第600話 氷漬けのエクスブロジオンオーガ



「なんというか、これだけで魔物を倒せるというのは、本当に剣が必要なのか疑問すら感じるな……いや、楽なのはいいのだが」

「まぁね。とは言っても、これはこの状況という限定だからね。剣を使ったりとか、直接戦う事が必要ないというわけでもないと思うよ」

「それもそうなんだがな……私が後ろからリクを押したりとか、逆に押されてしまうと言う事も考えていただけにな……拍子抜けと言ったところだ」

「うーん……それは俺もそうだね。もう少しきつい前進になると思っていたから……」

「楽に越した事はないのだわー」


 後ろから、俺の体越しにエクスブロジオンオーガが爆発する様子を見て、拍子抜けしたように呟くソフィー。

 その気持ちは俺もわかるけど、だからと言って剣を使っての戦闘をする必要がない、というわけじゃないと思う。

 まぁ、このやり方や結界に相手を閉じ込めて……というのは、この先応用できそうだから、覚えておこうと思うけど。

 暢気なエルサの言葉に、とりあえずそれでいいかと納得し、爆発するエクスブロジオンオーガを眺めながら穴の中を進んだ。

 必死になって、辛い何かを乗り越える事も大事かもしれないけど、楽をする事もたまにはいいよね。


「……んー、もういなくなったかな?」

「さすがに、あれだけ爆発していればな。まぁ、まだ目の前に入るんだが……」


 さらにしばらく、エクスブロジオンオーガを爆発させながら進むと、打ち止めになったのか、後続から新しく来る奴らの姿がなくなった。

 おかげで、目の前に爆発しそこなったエクスブロジオンオーガが、結界に拳を打ち付ける姿だけを見る状態になっている。

 残り一体か……これまで何体爆発したか正確には数えていないけど、二十くらいはいたはずだし、それだけの数が大移動しようとしていたこの先には、やっぱり何かあるんだろうね。


「リク、暑苦しいのだわ。そろそろ目の前のも、やっつけるのだわ?」

「んー、そうしようか。えっと……どうする?」

「結界を同時に解いて、すぐリクが全部を包むようにするのだわ。そうしたら私が魔法を使うのだわー」

「成る程ね、わかった。けど、くれぐれも威力の高い魔法は使わないでくれよ?」

「リクとは違って、ちゃんと周囲にも気を配るのだわー」

「……俺だって、気配ってるつもりなんだけど」

「結局魔力の多さに翻弄されて、想定よりも強い魔法を使っていたら、気を配れていないのだわ?」

「うーむ……」

「エルサ、口を出してすまないが火の魔法だけは……」

「わかっているのだわー。空気がなくなるような事はしないのだわー」


 エルサは暑苦しいのが苦手なためか、目の前で結界越しに頑張っているエクスブロジオンオーガを見飽きてしまったようだ。

 まぁ、このまま押してても、穴を抜けた先でどうせ倒さないといけないのだから、今倒してもいいか。

 結界を一度解いた後、爆発して鉱山への影響が出ないように俺が張り直す……そこからエルサが対処してくれるようだ。

 俺は攻撃するために魔法を使うのは、エアラハールさんに禁止されているから、代わりに使ってくれるんだろう。


 まぁ、エアラハールさんも、今の状況ならダメとは言わないだろうけど、エルサが気を使ってくれたと思っておく。

 魔力の多さで周囲への影響と言われて、剣だけでなく魔法の方もなんとかしないと……と考えているうちに、後ろからソフィーの注意。

 さすがにそれはエルサもわかっていたようで、火の魔法を使う事はないようだ。

 依頼を受けた時、エアラハールさんも言っていたように、限定された空間である鉱山の中で、下手に火の魔法とかを使ったら、酸素がなくなって息ができなくなるからね。


「それじゃ、いくぞエルサ」

「どんとこいなのだわ」

「すぅ……結界!」

「ギ!?」

「フローズン……なのだわ」

「おぉ……」


 エルサに声をかけ、くっ付いている後頭部越しに頷いた気配と声を聞いて、結界を解く。

 そこから俺達やエクスブロジオンオーガを包むように、再び結界を発動。

 一瞬だけ、エクスブロジオンオーガの驚く声が聞こえたが、すぐにエルサが魔法を使って氷漬けに。

 カチコチに凍ったエクスブロジオンオーガは、爆発すらする事なく身動き一つしなくなった。


「爆発しない……? 氷漬けにされたから?」

「多分だけどだわ、全ての動きが完全に凍ったからだわ。……溶かせば爆発するかもなのだわ?」

「ふむ……こういう対処の仕方もできたか。まぁ、簡単ではないだろうが」

「そ、そうだね……」


 凍ったという事は、表面上だけでなく、体の中すらも完全に動きを止めたんだろう。

 おかげで、爆発の条件を満たしても爆発する事はなかった……という事かもしれない。

 エルサが言うように溶かしたら爆発するのであれば、いずれ氷が解けるだろうから、そのままにしてはおけないんだろうけどね。

 まぁ、完全に凍らせられるのであれば、その状態で運び出して、影響のない所で溶かせば問題にはならないだろうけど……一応、対処法として覚えておこうと思う。


「……でもとりあえず、進むのに邪魔だね」

「凍らせるのは失敗だったのだわ……仕方ないのだわ……ブレイドだわぁ」

「おぶ!」


 凍ったまま、進行方向を塞いでいるエクスブロジオンオーガ。

 狭いから避けて通るなんてできそうにないし、触ると冷たいから押していくというのもちょっとね。

 そう思っていたら、すぐにエルサが再び魔法を発動。

 今度は風の魔法……かな? 不可視の刃が鋭くエクスブロジオンオーガを斬り裂いた。


 その瞬間、氷が斬られたせいなのか、一部だけでも空気にさらされて溶けたのか、すぐ目の前でエクスブロジオンオーガが爆発。

 前もって備えていないために、至近距離で爆発の衝撃を受けてしまった。

 ソフィーは後ろで俺の体が盾になっているから大丈夫だけど、数十センチの近距離でいきなり爆発したから驚いた。


「エルサ、やるならやるって言ってくれよ……」

「……ん? どうかしたのだわ?」

「自分は前面に結界を張ってたな……? はぁ、まぁいいや。とにかく進もう」

「何も備える事なく、あれだけの近距離で爆発を受けても、影響がない方が私は驚いたが……今更か、リクだしな」


 頭にくっ付いているエルサに文句を言うと、自分だけ爆発に備えて結界を張っていたのか、俺の声は聞こえていなかった様子。

 ここで問答しても仕方ないし、溜め息を吐いてとりあえず進む事にした……散らばったエクスブロジオンオーガの破片は、まだ凍っているのもあったため、匍匐前進している身には少し冷たいけど。

 ……後ろで呟いていたソフィーの言葉は、聞かなかった事にする。

 自分でもどうして大丈夫なのか、疑問に感じる時はあるけど、考えて理解できるとも思えないからね。


「……まだなのだわ? そろそろ飽きてきたのだわー」

「エルサは俺の頭にくっ付いているだけだろうに……そろそろだと思うんだけどね」

「歩くより移動は遅いが、地図で見ると広い空間があるとはいえ、限界があるからな……ふぅ……」



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