第579話 エアラハールさんはルジナウムの街へ
「魔物が複数種族で集まるというのは、各国の文化や習慣の違う人間や獣人を含めた、その他の種族が協力しよう……とするようなものじゃ。普通は多かれ少なかれ、諍いが起きるのは当然の事じゃろう?」
「そうですね……人間同士でも、争う事がありますし……他国や他種族も含めてとなると、揉めない方が不思議です」
「そうじゃ。それなのに魔物達は種族の垣根を越えて集結しておる。……何か作為的なものを感じるのう……」
「言われてみれば、確かに……」
「そうね。ヘルサルのゴブリンはまだしも、王城へ押し寄せた魔物達も複数の種族がいたわ」
「強い魔物が弱い魔物を従える……という事もあるから、絶対に魔物が単一種族のみで行動するわけではないが……それでも多くて三、四種類といったところだろう。集結している魔物はそれ以上なのだろう?」
「えぇ。確認しただけでも、五種類はいたはずね……しかも、ユノちゃんが倒したキマイラもいたし……六種類かしら」
「集結しているのは森なのじゃろ? 奥にはもっといると考えた方が良いかもしれんの」
「少なくとも、十種類くらいはいてもおかしくなさそうですね……」
十種類前後の魔物が特に争う事もなく、ただ集まっているだけというのは、どう考えてもおかしい。
エアラハールさんに言われて気付いたけど、確かに作為的な何かがあってもおかしくないというか……むしろ誰かがそう仕向けているのかも、と考える方が納得できる。
具体的な方法はわからないけど……そもそも、魔物を争わずに一か所に誘導するってできるのかな?
「……方法に関しては、ワシらが考えてもわからんの。ともかく、魔物が集結しているというのは注意深く見ておかないといかんじゃろう」
「そうですね。よくよく考えてみると、王城に押し寄せた魔物達も、同じだったのかもしれませんし……」
確か、マティルデさんが魔物達が集結している事に関して、冒険者ギルドの方で調べているとか、それに近い事を言っていたような気がする。
向こうも、普通ではありえないと考えて何かおかしいと、調べているのかもしれない。
王城にはワイバーンも襲って来ていたし、オーガやゴブリン、ウルフなんかも含めて多種多様な魔物がいたのを覚えてる。
その時と同じかはわからないけど、ここでも似たような事が起こる可能性があるという事だね。
「とはいえじゃ、定期的に集結している魔物を減らせば、すぐにはこの街へは来そうにもないがの。ただの予測じゃが」
「そうなんですか?」
「考えても見るのじゃ。誰かが狙って魔物を集め、街を襲わせようとしているとした場合、半端な魔物の数で攻めようと考えるかの?」
「んー……できれば、確実に殲滅できる戦力が整えようとしますね。狙いが街の壊滅とかであれば、ですが」
「はっきりとした狙いはわからんがの。街を襲わせて魔物の恐怖を植え付けるだけという事もある。じゃが、どちらにせよ一定の戦力……数や種類になるまでは動き出さないはずじゃ」
「そうですね……」
「ならばじゃ、数や種類をそこまでにしなければ良いのじゃよ。まぁ、予測じゃし、仕組んでいる者がいるという前提での考えじゃがの?」
「エアラハールさんの言う通りね。確かに、この街が目的なら、生半可な数で襲おうとは考えにくいわ。どれだけの数や種類が集まれば動き出すのかはわからないけれど、数を減らせば少しは動き出すのが遅れる可能性は高いわね」
要は、一定以上の数や種族が集まるまでは街に押し寄せて来る事はなく、安全だという予想。
狙いがわからない以上、それだけを頼りにするのは危険だし方法の見当も付かないけど、本当に誰かが仕組んだ事だったら、そういう意図が働くのも当然かもね。
エアラハールさんの考えに、俺だけでなくモニカさんやソフィー、ユノも頷いて理解を示していた。
「じゃから、というわけでもないが……ワシもしばらくこの街に留まろうと思っておる」
「エアラハールさんがですか?」
「現役を退いた身とはいえ、まだまだ戦えるからの。魔物の数を減らす事に尽力しよう。モニカ嬢ちゃんの方も、訓練を引き受けた以上、一応は見ておかなければいかんしのう」
「それは……ありがたい事ですけど、大丈夫ですか?」
「なんじゃ? モニカ嬢ちゃんは、ワシじゃ役不足とでも思っておるのかの?」
「いえ、そういうわけでは……」
「なに、キマイラを軽々と倒すちいさ……ユノ嬢ちゃんもいるのじゃ、ワシの出る幕はないかもしれんがの。それでも、元冒険者として魔物を見過ごすわけにもいかんからのう。じゃが、その分モニカ嬢ちゃんには調査を頑張ってもらうがの? 元々そういう依頼なのじゃから、魔物を倒すのはついでじゃ。老骨に鞭打って戦うと言っておるのじゃ、モニカ嬢ちゃんがCランクだとかは関係なく、しっかりやるのじゃぞ?」
「は、はい。頑張ります!」
エアラハールさんがモニカさんと一緒にか……ユノがいるから元々大丈夫だと思っていたけど、それに加わってくれるのなら心強い。
本人は老骨に鞭打って……とか言っているけど、手合わせした時の事を考えると十分過ぎる程動けるだろうし、魔物も簡単に倒してしまいそうだ。
まぁ、無理をさせなければ大丈夫だと思う。
それこそ、ユノがいるから無理する必要はないだろうし、モニカさんや他の女性に変な事をしようと企んでも、止めてくれるだろうしね。
モニカさんが意気込んで頷き、エアラハールさんが協力してくれる事が決まって、俺やソフィーの方もはやいとこ鉱山の問題を解決しなきゃ……と決意を新たにした。
ブハギムノングの問題が早く片付けば、それだけこちらに注力できるしね。
エアラハールさんがいないと、ちょっと不安な部分もあるけど……まぁ、一応怪しい場所は見つけたし、エクスブロジオンオーガを対処する方法はあるから、大丈夫だろう。
……怪しい場所を調べても、何もなかった! なんて可能性も、否定できないんだけどね。
「お、そうじゃリク」
「はい?」
「当然わかっておると思うが、エクスブロジオンオーガと戦うのは昨日と同じように、あの剣で戦うんじゃぞ? もちろん、魔法も禁止じゃ。結界とやらは仕方ないがの」
「……はい、わかりました」
話もほとんど終わったので、少し早めの昼食をと店員さんに料理を頼み、皆で食べている途中、エアラハールさんによって釘を刺されてしまった。
見られていない場所でなら、と考えていたわけじゃないけど……これからの鉱山調査も気が抜けそうにないね。
「あ、そうだリクさん。ハーゼンクレーヴァ子爵の事だけど……」
「あぁ、フランクさんだね。どうかしたの?」
昼食後、エアラハールさんがこの街に滞在するならまず宿を、という事で、モニカさん達の泊っている宿に新しく部屋を借りるべく、そちらへの移動中モニカさんが思い出したように声をかけてきた。
フランク・ハーゼンクレーヴァ子爵……この街を含めた領地を治めている貴族の人だね。
確か、魔物が集結する様子に危機感を覚えている聞いたっけ。
姉さんから出発前に聞いた話では、この街にいるって言ってたような……?
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