第583話 帝国との繋がりを予想



「リク殿の言う通りシュタウヴィンヴァー領は、帝国からすると王都へ攻め入る際に最大の障害となってくれるはずです。……シュタウヴィンヴァー子爵にも手を打っていたとなると、帝国は本気なようですな」

「あくまで、憶測ではありますからね? そしてさらに、バルテルと魔物を退けてすぐ、帝国からの死者が来ました。この事はフランクさんもご存じでは?」

「はい。あの時陛下へ帝国からの遣いが謁見された時、私もその場にいましたからな。確かにあれも、都合が良すぎますな。帝国と繋がっているバルテルが凶行を行い、魔物が襲撃。それが落ち着いた頃を見計らって、帝国からの遣い……全て一つの目的だと考えれば、リク殿が言うように腑に落ちます」

「なので、どうやっているかはわからなくとも、今回の魔物集結も同じくこの国の国力を削ぐためなのかな……と……。もしかすると、帝国から見るとこの街は要衝と言えるのでは?」


「そうですな……帝国以外の国からはまた別でしょうが……友好関係と言えないため、常々帝国は警戒していたため、もしもに備えての役割のようなものがあります。例えば、シュタウヴィンヴァー領は帝国が攻めて来た時に王都へと迎えわせないための壁として。そしてヘルサル方面……リク殿が活躍した方面ですな。あちらでは余分に食料を生産して、戦時中の補給を後方から支援するため。そして我が領地では、国最大の鉱山を擁しているため、武具等の物資を後方から支援する役割を持っています。領地が近く、農地も豊富なため、第二の食糧支援地ともなっています」

「成る程……やはり、国力を削ごうとすると、狙われる場所ではあるわけですね」

「もし、このルジナウムの街が壊滅した場合、私の領地から王都への中継地がなくなるという事にもなり……つまり、支援が滞るのは間違いないでしょうな……」


 もしかして、という予想というか思い付きではあるけど、その内容をフランクさんと話す。

 その間、フィネさんとモニカさんはずっと真剣な様子で聞いていた。

 ……コルネリウスさんは微妙だけど、気にしないようにしておこう。

 ともかく、間違っている可能性もあるけど、魔物を集結させて街などの主要な都市部を襲う……というのを狙っている可能性があるという事だね。


 本当に帝国が仕組んでいるのか、方法はどうやるのかなんていう事はわからない。

 だけど、ここ最近頻発している魔物が集団で押し寄せるという状況。

 単一種族の大量発生ならまだしも、複数種族の魔物が喧嘩をする事なく一緒にいるという事。

 偶然と考えて済ませるには、できすぎというか……誰かの意図を感じるには十分だと思う。


「では、私は至急王都へ報せを。リク殿の考え、確証と言えるものはありませんが……十分に的を射ている事かと思います」

「はい、お願いします。間違っている可能性もありますけどね。ともあれ、今はまず集結している魔物の対処です。戦力を持ってきて、魔物を殲滅するのが一番簡単なんでしょうけど……」

「前もってわかっていれば、こちらに向かって来る魔物を対処するより、こちらから向かった方が楽ですな。ですが……それだと、集結している原因がわからない可能性があります。それにその魔物達が脅威であると証明できなければ、人を動かせないかもしれません。……リク殿の言なのでそれで十分かもしれませんが……。強力な魔物も確認されているので、この街に現在いる冒険者だけでは、確実とは言えないでしょう」

「そうですね……できれば方法がわかるかはまだしも、何を意図して魔物が集結しているのかは、調べた方がいいとも思います。それに、人を集めて魔物へ向かうのにも時間がかかるでしょう。俺が言ったから大丈夫、というのはわかりませんが……慎重に見極める必要がありそうです」


 魔物がいる位置はわかっているし、今はまだ予想のうえでは完全に魔物が集まり切っていないため、現状で叩くのが一番いいのかもしれない……被害もまだ出ていないしね。

 だけどそれだと、ただ魔物がいたから殲滅しただけになる可能性が高い。

 魔物を集める方法がどうなっているのかはともかく、誰かの意図があるかがわかれば、本当に帝国と関係しているのか、判明するかもしれないしね。

 先制攻撃を仕掛けた方が有利……というのはわかるんだけど、今はまだ動く時じゃなさそうな気がする。


 それに、先日ノイッシュさんと話した時に聞いたけど、この街には現状で高ランクの冒険者は少ないようだし、人数が十分かどうかもわからない。

 多分、フランクさんとノイッシュさんが協力してくれれば、衛兵さんも含めてそれなりの人数が集められるとは思うけど……それでも被害が出る可能性は高い。

 さらに言えば、別の街やそれこそ王都から軍や冒険者をルジナウムに集めようとしても、時間がかかってしまうだろうし、結局今すぐどうこうできる事じゃないだろう。


「とはいえリク殿、黙って見ていては、いずれ魔物達も動き出すかもしれません。何かしらの手は打っておかないと……」

「それでしたら、既に考えてあります。まぁ、予想を元にしているので確実とは言えませんが……」

「さすがリク殿ですな。して、その考えとは?」

「えぇとですね……」


 そうしてようやく、フランクさんに先程エアラハールさん達と話して決めた内容を伝えた。

 一定以上まで魔物が集まらなければ、動き出さない可能性が高い。

 問題解決とまでは言えないが、時間を稼ぐことはできるから、その間に調査なり人を集めりなりといった事ができるだろうという事。

 もしもの事があれば、俺もエルサに乗って来て対処に参加するという事……流れで、今鉱山の方に魔物が出たので、そちらの調査もしている事を伝えた。


 調査依頼を一度に複数受けてい事に対して、フィネさんが特に驚いていた様子ではあったけど……。

 フィネさんはBランクの冒険者でもあるから、調査依頼が信頼できる人くらいしかギルドが頼まないと知っているみたいだね。


「なんと……ブハギムノング鉱山の方までリク殿が。あちらで魔物が出たという事は聞いていましたが、こちらの方が緊急を要すると、後回しにしていました。しかし、リク殿が関わっているとなると、緊急性が高いのですかな?」

「いえ……被害は今のところほとんどないので緊急性という程はないと思います。ただ、鉱山で採掘がほとんどできなくなっている状況なので、できるだけ早く原因を調査して、解決させたいなと思っています」


 最初にマティルデさんから話を聞いた時は、鉱山の方が緊急性が高いと思っていた。

 だから俺が直接行く事にしたし、元々ルジナウムの調査依頼より、鉱山の調査の方を受けようとしていたくらいだからね。

 けど、状況がわかってくると、ルジナウムの方が緊急性が高いなんてね……二つとも一緒に受けてて良かった。

 あの時、両方が地理的に近い事を察して、両方の依頼を受けられるかもと言ってくれたモニカさんには、感謝だね――。


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