第581話 リクの両親



「……リク殿、失礼いたしました。とんだ醜態を晒してしまいましたな。王城から領地へと戻った後、フィネを伴って戻っていたコルネリウスには、何度も叱りつけているのですが……邪魔をされたと言い訳をするばかりで……」

「あぁ、いえ……なんというか、大変ですね……」

「子供を育てるというのは、愛情はもちろんですが、厳しくもしないといけないと痛感しておりますよ。おっと、リク様はまだお若いのでこれからですな。どちらかというとコルネリウスに近いでしょうな」

「まぁ、そうですね。まだまだ若輩者なので、親の気持ち……というのはちょっと」

「はっはっは、私もリク様の頃はそうでしたな! しかしリク殿は英雄と持て囃されても驕ることなく、人々を救おうとする姿勢……コルネリウスにも見習わせたいですなぁ……。リク殿のご両親は、立派な息子を持って、さぞ喜んでいる事でしょう」

「あー、いや……その……」

「ん? 失礼ですが、リク殿のご両親は? さぞ立派なご両親と推察致しますが……?」


 説教が終わり、俺へと頭を下げるフランクさん。

 その後ろでは、コルネリウスさんが散々怒られたせいで、落ち込んで肩を落としている様子だけど……まぁ、危ない事をしたのは確かだし、仕方ないかな。

 何度叱っても、ついさっきまであまり反省していないみたいだったし……さすがに、俺やモニカさんの前で叱られたのは堪えたみたいだしね。

 フランクさんが言う父親の心境というのは、俺にはまだよくわからないけど、親の心子知らずとも言うし、こういうものなのかもしれない。


 とりあえず、笑いながら俺を褒めるフランクさんは、両親と言われて微妙な返答をした俺が気になったのか、少し突っ込んだ質問をされた。

 うーん……俺の両親が立派な人だったかどうか、あまり記憶にないからわからないな。

 小さい頃に亡くなったから……。


「立派な人物だったかどうかはわかりません……俺がまだ小さかった頃、亡くなったので。まぁ、記憶に残っている姿からすると、ちゃんと可愛がってもらっていたと思います。それに俺には、代わりと言っていいのかはわかりませんが、別に育ててくれた人がいますからね」

「それは……そうですか。失礼しました。調子に乗って失礼な事を。まさかリク殿のご両親が既に亡くなっているとは知らず、申し訳ない……」

「あぁいえ、気にしなくていいんですよ。少し寂しく思った事もありますけど、言われて気にする程ではありません。多分、育ててくれた人が良かったからでしょうけどね」

「リクさん……」

「……だわ」


 フランクさんに、両親が既にいない事を話す。

 その事実に、部屋の中は微妙な空気が流れ、フランクさんは突っ込んで聞いた事を謝った。

 けどまぁ、俺自身はそんなに気にしている事ではないし、両親がいないことは事実なので気にしてない。

 そもそも、小さかった頃に薄っすらと接した記憶があるくらいだし、もしまだ生きていたとしてもこの世界にはいないしね。


 それに、俺には姉さんがいてくれたから……一度は辛い出来事で記憶を封印してしまっていたようだけど、今は再会できたしね……この世界に来れて本当に良かったと思ってる。

 気にしていないとフランクさんに言う俺に対し、事情を知っているモニカさんは、心配顔をしているけど……大丈夫だから、気にしなくていいんだよ。

 あと、頭にくっ付いているエルサが、何を思ったのかくっ付けているお腹を摺り寄せるようにしてくれていて、モフモフで後頭部が幸せだ。

 契約しているからというのもあるのかもしれないけど、エルサは俺が寂しかった頃の話をすると、いつも黙って一緒にいるという意思表示をしてくれる。

 ありがとう、と心の中でお礼を言っておこう……面と向かって言うのは、なんだか恥ずかしいから。


「まぁ、俺の話はさておいて。フランクさん、集結していると見られる魔物の話なんですが……」

「おぉ、そうでしたな。いやいや、リク殿と会えた事が嬉しくて、ついつい重要な事を忘れておりました」


 ちょっとばかし重い雰囲気になってしまった場の空気を換えるため、さっさと話しを変えて本題へと戻す。

 モニカさんとも話したようだから、俺がここに来た目的もわかっているようで、フランクさんはすぐに乗ってくれて、魔物の話になる。

 コルネリウスさんはまだ、先程の説教から立ち直れていない様子だけど、フィネさんの方は俺の話を聞いて優しそうな眼を向けてくれていた。

 ……それ自体は悪くないんだけど……フランクさんの俺と会う事が嬉しいと言われた事と相俟って、少しやりにくいかなぁ……?


「モニカ殿にも、昨日伺いましたが……魔物が集まっているのは確かな事のようですな。理由はわかりませんが……」

「そうですね。確かに魔物が一つの場所に集まっているようです……」


 フランクさんと魔物が集結しているという事を確認し合う。

 なんでも、フランクさんの方は冒険者ギルドからの情報提供で今回の事を知ったみたいだけど、半信半疑だった。

 冒険者ギルドが、ある程度の魔物に関する情報を領主貴族に情報提供するのは、義務になっているらしいからね。

 ともあれ、それでも魔物が多く発生する事は珍しい事ではあっても、ない事ではない。


 だから、最初はいつもの事……というような感覚だったらしいけど、王城に魔物が押し寄せてきた時の事を思い出し、もしかしたらとなってこの街までわざわざ来たみたいだ。

 そして、俺やモニカさん達で確認したように、複数種類の魔物が集結しているのを確認し、通常の状態ではない、と冒険者ギルドに来て情報を確認していたところだった。

 俺が部屋に来る少し前までは、ギルドマスターのノイッシュさんもいたみたいだけど、あちらはあちらで忙しいようで、いくつかの確認と情報共有をして他の仕事へと退室したらしい。


 ギルドマスターともなると、やる事が多くて当然だろうしね……ユノと喧嘩した時は、随分長い時間俺達と話していたけど、あの時は偶然暇だったのかもしれない。

 ……まさか、貴族であるフランクさんと長話をするのが嫌で、仕事を理由に逃げ出したなんて事は……あの人ならありそうだけど、まぁ、追及はしないでおこう。

 

「複数種族の魔物が一つの場所に集結し、おとなしくしている状況……とてもではありませんが、通常起こりえる事とは思えませんな」


 フランクさんも、その事はよくわかっているらしく、魔物同士で争ったりしない事を不思議に思っているみたいだね。

 真面目な話になったからか、後ろにいるコルネリウスさんとフィネさんは、黙って俺達の話を聞いている。

 いや、コルネリウスさんはまだ先程のダメージが抜けていないらしく、落ち込んで肩を落としているだけだけど……フィネさんは、鋭い目をさせてしっかり話を聞いている様子だ。

 ……全身鎧を着ているから、顔も隠れててわかりづらいけど、隙間から覗く目は真剣そのものだった。

 睨んでいるわけじゃないはずだ。


「この状況、一つの場所に色んな魔物が……と考えると、王城に押し寄せた魔物の事を思い出しませんか?」



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