第580話 フランク子爵との再会



「時間があればでいいんだけど、会う事はできない? 陛下の言っていた通り、この街にいるのよ。それで、昨日調査を終えて冒険者ギルドに行った時、子爵が来ていてね……。リクさんがこの街に来た事を知って、会いたいと言っていたわ」

「そうなんだ……そうだね……まぁ、姉さんにもよろしくと言われてるし……鉱山の街へ行くのはそんなに時間がかかる事じゃないから、大丈夫だと思うよ。それに、魔物の事も話しておかないといけないしね」

「良かったわ。リクさんがすぐに街を離れた事を知って、すごく残念がっていたから」

「ははは、王城で会った時は親しくさせてもらってたしね。えっと……どうしたらいいんんだろう?」

「多分、冒険者ギルドに行けば会えると思うわ。リクさんが来るまで毎日様子を見に来ると言っていたし……まぁ、本当は魔物の集結を警戒して、冒険者ギルドと連携するために訪ねているらしいんだけどね」

「……俺と会う事が主目的になってるようなのは、多分冗談だよね……?」


 クラウスさんといい、フランクさんといい……どうしてこうもいい年齢のオジサマに好かれてしまうのか……ヴェンツェルさんもその中に入ると考えたら、想像で暑苦しくなってしまった。

 まぁ、ほとんど冗談なんだろうけど……頼りにされて悪い気はしないしね。

 それはともかく、さっき皆と話した事も含めてフランクさんにも話しておいた方がいいかもしれないから、会う事に問題はない……というかあった方がいいと思う。

 でも、なんでフランクさんは俺がこの街に来た事を知っていたんだろう……?


 モニカさんが話の流れで話したとかかな?

 俺とモニカさんが冒険者として、同じパーティだって事は知っているだろうから、わかって当然か。

 と、割とどうでもいい事が気になってしまったので、エアラハールさんの部屋を決めた後、フランクさんに会うために冒険者ギルドへの移動中、モニカさんへと聞いてみた。

 すると、フランクさんが知ったのはこの街の衛兵さん達からだったらしい。

 俺がこの街に出入りする時に、冒険者カードを身分証として見せた事で、英雄が来た! と衛兵さん達の間で瞬く間に広がったらしい。


 そこから、街を管理する代官さんやフランクさんへと伝わった、という事だ。

 ……人の噂って、広まるのが早いなぁ。

 パレードをしたりして、表立って顔を見せていないから大丈夫だけど、この街ではあまり目立った事はしないように気を付けよう。

 王都のように、外を歩けなくなるのは嫌だからね。



「おぉ、リク殿! お会いしとうございました!」

「あはは……フランクさん、お久しぶりです……」


 冒険者ギルドへ行くと、今日もフランクさんが来ているという事で、すぐに奥の部屋へと通された。

 受付に座っていた人は、俺が来た時にいた人とは違うけど、モニカさんの事を覚えていたらしい。

 通された部屋ではフランクさんが大きなテーブルの前に座り、書類とにらめっこしている様子だったけど、俺が入って来たとわかってすぐに破顔して迎えてくれた。

 年齢のいっているオジサンに、嬉しそうに迎えられるというのはクラウスさんも同様だけど、やっぱり微妙な気分……。


 ちなみにここまで来たのは、俺以外にはモニカさんとエルサだけだ。

 ソフィーとエアラハールさんは、それぞれの場所で活動するうえで必要な物を買いに行ってもらっている……という名目での観光だね。

 ユノは、エアラハールさんのお目付け役という事で一緒に行ってもらったけど、街を見て回りたそうな様子だったから、今頃楽しんでいるだろうな。

 部屋の中には、フランクさん以外にも全身鎧に身を包んだ騎士さんが二人。


 多分どころか、護衛をしている人だろう。

 フランクさんは貴族なのだから、街中を歩いたりするときには護衛がつくのは当然か。

 

「今日はもう会えないと思っておりましたよ。おっと、失礼しました。ささ、どうぞお座りください」

「あ、はい」


 見ていた書類を置き、手を広げながら立ち上がって歓迎してくれるフランクさん。

 すぐに嬉しそうに話始めようとしていたけど、立ったままという事に気付いて、椅子を勧められる。

 俺とモニカさんが並んで座り、対面にフランクさんが座って、話始めようとしたんだけど……。


「あのー……後ろの人達……多分護衛さんだと思うんですが、その人達からの視線というか……具多的には片方の人からの視線が痛いのですが……何か失礼な事でもしましたか?」

「あぁ、申し訳ありません。この者達は確かに護衛なのですがな……こら、コルネリウス! リク様にはあった事があるだろう! ちゃんと礼をしなさい!」

「え……? コルネリウスさん?」


 座っているフランクさんの後ろに、控えるようにしている護衛さん達。

 片方の背が低い護衛さんは、俺が入って来た時に会釈していたように見えたけど、もう片方の背が高い方の人はフルフェイスの兜から覗く目が怖いというか……なんだか睨まれているような感じだ。

 俺が何かしたんだろうか……? と思うけど、一応聞いてみたら振り返ったフランクさんによって注意されていた。

 というか、コルネリウスさんって……フランクさんの息子さんの名前じゃ……?


「……父上、しかしこの者は私の獲物を横から……」

「何を言うか! お前が身の程を知らずキマイラに挑もうとした事は知っている。しかも、リク殿が戦おうとする場面に乱入し、危うくやられそうだった事もな。フィネから全て聞いているぞ? そうであったな、フィネ?」

「はっ! フランク様。コルネリウス様はリク様がキマイラ討伐を成し遂げようとする際、自分の功績を求めて、戦いを挑まれました。私やカルステンの援護だけでは、コルネリウス様を救い出す事は不可能だったと思われます。リク様達のご助力あればこそ、今ここにこうして立っていられるのです」

「うむ。カルステンからも聞いておる。しかも、本来であればランクを上げなければ受けられないはずの、キマイラ討伐を強行した事もな。フィネやカルステンが、コルネリウスに付いて逆らえない事をいい事に、無理矢理参加させた事もだ。お前はそれでリク殿だけでなく、フィネやカルステンの命すらも危険に晒したのだぞ!?」

「っ……」

「えっと……フィネっていうとやっぱり……?」

「そうよね、あの時一緒にいた女性冒険者だったはずよね? 確かにお付きとかそんな感じに見えたけど、本来は冒険者ではなく、子爵家の騎士だったのかもしれないわね」


 記憶にある通り、コルネリウスさんはフランクさんの息子で、なぜなのかはわからないけど、今は護衛をしているらしい。

 俺を睨んでいた目は、フランクさんに言われてすぐに外し、父親へすがるような目になった。

 言い訳をしようとするコルネリウスさんは、すぐにフランクさんから怒られ、もう一人の護衛さんに確認をとる。

 というか、もう一人の護衛さんの方もフィネさんって……あの時一緒にいた、女性冒険者の名前出たはず。


 確かBランクだったっけ……? なんて考えながら、フランクさんが説教をしているのを見ながら、聞こえないような小声でモニカさんに確認する。

 モニカさんの方も、護衛の人がコルネリウスさんとフィネさんだとは思っていなかったらしく、驚いた表情だったけど、頷いて小さな声で答えてくれた。

 やっぱりそうかぁ……確かにフィネさんは冒険者というだけでなく、コルネリウスさんを昔から知っていたというような話をしていたから、本来は子爵家に仕えている人だったんだなぁ――。



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