第538話 高さに驚きながらも街到着
「こ、これ程までに高いのか……全力というのは、これ程まで……」
「うーん、あの時はもっと高かったと思うよ。少なくとも今の数倍はあったかなぁ」
「……高く飛んでもらって、多少想像ができるようになっても、そこまでとなるともはやよくわからんな。しかも、その時は速度も今とは違ったんだろう?」
「そうだね。結界があるから高く飛んだり速度を出しても問題はなかったけど……多分、明るいと周囲がはっきり見える分、もっと怖いと思うよ? 景色が流れるのも速いしね……いや、高いからあまり流れる景色はわからない……かな?」
「……まったく想像ができないが……今よりもさらに怖いだろうというのはわかるな」
「まったくじゃ。どんな事を考えれば、それが平気になるのじゃ……?」
「私は平気なの!」
「……私も、平気……かも……?」
「「……え?」」
もはや恐怖で、エルサのモフモフな毛にしがみ付いている状態になっている、ソフィーとエアラハールさん。
全力の時はもっと高かった事を説明すると、はっきりとは想像できなくとも、恐怖で体を震わせていた。
うん、二人は全力のエルサに乗るのは無理そうだね。
ユノは主張しなくても、全力の時に実際乗ってて楽しそうだったから、平気だってわかってる。
意外だったのは……モニカさんだ。
震える二人を見て、少し申し訳なさそうになりながらも、これ以上高くても平気との事だ。
実際にもっと高くまで飛んだら、意見が変わるかもしれないけど……今度、姉さんも含めて、一緒に乗るのも悪くないかな?
そんな風に、街への移動をする傍ら、高さへの耐性を見る試験のようになりながらも、順調に移動した。
空を飛んでいる時点で、順調じゃないなんて事はないだろうけどね。
とはいえ、さすがにいつまでも高い場所にいて、ソフィー達が恐怖に震えているのはかわいそうだったので、途中からエルサに高度を落としてもらった。
ユノと一緒に、モニカさんが少し残念そうだったけど……。
「到着なのだわー」
「ありがとう、エルサ」
「……地面があるというのは、素晴らしい事なんだな……」
「そうじゃな……やはり人間は、地上で生きるべきなのじゃな」
「ヘルサルに行った時のような危なっかしさはなかったし、ちょっと楽しかったわね、ユノちゃん?」
「うん、楽しかったの! でも、全力で飛んだ時は、もっと楽しかったの!」
遠目にルジナウムの街が見えるくらいの場所で、木々に隠れるようにしてエルサに下りてもらう。
お礼を言いながら、エルサの背中から降りて、小さくなりながらくっ付いて来るのを、後頭部でキャッチしドッキング。
ソフィーとエアラハールさんの二人は、高さにあてられたのか、少しフラフラしながら地面に足を付けて立つ事を喜んでいる。
高くまで飛んだ事を、楽しそうに話すモニカさんとユノが対照的だった。
「はい、冒険者カードです」
「確認します」
ルジナウムの街までしばらく歩き、門で衛兵さんに冒険者カードを渡して身分確認をしてもらう。
……こういうの、久々だなぁ……王都はほとんど顔パスだし、ヘルサルも同様だったから。
ルジナウムの街は、ヘルサル程ではないけど、高めの外壁に囲まれている街だ。
魔物がいる世界なので、それなりに大きな街となるとこうなるんだろう。
大きさは、エルサが飛んでいる時、遠目に見ただけだからはっきりとはわからないけど、大体ヘルサルの半分くらい……かな?
ヘルサルと比べて考えたり、計算すると……ざっと人口2万人前後ってところだろうか?
アテトリア王国としては、大きくもなく小さくもなくといった、平均的な街なようだ。
クレメン子爵邸のあった街よりは、少し小さくて人も少ないくらいかもね。
ただ、西側にある街の門は衛兵さんの数が、王都よりも多く感じて少しものものしい雰囲気にも感じる。
とはいえさすがに、トゥラヴィルトの街を初めて見た時とは違って、正規の衛兵さんで対応も身なりもきちんとしているようだったけど。
「人が多いように見えますけど、何かあったんですか?」
冒険者カードを確認してもらっている間、別の衛兵さんにちょっとした世間話をするように聞いてみる。
気になったら、聞いてみるのが一番だからね。
こういうちょっとした情報収集も欠かさないのが、上級冒険者としての鉄則……というのは街まで歩いている途中にエアラハールさんに言われた事。
「街の近くで、最近魔物の発見が多くありましてね。それで、中へと入り込まないように警戒しているんです」
「成る程。それなら、冒険者が活躍できそうですね」
「そうですね。魔物との戦いは我々ではなく、冒険者の領分です。立派な仕事を期待しますよ」
「はい。頑張りますね」
まぁ、正確にはこの街に残って仕事をするのはモニカさんとユノなんだけど、そこまで詳しく話さなくてもいいだろうからね。
世間話なんてそんなものだと思う。
それはともかく、街の近くで魔物を発見する事が多くなったというのは、近くの森へと集結している様子……と冒険者ギルドの情報と合致する気がするね。
やっぱり、小さな情報でも話をして聞くのは重要な事だと再認識。
おかげで、確かに街周辺の魔物が増えている事がわかったんだから。
「……失礼ですが……お名前を窺っても?」
「え? リクですけど……冒険者カードにも、書かれていますよね?」
「えっと、まぁ……はい。確かに、確認しました…………しょ、少々お待ち下さい!」
「?」
世間話をしていた衛兵さんとは別の、冒険者カードを渡して確認してくれていた衛兵さんから、恐る恐るといった様子で、名前を聞かれる。
カードにも名前の記載はあるはずだから、どうしてだろうとも思いながらも、正直に答える。
ここで嘘を言っても、怪しまれるだけだからね。
俺の名前を聞いた衛兵さんは、カードをもう一度見て確認し、ぎくしゃくしながら俺に一礼。
直後、敬礼をして大きな声を上げた後、詰所と思われる場所へと走って行った。
その様子を見て、俺と世間話をしていた衛兵さんは顔を見合わせ、首を傾げる。
……あ、俺の冒険者カード……まぁ、お待ち下さいって言ってるんだから、後で返してもらえるかな。
でも、何をそんなに慌てていたんだろう?
「これはあれね……?」
「うむ、あれだな。王都に初めて行った時以来か?」
「あれなのー」
衛兵さんの一人と顔を見合わせていた俺の後ろで、冒険カードの確認が終わったモニカさん達が何事かを話している。
ユノはわかっているのかわかっていないのか、単純にモニカさんの言った事を復唱しているだけのような気もするけど。
ちなみにユノやエアラハールさんは、同行者という事で特に何も確認はされていない。
まぁ、基本的におかしな様子がなければ、念入りに調べられる事なんてないしね。
冒険者である場合は、武器を持っていたり戦える者という事で、一応確認をされるくらいだ。
「モニカさん、何を……」
「し、失礼いたしました!」
「隊長?」
モニカさん達が何を話しているのかを聞くため、振り返って声をかけようとしていたら、詰所の方から先程の衛兵さんと一緒に、他の人より年上で、少し立派な装備をした衛兵さんが、慌てた様子で駆けてきた。
俺の近く駆け寄りながら、大きな声で謝られるけど……特に失礼な事なんてされていないよね?
一緒にいたもう一人の衛兵さんは、その人に対して首を傾げている。
というか、衛兵の隊長さんなのか……。
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