オーガが逃げたりしないよう、厳重に鎖で閉じているのも納得できるかな……外側から閉めているというのは、まだよくわからないけども。
「ちょっと覗いてみます……」
「どうだ?」
空いた隙間に顔を寄せ、中を覗き込む。
扉の先は、鉱山にあったモリーツさんの研究場より広そうな場所が広がっていて、大きな空間になっていた。
さすがに天井はあちらより低めだけど、それでもオーガが立ち上がれるくらいの高さがあり、人間だけでなくオーガが動き回れるように考えられているらしい。
扉からすぐ近くには、人間が三人こちらに背を向けて立っており、見張り部屋にいた人と同じように武装していた。
少し違うのは、剣や槍など、武器を抜き身で持っている事だろうか……。
さらにその奥には、大きな机があったり、鉱山でも見た試験管のようなガラスがあったりと、モリーツさんのよりも充実した施設のように見える。
扉の隙間からで、人が近くに立っているせいもあって、全てを見渡せるわけではないけど、立っているだけで動こうとしないオーガが数体、モリーツさんのように白衣を着た研究者風の人間が数人、さらに、ちらほらと武器を持っている人間が複数いた。
人間が近くにいても、オーガが動かずジッとしているのは見ていて不思議だけど、モリーツさんがやっていたように、一部の人間には襲い掛からないようにしているんだろう。
あと、ガラスの試験管はいくつかが横倒しになっていて、そこからオーガが出て来たんだろうなと思う。
ちなみに、試験管が鉱山で見た物より大きいんだけと、一メートル程度しか身長のないエクスブロジオンオーガと違って、二メートルは優に越える身長があるためなんだろうね。
そのせいで、広い場所であっても鉱山よりは数が少ないけど……管理するためにも、数を減らすのはいいのかもしれない……研究者や管理側じゃないからわからないけどね――。
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