第595話 最後の最後で話は中断
「それから、まぁ……なんというかな……恥ずかしながら数日はさまよっていたな。考えていたよりも森は広かったようで、全然抜ける事ができなかった」
「地図とかでは確認しなかったの?」
「一応センテで活動していたために、周辺の地図は頭に入っていたんだが、持ち歩いているわけでもないからな。それに、地図で見るより、実際に入った森は広く感じたなぁ」
「確かに……そういうものかもね。この鉱山だって、実際に入らないと深さとかもわかりづらかったし」
まだ地図の作製法が確立されていないためか、縮尺がおかしい部分があるように思う。
特に、鉱山の地図に関しては、鉱夫さん達が実際に歩いた感覚を参考に描いているためか、地図には短く描かれていた道も、実際には長かったりその逆といった事もあった。
街周辺の地図だと、もう少し精巧に描かれているんだろうけど、それでも限界はあるしね。
測定器とかもないだろうし……精密な地図であっても、実際にそこへ行くのでは感覚は違うものだと思う。
「でも、数日もいたら、食糧とかは?」
「予想通り、すぐに尽きた。元々、二日程度で街へ到着する事を想定していたし、一人で持てる荷物にも限界があるからな。多少我慢して節約しながら帰れば、大丈夫だろうと考えていた事も災いした」
まぁ、魔物と遭遇する事もあるだろうし、装備は絶対持っていなきゃいけないしね。
両手いっぱいに食糧を持って移動、というのも不可能だろう。
「たいして強くはないのだが、魔物とも遭遇したな。さらに悪かったのが、食べられるような魔物は出なかった事だ。なんとか、食べられそうな野草を探して、飢える事がないようにしながら、森から出られる道を探して動き回る……今思い出しても、過酷な日々だったな……」
「それは……うん、辛かったね……」
途中で遠い目になってしまうソフィー。
それだけ、その時の辛かった記憶が蘇っているんだろう。
森や山での遭難……日本で考えたら、救助隊や捜索隊が出るだろうけど、この世界ではそういったものはないだろうからね。
冒険者という事もあって、自己責任で活動しなきゃいけない。
一応、長い間行方不明になっていたら冒険者ギルドが探したり、捜索の依頼が出される事もあるだろうけど、たった数日だとそれも見込めない。
街から街へ移動するにも、片道で数日かかったりもするから、それくらいで捜索するようじゃ、やっていけないからね。
「ろくに物を食べられず、強くなくとも魔物は襲って来る。薄暗い森の中で、いつ出られるのかわからない状況……しかも一人だ。心細くもあったし、あの時程自分の選択を後悔した事は他になかったな。まぁ、自分で招いたと言われればそれまでなんだがな。せめて、他にだれか一人か二人でもいれば、食糧も多く持てていただろうし、もっと安全だったろうな……」
森の中を動き回り、外へと出る道を探る……。
一人だから食糧の確保もしなければいけないし、魔物にも警戒しないといけない。
休まる時間が全くなく、お腹も満たされない状況での孤独感は、どれだけものなのか……。
ずっと一人で冒険者をしていて、なんとかやって来たソフィーに後悔させたうえ、パーティを組もうと考えさせたんだから、相当なものだったんだろうと思う
「それで、なんとか森からは出られたんでしょ?」
「まぁな。というより、出られなかったら今ここにいないからな。心も体も限界に達しそうだった時だな……そのあたりで……ん?」
「……あ」
ソフィーから話の最後、森から出られた部分を聞いている途中、何かに気付いたようで顔を上げた。
俺も同じく気付く。
少しだけ、ゆるやかに流れている空気の中に、異質な臭いを感じたからだ。
「乱入者は無粋なのは常だな。まぁ、魔物にそういうことを期待しても……といったところか」
「そうだね。ソフィーがどうやってセンテに戻ったのか、最後まで聞きたかったけど……仕方ない」
「まぁ、ちょっと長めに話し込んでしまったしな。残りは帰ってからでもいいだろう。それこそ、無事に依頼を終えてモニカ達を交えて話すのもいいか」
「そうだね。えっと……うん、俺がやるよ」
「あぁ、任せた」
「……モキュモキュ。当然なのだわー」
話を中断させ、お互い立ち上がって穴の方へ鋭く視線を向ける。
そちらから微かな臭いと共に、何かを引きづるような音が小さく聞こえ始めた。
来るのを待っていたけど、話が終わってからでも良かったんじゃないかなぁ?
まぁ、魔物がこちらの様子をわかっているわけではないだろうし、仕方ないか。
話の続きはまたという事にして、ソフィーと俺のどちらが対処するか視線で問いかける。
すぐにソフィーの頭にくっ付いたまま、まだキューを齧っているエルサに鋭い目で見られ、俺が担当する事にした。
うん、食事を邪魔しちゃいけないよね。
そのままキューを食べ続けるエルサに苦笑しながら、食べかけの干し肉を口の中に放り込んで、急いで咀嚼し飲み込む。
……少しずつ齧るのならまだ良かったけど、塊になるとさらに塩辛いなぁ。
「とりあえず、前回と同じように隠れよう」
「わかった。……今回はあちらの方から来てはいないな」
前回、穴の中からエクスブロジオンオーガが全部て来るまで、狭い方の道に戻って身を隠していたのと同じようにするため、そちらへ移動する。
その途中、一応の様子見と別の方へ続いている道を確認したけど、そちらからエクスブロジオンオーガが来る事はなさそうだ。
これで、穴から出て来る方へ集中できるね。
もし来ていたら、またソフィーに任せる事になったんだろうけど、その場合はエルサが食事の邪魔をされてうるさそうだしなぁ……そういう意味でも助かった。
「今回は、前回ほどの数はいなさそう……かな?」
「ふむ……そのようだ」
結界で坑道と広場の間を塞ぎ、声が向こうへ聞こえないようにしながら、見つからないように顔を出して穴から出て来るエクスブロジオンオーガを見る。
続々と出て来てはいるけど、以前ほどの数ではなく、大体十体程度といったところかな。
最後尾と思われるエクスブロジオンオーガが出て来て数秒、後続がない事を確認してから、塞いでいた結界を解除。
「それじゃ、行って来るよ」
「あぁ。ここから、エクスブロジオンオーガを観察しておく」
「うん」
もうエクスブロジオンオーガの対処は慣れたもので、ソフィーへ気軽に言って広場へと足を向ける。
結界は音を通す事はないけど、透明なので中の様子がしっかり見える。
なので、今日鉱山に入ってからは俺とソフィーが一緒に戦う事はせず、どちらかが戦っている時は、残った方が結界の中を観察するようにしていた。
至近距離にいるのはもちろん戦っている方なんだけど、動きながらだと見逃す事もある。
それに、離れて全体を見た方がわかる事もあるかもしれないからね。
「とりあえず、広場を囲むように……結界!」
「ギ!?」
「ギィ! ギィ!」
急に出て来た俺の姿を見て、驚くエクスブロジオンオーガ達。
その声を聞きながら、発動させた結界で広場を覆うようにして、爆発の衝撃が伝わらないようにする。
それと一緒に、驚いて浮足立っているエクスブロージョンオーガを睨みながら、腰に下げていた剣を抜いた。
……ちょっと鞘に引っかかる感じがするから、気を付けて抜かないと折れそうで怖いなぁ――。
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