第530話 森に作った広場



「そんなマックスの使っていた盾を、あの嬢ちゃんがか。確かに、適任かもしれんの……ワシを簡単に殴り飛ばせる嬢ちゃんなら、盾を持っていても、最善の一手を乱発しそうじゃしのう……ひょっひょっひょ!」

「あー、まぁ確かにやりそうですね……」

「確かにそうねぇ。まぁ、ユノちゃんはともかく、エアラハールさん、父さんと母さんの事を教えて頂いて、ありがとうございました」

「なに、年老いた者が、昔話をしただけじゃよ」


 ユノに関しては、どうしてあの小さい体であれだけの事ができるのかわからない……というよりもはや意味不明の腕前だから、盾を持ちながらエアラハールさんと同等以上の動きをしても、不思議じゃない。

 モニカさん達は、よく俺に対して規格外だとか普通じゃない……みたいなことを言うけど、ユノが一番そうなんじゃないかなぁ……いやまぁ、元神様なんだから、当然と言えば当然なんだけどね。

 俺がユノの事を考えているのを余所に、モニカさんはマックスさん達の事が聞けたのが嬉しかったようで、エアラハールさんにお礼を言っている。

 話してくれたエアラハールさんは、少し照れ臭そうに視線を外していた。


 人に歴史ありとは言うけど、親しくさせてもらっていて、お世話になっているマックスさんやマリーさんの話が聞けて、良かったなぁ。

 またヘルサルに行った時は、マックスさんにその時の事を聞いてみようかな?

 本人は、照れてまともに話してくれないような気もするけどね。


「大分話は逸れたの。とにかくリクは、この剣を使って折らぬように戦う方法を考えるのじゃ。もちろん、力任せでは戦わせぬから、回避や受ける事も考えねばならぬの。最善の一手を今すぐ使えるようにとは言わんから、何か別の方法でもか考えるのじゃぞ?」

「……はい、わかりました……」


 もう一度ボロボロの剣を渡され、それを受け取りながら念を押されて、俺は頷くしかできない。

 そんな事不可能だろう……と考えていた事が、目の前で実行されるのを見てしまったからなぁ……今すぐには無理でも、いずれはできるようになりたいと思ってしまうのが、男心……ではなく俺心。

 折ってしまったらモフモフ禁止なんだから、絶対に折らないようにせねば!


 その後は訓練の話に戻り、手合わせの時の反省点を指摘されたりと、少々話をして、基礎の訓練へと移った。

 基礎と言っても、ほとんど素振りだとか型のようなものなんだけど、これを続けていれば、いつかは最善の一手とやらを繰り出せるようになる……と考えると、昨日よりも身を入れて訓練ができた。

 ……昨日も、ちゃんと集中して頑張ってはいたんだけどね……ほんとだよ?



「ふーん、その……最善の一手? とやらのために、訓練場の剣をねぇ?」

「いや、それは後々の事だと思うけどね。とにかく、俺が力任せに剣を振るわないようにって事らしいんだ」

「そうなのね。まぁ、りっくんが力任せに剣を振ったら大変だものね。いいわ、その剣はりっくんにあげる。どちらにせよ、それだけボロボロなら、買い替えなきゃいけなかったはずだしね」

「ありがとう、姉さん」


 夕食前、もはやいつもになってしまった俺の部屋に集まって、ヒルダさん達が用意してくれるまでの間に、エアラハールさんが持ち出そうとしていた、訓練場の剣を使う許可を姉さんにもらう。

 姉さんの言う通り、買い替えないと逆に危ないだろうというくらいの剣だけど、無断で持ち出すような事はできないからね。

 ちなみにエアラハールさんは、酒場に繰り出して行ったため、既にいない。

 お酒を飲んで騒ぐのが老後の楽しみだとか言っていたけど、酔って変な事をしなければいいけどなぁ。


「それにしても、また明日からしばらくりっくんがいないのかぁ。もう少しゆっくりしていたらいいのに」

「そうしたいとは思うけど、冒険者だからね。やっぱり、依頼をこなして人々の役に立たないと」

「でも、もう少し王都の近くとか……日帰りできる場所を選んだりはできなかったの?」

「ん~、できなくはないと思うけどね。でもやっぱり、ランクの高い依頼を受けようとすると、遠距離移動も仕方ないのかもね」


 食事の終わった姉さんが、部屋の天井を仰ぎながらしみじみと漏らしている。

 確かに、俺ももう少しゆっくりできたら……と思う事はあるけど、冒険者の本分は依頼をこなすして、困っている人達を助ける事だしね。

 それに、高難易度の依頼とものなると、王都から離れた場所になるのも仕方ない。

 基本的に、冒険者ギルドの依頼は受け付けた場所のギルドが、そこにいる冒険者を使って解決するんだけど、どうしてもこなせない時だってある。


 全ての冒険者ギルドの支部に、高ランクの冒険者がいるとは限らないからね。

 そこで、情報を共有して他のギルドに応援を頼んだりするんだけど、やっぱり王都には冒険者が沢山いるから、派遣のような形になる事が多いらしい。

 王都には冒険者が多いから、その周辺に関する依頼はほとんど問題なく完遂されるしで……必然と高いランクで、遠い場所の依頼を受ける事になる。

 時折、王都周辺でも高ランクの依頼が出る事もあるけどね……キマイラの討伐とか。

 タイミングにもよるらしいんだけど、高いランクになればなるほど、色んな場所に赴く事が多くなるみたいだね。


「仕方ないか。あぁそれと、話は変わるけど……クレメン子爵領にりっくんが行った時、途中で野盗を捕まえたでしょ?」

「あぁ、うん。ロータの父親を襲った人達だね」

「まぁ、その野盗達は処罰するだけなんだけど、その時に広場を作ったでしょ? ……一人の人間が時間もかけずに森の中に広場を作るのが、おかしい気もするけど」

「あー……ロータの父親のお墓を作りたかったからね。休憩する場所も考えて、ちょっと広い場所にしたかっただけで……」

「まぁいいわ。それで、そこに宿場を作ろうと思ったのね? クレメン子爵領と王都を行き来する時に、休憩するためにね」

「そういえばそんな事もしていたね」


 確か、クレメン子爵領からの帰り道に、王都から派遣された兵士さん達が建設作業をしていた。

 王都からクレメン子爵領に行った場合、一番近いオシグ村まで行くのに馬車で二日くらいかかるから、途中で安全に休める場所があるのは、いい事だと思う。

 早馬で走っても、途中で休む必要はあるしね。

 そう考えると、距離的に王都とオシグ村のちょうど中間くらいの位置にある、森の中の宿場というのはいい案なんだろうね。

 森の中にあるという事で、野党は排除したからいいとしても、魔物が襲って来ないか気になるけどね。


「とりあえずの宿が、もうそろそろできるそうよ。まぁ、もしもの時の避難場所にするから、それとは別に頑丈な建物を作るつもりだけどね。クレメン子爵の方からも、人手と資材を出してくれたからなんだけね」

「そうなんだ。これで、今までよりもクレメン子爵領に行きやすくなったね」


 オシグ村までの間、野営をする以外に夜を越す方法がなかったから、行き来する人にとってはありがたいだろうね。

 クレメン子爵にしても、王都と安全に人が行き来するようになれば、領内にもいい影響があると判断して、手伝ったんだろう。

 ……まぁ、国の中心である王都が始めた事だから、貴族として何もせず見ているだけというのができなかった、というのもあるかもしれないけどね。

 俺がエフライム達を連れて王都へ行く時に、クレメン子爵はオシグ村に滞在中だったから、王都へとの行き来を考えてすぐに手配したんだね――。



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