第599話 結界があると楽



「ソフィー、エルサ。お出ましだよ」

「やっとなのだわー。明かり担当以外に出番がないかと思ったのだわー」

「どうし……エクスブロジオンオーガか?」

「うん。奥からこちらに向かって来てる。――というかエルサ、結界を担当するの面倒そうにしてなかったっけ?」

「気のせいなのだわー」


 目線の先、少し曲がっている道の向こうからエクスブロジオンオーガが、こちらへ向かうのを見つけた。

 エクスブロジオンオーガは、この通路で光がある事に少し戸惑っているようで、歩く速度は遅いが、止まるとか様子を見るといった事はしないようだ。

 多分、まだ向こうはこちらを発見していない様子……逆光でこちらをはっきり視認できないのかも?

 とりあえず、後ろにいて先の様子が見えづらいソフィーに伝える、ついでにエルサにも。


 エルサが出番を求めているというのは初耳だけど、まぁいいか。

 暗い道を照らしてくれているというだけでも、十分な出番だけどね。


「お、向こうも人間がいるって気付いたみたいだね。エルサ、頼んだよ」

「わかったのだわー……結界」


 俺達の方は既に結界をしているので、エクスブロジオンオーガの声や足音、臭いすらも届かないけどエルサのおかげで動きは見える。

 光がある事以上に、俺達がいるのを発見して驚き少しだけ怯んだ様子だったけど、すぐに気を取り直して襲い掛かろうと向かって来ていた。

 さすがに、穴が狭いためかツルハシを持っているようだけど、それを振り上げたりはできない。

 あ、チラッと見えた先頭にいる奴の後ろで、別のエクスブロジオンオーガがスコップを振り上げようとして、壁に当ててる……何故持ち上げられないのか首を傾げている様子だから、やっぱりエクスブロジオンオーガは大した知性がない模様だ。

 まぁ、個体差は少しくらいあるんだろうけど……先頭のエクスブロジオンオーガは、壁に邪魔されないようツルハシで俺達を突こうとするような構えだし。


 エクスブロジオンオーガが慌ててるような、そんな様子を見ながらエルサに頼んだ。

 なんとも気が抜けるような、気の入っていない声を出してエルサが結界を発動。

 なんとなく、違和感のような空気のようなものが俺達の後ろに流れ、結界の外をなぞるようにして俺達の前方へ向かうのを感じた。

 多分、これが魔力の流れかな?


「できたのだわー。これで向こうは何もできないのだわ」

「ありがとう、エルサ」

「これくらい簡単な事なのだわ」


 エルサが魔法を使って、ほんのニ、三秒くらいだろうか……それくらいで、結界が完成した事を伝えてくる。

 このほんの少しの時間差と、さっきの流れる何かが魔力を通して行った結果なんだろう。

 ヘルサルで固めた土を使って魔力を伝わせたように、何かを這うように、そして空気のように移動するんだな。

 これなら確かに、結界で完全密閉したら外側で結界を発動なんてできないか……というか、呼吸のための空気すらなくなるから、先にエルサから忠告を受けてて良かった……。


「お?」


 エルサの結界は発動したけど、エクスブロジオンオーガはなんの違和感もない様子でそのままこちらへと向かって来る。

 多分、動きを阻害しないようエルサが結界を動かしているんだと思う。

 気になるのはそこじやなくて、エクスブロジオンオーガが肉薄した段階で、ちょっとだけ違和感のようなものを感じた。

 それは、俺が張っている結界の方に感じる事だ……。


「結界に阻害されて、戸惑っているね……でも、結界を攻撃された時に感じる違和感とは少し違うような?」

「リクが感じているのは、結界を破ろうとしている感覚とは少し違うのだわ。私も感じているけどだわ、それは多分、結界と結界がぶつかった共鳴のようなものなのだわ」

「共鳴……?」


 共鳴となると、結界は振動て鳴ければ行けないはずだけど……多分エルサは比喩として言っているだけだろう。

 ともかく、何かしらの方法で結界を破ろうとしているのではなく、結界と結界がぶつかったからの違和感だったか。


「初めてだから断言はできないのだわ。けど、間違いないと思うのだわ」

「エルサでもわからないのか?」

「結界同士をぶつける事なんて、今までなかったのだわ」

「そりゃそうか……」


 俺はエルサのようにドラゴンの魔法を使えるから、結界を使える。

 魔力を多く持っているからというのもあるけど、そもそもに普通の人間には使えないのかもしれない。

 今回のような特殊な状況でもなければ、結界同士をぶつけるなんて事、そうそうないか。


「とにかく、押すのだわ?」

「そうだね。こうやって、ただ見ているだけじゃいけないしね」


 結界の事についてエルサと暢気に話していたけど、目の前ではエクスブロジオンオーガがムキになったように包まれている結界を攻撃している。

 正確には、俺へツルハシを向けて突こうとしているけど、結界に阻まれてうまくいっていないだけなんだけども。

 ともかく、このまま見ているだけで済ませる状況じゃないし、穴の奥へと行かなければいけない。

 幸い、進行を阻害していてもエクスブロジオンオーガ自体に傷を負わせていないためか、爆発はしないようだし。


 ガン! ガン! と、激しい音が聞こえてきそうな程、全力で結界にツルハシを打ち付けるエクスブロジオンオーガを見ながら、前進するために匍匐前進を再び開始した。

 ……実際の音は聞こえてはいないけども。


「ん……お? あんまり、力は入れなくても……というより、普通に進む時と変わらない?」

「結界があるからなのだわ。リクの方は結界を自分の動きに合わせて、進めているのだわ? だからこっちも、向こうの結界をリクの結界に合わせて動かしているのだわ。共鳴しているから、わかりやすくていいのだわー」

「そうなのか……力で押さなくても大丈夫だったんだな」


 結界を動かしながらだけど、エルサの方も結界を動かして、その内側にいるエクスブロジオンオーガを押してくれているおかげか、特に抵抗を感じなかった。

 疑問はすぐにエルサに解消され、それならと先程までと変わらず移動する要領で匍匐前進を続けた。


「うーん……やっぱり爆発するんだなぁ。けど、今までよりも数が多い?」

「数は知らないけどだわ。でも、この狭い場所で先が詰まってさらに押されたら、仕方ないのだわ」

「確かにそうか」


 しばらく進んでいると、先頭で結界によって詰まったエクスブロジオンオーガが、順番に爆発して行っている。

 俺達が押している事が原因だが、通路を進行しようと思っても破れない結界によって阻害され、小柄なエクスブロジオンオーガもすれ違うスペースが一切ない穴の中だからね。

 当然後ろのエクスブロジオンオーガは、先頭で何が行われているかわからず、詰まってしまって前と後ろで押しつぶされてしまう。

 そうなると、窒息したためか身動きできなくなったからなのか、先頭のエクスブロジオンオーガが爆発……さらに、後ろから詰めて来ていた奴も爆発の衝撃を受けて爆発、という連鎖反応のような事が起きていた。


 まぁそれでも、詰まっていない後ろの方からさらにエクスブロジオンオーガが来ているし、今までよりも数が多い集団だったようで、今のところ途切れる様子がないんだけどね。

 結界のおかげで、爆発の衝撃は一切外側には漏れていないし、俺達の方にも来ていないんだけど……さすがにちょっとかわいそうになってきた。

 とはいえ、鉱山に悪影響を及ぼしている魔物だから、容赦をするつもりもない――。


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