第696話 溜まった愚痴を発散するフィネさん
「でも、それがなんであんな性格に……おっと、貴族のお坊ちゃん相手に、あんななんて言ってはいけないわね」
フィリーナが思わず聞いたようだけど、俺もモニカさんも、ソフィーだけでなくヴェンツェルさんやマルクスさんも頷いていたから、皆同じ気持ちらしい。
というか、ヴェンツェルさんやマルクスさんも現在のルネリウスさんを知っているのか。
「それがわからないのです……私は、ハーゼンクレーヴァ子爵家に仕えるため、一時期離れていた時期があったのです。数年経ち、久方ぶりにコルネリウス様と再会した時には、既にあのような性格に……」
「その間に何かがあったか……近しい者が余計な事でも吹き込んで、考えが変わったか? いや、フランク子爵程の者が、そのような者を大事な息子に近付けはしないか……」
「フランク様も、領内の事に忙しく、あまり構っていなかったとは仰っておりましたが、お世話をする者は選んでいるとも。……本当に、なんであんな性格になったんだか……聞いて下さい!」
「え、あ、はい!」
皆で首を傾げていると、コルネリウスさんの説明をしていたフィネさんが、急にガバっと顔を上げて俺をながら、鬼気迫る迫力で叫んだ。
思わず返事をして頷く俺……なんとなく、ちょっと失敗した気がしなくもない。
「コルネリウス様、再会した私になんて言ったかわかりますか!?」
「えっと……わかりません……」
「いきなりですよ? 数年ぶりに再会した幼馴染に対して、『ほぉ、中々の女になったようだな。今後私の遊び相手として、夜を共にさせるのも悪くない』とかのたまったんですよ!? 過去の記憶と違う物言いに、思わず持っていた斧で殴ってしまいましたよ!」
「は、はぁ……」
よく無事だったなコルネリウスさん……。
「その時はフランク様も駆け付ける大騒ぎになりましたが、むしろ怒られていたのは私ではなく、コルネリウス様でした」
「そ、そうなんですね……」
フィネさんの勢いに、相槌を打ちながらコクコクと頷く事しかできない俺……いや俺達。
今までよっぽど溜まっていたのか、ヴェンツェルさんすら及び腰に成る程、コルネリウスさんに対する愚痴をまくしたてて夜は更けて行った……。
まぁ、この人に仕えるなら、と思って再会したら、性格が変わり果てていたんだろうし、確かに愚痴なんかも言いたくなるのかもしれない……幼いながらの恋心に近いものもあったのかもしれないし。
フランクさんもわかっていたようだけど、どうする事もできず、さりとてフィネさんが子爵に対して愚痴を言う事もできずだったんだろう。
うーん……コルネリウスさんの話は、あまりフィネさんに聞かない方が良さそうだ。
料理もなくなり、そろそろ寝る準備を始めないといけないはずなのに、延々とフィネさんの止まらない愚痴大会を聞いて、この夜学んだ事はそれだけだった――。
――――――――――――――
翌朝、フランクさんが準備してくれた食材が多目だったので、食欲旺盛な兵士さん達に振る舞っても残った物があり、それを使ってモニカさんが簡単な朝食を作ってくれた。
もちろん、一部の兵士さんとフィリーナ、フィネさんも手伝ってくれたみたいだ。
昨夜に引き続き、残り物とはいえちゃんとした食事に新兵さんの何人かは、涙を流しながら食べていたけど……それはちょっと大袈裟じゃないかなとも思う。
いや、美味しいのは間違いないんだけどね。
「新兵には、今回のような遠征が初めての者もいるからな。本来は、王都に戻ってから直属の上司……小隊長や中隊長が、美味い店に連れて行って食事の大切さを教える、という事もあるのだが、今回は図らずもリク殿のおかげで遠征中にそれが実感できた者が多いようだ」
「あれは……体を動かす訓練の厳しさとは、また違った辛さを体感できます。確か、今代の女王陛下になってから実施されるようになったと記憶しています。あれが訓練と言うと、鼻で笑うような新兵もいるのですが、体感した後では考えを買えるようです。……実際私も、あれを受けてからというもの、食事の大切さに気付かされました」
「あははは、そうなんですね……陛下が……」
新兵さんやマルクスさんも含めて、多くの人がいるから姉さんと間違えて呼ばないように気を付ける。
さすがにそろそろ切り替えるのに慣れてきたような気がするね……アメリさんを助けて城へと連れて行った時に、気を付けていたおかげもあるのかもしれない。
それはともかく、姉さんが考えた事だったのか……確かに姉さんは、昔から食事は大切と俺が好き嫌いをしないよう、口を酸っぱくして言っていたのを覚えているけど……おかげで特別な好物はあれど、ほとんどの料理を美味しく食べられるようになった。
それをこの世界でも実行しているという事だろうね。
俺は、この世界に来てすぐの時以外は、獅子亭にお世話になったりモニカさんが一緒にいて、料理を担当してくれているおかげで、味気ない料理はほとんど経験した事がない、エルサが飛んで移動してくれるから日持ちのしない食材を使えるのも大きいか。
ともあれ、粗食とちゃんとした料理の落差を体感できれば、いつも食べている料理がご馳走に思えて来るだろうと考えての事なんだろう……姉さん、作ってくれた農家の人にも感謝をしないといけないというのもよく言っていたからね。
だからこそ、農家の人を助けて国民を満足させるために、ハウス栽培とかの農地改革に乗り気なのかもしれない。
「リク様。ヴェンツェル様や私、アテトリア王国兵士、全て準備完了いたしました!」
「はい、わかりました」
朝食を頂いた後は、片付けをして研究施設への突入準備。
兵士さんが多いから、装備の確認や作戦時の動きなど、確認する事が多くて大変そうだった。
俺やモニカさん、ソフィーやフィリーナ、フィネさんは冒険者なので常在戦場とは言わないまでも、ほぼいつでも臨戦態勢に入る準備はできているんだけど、兵士さん達は規律や団体行動という意識が強いから、全員ですぐに動き出すのには時間がかかるんだろう、人数も多いからね。
「リクさん、こっちはいつでも動けるわよ」
「オーガだけでなく、他の魔物が来ても大丈夫だ。いつでも戦える」
「私は前線じゃなく、後方で魔法を使う役目だけど、あまり期待しないでね?」
「リク様、いつでも動き出せますので、ご指示を……」
「うん、こっちも大丈夫そうだね……心配はしてなかったけど」
「私も準備できたのだわー」
マルクスさんの次は、モニカさん達からの報告。
まぁ、こちらはさっきも考えていた通り、最初からほとんどの準備ができている状態だから特に心配はしていない。
フィリーナは戦力としての期待ではなく、研究を見て何か気付く事があるかといった部分に期待しているので、問題ない……もしもの時は、戦えるのは十分わかっているからね。
エルサは昨日話した通り、俺が眠らせる魔法を使った時に備えて、モニカさんに抱かれているけど、準備らしい準備が一番いらないはずなのに、準備ができたとは一体……モニカさんに抱かれるのが準備と言えば、そうなのかもしれないけど。
それはともかくとして……ちょっとした疑問があるんだけど――。
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