第522話 ヒルダさんのお茶で温まる
「それじゃ、王城に向かおう」
「わかったのだわ。途中までは全力でと飛ぶのだわー!」
「あぁ。まぁ、また暇があったら、ストレス解消に付き合うからな」
「それは是非になのだわ! それじゃ、行くのだわ!」
「全力なのー!」 ←結界前の真剣な雰囲気はいつの間にか霧散していつものお気楽モード
方向を変え、体を北側より少し西側に向けたエルサ。
移動を開始する前に声をかけ、またこういった遊びというか、ストレス解消をする事を約束した。
エルサは嬉しそうな声を上げながら、王城へ向かって再び全力で飛び始めた。
ユノの方は、結界前にいる時のような真面目な雰囲気は既になく、ただただ高速での移動を楽しむよな気楽な表情になっている。
まったく、見た目にそぐわない事を話し始めたと思ったら、女の子のように喜んで……どっちが本当の姿なのかよくわからないな。
まぁ、どちらも本当の姿と言われればそれまでだけど。
「降りるのだわー」
「あぁ」
「楽しかったの―。でももう少し、風を感じたかったの」
「それは、あの速度にもう少し慣れてからだな。でもそうすると、他の人がもっと乗れなくなってしまうからなぁ……」
王都が近付くと、速度を落としたエルサはゆっくりと王城の真上に移動。
そのあたりで、高度も少しずつ落として翼も四翼になっていた。
八翼のままにしておくのは、魔力を消費するらしいから、節約モードといった感じなんだろう。
王城の真上で一旦静止し、ゆっくりと中庭へ向かって降下する。
その途中で、少し物足りなさそうにしていたユノだけど、今回は試験的な部分もあったからね。
エルサの全力飛行がどれだけか見たかったし、結界を張るとしても色々大丈夫なのかを確認する意味合いもあった。
高度と揺れや、時折穴から入って来る強い風に耐えられるなら、モニカさん達を乗せられるかもしれないといったところかな。
ただ、ユノの言うように風を感じたいのなら、結界の穴を大きくする必要があるので、他の人は乗れなくなってしまいそうだ。
エルサにも言ったように、また暇がある時にでも夜間飛行をして試すくらいかな。
「お帰りなさいませ、リク様。エルサ様とユノ様も」
「ヒルダさん、ただいま帰りました。ずっと待っていてくれたんですか?」
「いえ、上空にエルサ様が見えたら報せてもらえるようにして、それまで休んでいましたよ」
「そうですか。すみません、こんな夜中に……」
「エルサ様の気分転換もあったのでしょう? 何も問題ありません」
中庭にエルサが着地して背中から降りると、建物の中からヒルダさんが出て来て迎えてくれた。
俺達が降りたのを確認して、小さくなったエルサが、俺の後頭部にくっ付いて魔力補充を始めたのを撫でつつ、ヒルダさんに挨拶。
いつも寝ている時間より、だいぶ遅くなってしまっているから、ヒルダさんも辛いだろう……と思ったんだけど、さすがに俺達が空を飛んでいる間は休んでいたらしい。
それでも、遅くまで起きている事は変わりないので、ちゃんと謝っておく。
お世話をしてくれている人だから、こういう事はしっかりしとかないとね。
その後はすぐ、気にしないと言ってくれるヒルダさんと部屋に戻り、淹れてもらったお茶を飲んで一息つく。
「ありがとうございます、ヒルダさん。はぁ~……空は少し寒かったから、温まりますね~」
「空というのは、寒いものなのですか?」
「そうですね……城の中は別として、夜って事もありますけど、やっぱり結構寒いですね。もう少し何か着て行けば良かったかなぁ……?」
「そうなのですね……」
「標高の高い山の上に登るのに近いかもしれません」
「成る程……」
ヒルダさんに用意してもらったお茶は、淹れたてだから温かい。
俺だけでなく、ユノとエルサも温かいお茶を飲んでホッと溜め息を漏らしている。
……エルサは、冷ましながらだけども。
ともあれ、ヒルダさんは空を飛ぶといった経験がないから、空が寒いといった感覚はないようで、不思議そうにしていた。
人間が空を飛ぶという技術が確立されていない世界だから、それも当然か。
エルサやユノと話したりはしなかったが、かなりの高度だったため、結構寒かった……とは言っても、肌寒い程度ではあるけどね。
基本的に、アテトリア王国は温暖な気候なため、凍える事はなかったけど……これが真冬とか、寒冷地だったら耐えられなかったかなと思う。
結界に穴を開けて空気のやり取りをしている事もあって、完全に冷たい空気を遮断とまではできないからなぁ。
余裕ができたら、魔法で周囲が暖まる方法を考えてもいいかもしれないね。
そんな事を考えながら、一応ヒルダさんにも説明。
とは言っても、俺が詳しいわけでもないのでとりあえず高い山の上は寒いという例を出して、半分くらいうやむやにするような感じになったけど……。
空気圧とか地面との距離とか地熱とか、なんとなくの仕組みはわかるんだけど……さすがに細かく説明する程の知識がないからね。
もしかしたら、姉さんあたりはそういった知識も持ってるかもしれないから、説明できるかもしれないけど……まだ飛行技術のない世界で、それが役に立つのかどうか……。
「あ、ヒルダさん。そろそろ休んでもいいですよ。後はお風呂に入って寝るだけなので」
「畏まりました。お風呂の支度は済ませておりますので、ごゆっくり」
「ありがとうございます」
温かいお茶を飲んで体を休ませていると、さすがに眠気が強くなってくる。
ヒルダさんにいつまでも付き合わせるのは悪いので、下がって休んでもらい、俺もエルサをお風呂に入れて休む事にした。
「むー、眠いのだわ……だわぁ……」
「ほらほら、もう少し我慢しろ? しっかり洗っておかないとな」
空を思いっきり飛べて満足したからか、ある程度魔力を使ったからなのか、こっくりこっくりと船をこぎ始めたエルサをお風呂場で洗う。
半分以上寝ているような気もするが、モフモフを保つためにちゃんと洗っておかないとね。
「……ブクブクブクブク……ズズズズ……だわぁ……」
「いやいや、桶のお湯を全部飲み干すって……寝惚けるにもほどがあるだろう……」
途中、お湯を溜めていた桶に顔を突っ込んでしまったエルサは、そのまま呼吸をするようにお湯を全て飲み干してしまうという、ちょっとしたアクシデントもあった。
口と鼻がお湯に浸かって、慌てて起きるかと思ったんだけど……飲み干してまで呼吸を確保するとは……予想外だ。
というか、どういう呼吸器官をしているのかと問いたい。
まぁ、ほとんど寝ているような状態だから、聞けないんだけども。
お風呂から上がったら、交代でユノにも入ってもらい、その間にエルサにドライヤーもどきで毛を乾かしてやる。
温風を当て始めた時には、既に寝入ってしまっていたけど、なんとなくいつもより幸せそうというか、満足感のある寝顔だった。
久しぶりに全力で飛びまわって、ストレスが解消できたからかもしれないね。
毛を乾かし終えて、至高で究極のモフモフを確認しつつエルサをベッドに寝かしつけた頃、ユノもお風呂から上がり、そちらにもドライヤーの魔法を使ってやった。
ちゃんと髪が乾いたのを確認した後、いつものようにエルサを挟んで就寝。
今日も色々な事があったから、ぐっすりと寝られそうだ……。
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