第688話 オーガ対処後に合流



 俺達が戦ったオーガの動きはエクスブロジオンオーガより速いけど、どちらかというと鈍重で、こん棒のような物を持ってはいるけどリーチが長い槍を使うモニカさんの方が有利みたいだ。

 先制するために槍から炎の魔法を放ち、戸惑っているオーガに駆け寄りながら、心臓がありそうな場所を穂先で一突き……すぐに引き抜きながら後ろに飛んで、爆発に備える。

 槍からの魔法は、火傷を負わせる程度で足止めくらいにしかならないけど、火の魔法と一緒に飛び込んで槍で突くというのはいい戦い方だと思う……モニカさん自身も、先にオーガへ向かう炎に隠れられるからね。

 オーガは身長も二メートルを越えるから、槍で突くにしても頭を狙うよりは胸部分の方が狙いやすいみたいだ。


 モニカさんがオーガの一体へ槍を突き刺している間に、そちらへ向かおうとしたもう一方のオーガの懐に潜り込み、剣を横に振って胴を斬り裂く。

 同じように後ろに飛びながら、爆発の衝撃を防ぐために結界を発動。

 一瞬の間の後、ほぼ同時に二体が爆発した。


「本当に、止めを刺さなくても爆発するのね……」

「純粋なエクスブロジオンオーガや、普通のオーガならまだ無理してでも向かって来るんだろうけど、こいつらは命の危機を感じたり、大きめの傷を負ったら爆発するみたいだからね。倒すという意味では楽なんだけど……」

「爆発が問題よね。今はこうしてリクさんが守ってくれたけど、間近で受けたら危険だわ」

「まぁ、ここは他に障害物が少ないからいいけど、建物とかがあるような場所だと、壊れた建物の破片だったり、体が飛ばされて物に当たって怪我をしたり……というのも考えられるね」


 結界で自分とモニカさんを包んで、完全に爆発の衝撃が来ないようにしながら、散ったオーガの破片を見ながら話す。

 上半身と下半身を斬り離した俺の方はともかく、モニカさんの方は槍で一突きしただけだから、よっぽど当たりどころが良くないと生命力の強いオーガを倒すのは難しい。

 でも、爆発するおかげで止めを刺す必要がない……これを楽に倒せると取るか、厄介と取るかは状況によるだろう。

 軽々と人間の体を吹き飛ばしそうな爆発の威力は、結界がなかったら危険なのは間違いないからね。


「それにしても、さっきも見たけど……やっぱり街道から離れて良かったわ」

「そうだね。街道の真ん中に立っているんだから、その場で倒すのが楽だけど……人や馬が通る道を穴だらけにするわけにはいかないよ」

「そうよね。まぁ、オーガがこちらに向かって来てくれるから、助かったわ」


 探知魔法を頼りに発見したオーガ二体は、最初に見つけたのと同じように街道の真ん中に立っていた。

 さすがにそのまま爆発させるわけにはいかないと、街道から離れた場所に身を晒してオーガに発見させ、おびき寄せる。

 向かって来るのを確認した後、少し下がって街道との距離を稼ぎながら、攻撃するチャンスを窺って……という流れ。

 さっきもそうだけど、爆発すると威力が高いため、地面に穴が空いてしまうのでそれを避けたかったんだ。

 馬車とか、何も知らずに走らせていたら馬の脚が取られるか、車輪がハマり込んだりして最悪転倒する危険があるからなぁ。


「穴を埋めればいいんだろうけど、それも手間だからね」

「そうね。とにかく今は他のオーガの所に行きましょう。エルサちゃんがお腹を空かせてそうよ?」

「うん。えっと次は……お、ソフィーの方も一組オーガを倒しているみたいだ。残りは四か所で、ここから近い場所は……」


 俺達が倒したオーガとは別の場所にいたはずの一組が、反応から消えていたので、ソフィー達の方も順調のようだね。

 エルサがお腹空いたと騒ぎ始めないうちに、さっさとオーガを片付けるため、探知魔法を使って次のオーガへと向かった――。



「これは……一体何があったのだ? 遠くの方から、何やら大きな音がしていたのは確かだが……」

「あ、ヴェンツェルさん、マルクスさんもお久しぶり? です」

「誰かと思ったら、ヴェンツェル様達だったのですね。マルクスさんも、お久しぶりです」

「はい、リク様、モニカさん。相変わらずご活躍のようで、何よりです。それにしてもこれは……?」


 順調にオーガを倒して行き、ソフィーとエルサの方も数を減らしているのを、探知魔法で家訓しながら、最後のオーガを倒して一息吐いたあたりで、馬に乗って駆けてきた数人の集団から声をかけられる。

 全員分厚い金属の鎧を着ており、剣や槍を携えていて完全武装だ。

 その集団のうち一人が、兜を脱ぐと中からは見慣れた人の顔……ヴェンツェルさんだった。

 後ろについて来ていたもう一人は、クレメン子爵領に行く時同行してくれたマルクスさん。


 二人が驚いた様子で周囲を見回しているのとは別に、一緒に来た他の人達は馬から降り、周辺を調べている。

 実は、ヴェンツェルさん達近付いてきているというのは、探知魔法でわかっていた。

 まぁ、人間と思われる大勢の集団が近付いて来ていれば、オーガを探すために探知魔法を使っていれば嫌でもわかるんだけどね。

 反応がヴェンツェルさんだとわかっていたわけではないし、街道近くだから人が通らないとは限らないけど、集団で人が歩く速度よりも早くこちらに向かって来ていたから、合流するために予定地に向かっているヴェンツェルさん達だろうなぁ……と考えていた。


「合流する予定だったからだろうが、私達が来ても驚かないのだな?」

「まぁ、誰がとまではわかりませんでしたけど、人が近付いてきているのはわかっていましたから」

「以前にも使っていた、探知魔法というやつですね? リク様に忍び寄る事はできませんね……馬に乗っていて忍び寄るも何もないですが」

「ははは、そうですね。えーと、とりあえずこれはですね……」


 苦笑するマルクスさんに笑いながら、ヴェンツェルさん達にオーガがいたので討伐していたという説明と、肌が通常とは違って赤く、爆発するオーガだった事。

 威力が高いために地面に穴が空いていたり、そこらにオーガの破片が散らばっている事などの説明をした。

 ついでに、爆発するオーガがいるという事は、研究施設が近くにある事と照らし合わせると、何か実験を開始したのかもしれない……という事も一緒にね。

 研究している人達が何を考えているのかはわからないけど、爆発する処理を施されたオーガがこれだけ外に出ているんだし、何かを考えているのは間違いないだろうから。


「成る程な。てっきり私は、またリク殿が無茶をしたのだと考えたのだが……」

「俺、そんなに無茶な事していますかね?」

「ははは! ヴェンツェル様は、リク様がやり遂げる異業の数々を揶揄していだけですよ。お気になさらず」

「でもまぁ、確かにリクさんが無茶をしているというのは、私も思うわよ?」

「うーん……無茶してるかなぁ?」


 馬から降りて周囲を見渡しているヴェンツェルさんは、地面に穴が空いていたりオーガの破片が散らばっているので、俺が何かをしたと考えたようだ。

 マルクスさんのフォローに、モニカさんが溜め息を吐くように言うけど……そんなに無茶をしている自覚はあまりない。

 ルジナウムで魔物の集団にエルサと向かったのは、今考えるとちょっと無茶だったかな? とは思うけどね、怪我もしたし……エルサが言うように、もう少し周囲を頼る事を覚えなきゃとは考えている――。



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