第497話 結界と新しい農業
「そんな事よりも、りっくん?」
「ん、どうしたの?」
「昨日は途中までだったけど、ハーロルトからの報告を聞いたわ。ヘルサルでの結界の事よ!」
「魔物を寄り付かせないための結界だったんだけど……どうかした? 何か悪い事でも……」
「その逆よ。多分、これは農業の革新になるわよ?」
「革新……?」
うーん、魔力を練る事の方で、近い事を聞いたような……?
確か、アルネかフィリーナ辺りが言ったんだったっけ。
そのアルネとフィリーナは、夕食はいらないと言って、書庫へと引きこもった。
なんでも、魔力を練るという事に近い記述を見たという、アルネの言葉によって、その本を探して研究するためらしい。
俺が魔力を練る方法を見せた事で、本に書かれていた事がもしかしたらそうではないかと、思い当たったらしい。
それまでは、何のことが書かれているのか、ほとんど理解できなかったとの事だ。
昔の人も、同じように考えて試してだたんだなぁと思うのと一緒に、何かの参考になったようで嬉しい。
おっと、今はそれじゃなく、ヘルサルでの結界の話だね。
でも、結界を張って魔物を防いだ事が、どうして農業の革新につながるんだろう?
「昨日はまだ、時間がなくて魔物がどうの……という話までしか報告を聞いていなかったけど、今日結界って魔法を農場に張ったというのを聞いたのよ」
「そうだね、確かに結界を農場に張ったね。フィリーナが協力してくれたおかげで、魔物が入り込む危険が減って良かったよ。それが農業の革新ってやつなの?」
「うんまぁ、魔物が近寄って来ないというのは、素晴らしい事だと思うわ。作物や人が被害に遭う事が少なくなって、結果的に生産力の向上にも繋がるはずよ。でもそういう事じゃなくてね? その、結界というのは、農場全体を完全に覆っているのよね?」
姉さんは今日になって、ハーロルトさんからの報告を全て聞いたようで、興奮気味に話している。
昨日は、ヴェンツェルさんを捕まえたり、姉さんの方にも仕事があったりで、全部聞く余裕はなかったんだろう。
さすがに、全体の概要くらいは聞いてると思うけどね。
けど、昨日の夕食の時はそうでもなかったのに、今日いきなりこの様子になっているのはどういう事なんだろう?
結界が関係してるみたいだけど……。
なんだか、魔力を練るという事を知りたがったアルネ……は言い過ぎだけど、ヘルサルでのフィリーナと同じくらいの食いつきだ。
うぅん……魔力の事もそうだけど、そんなに驚くような事をしてたかなぁ?
思わぬ姉さんの勢いに、モニカさん達一緒に夕食を頂いている皆が、ポカンとしていた。
「確かに結界は、農場を覆ってるね。ただ、完全にじゃないよ? 人が出入りする事も必要だから、入り口を作ってあって、そこを魔物が入らないように見張っていれば大丈夫なようにしてある」
「そうなのね……いや、入り口の事は今はいいわ。とにかくその結界よ。確か、空気すら遮断するんでしょう?」
「え? うん、そうだね。目にはほぼ見えないけど、薄い壁を作る感じに似てるかな? 本来は魔法なんかの攻撃を防ぐ物だと思うけど……まぁ、色々あって外に漏れないようにしたんだ」
「魔力だまりだったわね。それも報告で聞いたわ。それはともかく、気付かない? 空気も通さないような密閉空間を作ったのよ、りっくんは?」
「密閉空間……まぁ、入り口はあるけど……それは置いておいて……何か問題でもあるかな?」
密閉空間を作ってそこを農場に、というのは何かあるんだろうか?
降った雨が農地に行かないから、天気とか関係なく水を運んでやる必要があるけど……それが革新なんて言い方になるわけないし……。
「もう、りっくん。ハウス栽培よ、ハウス栽培!」
「ハウス栽培……? あの、ガラスやビニールで覆って、温室を作る?」
「そうよ、それよ! 温度管理がちょっと難しいだろうけど、りっくんがヘルサルでやったのは、ハウス栽培と似たような事なのよ!?」
「えぇと……そんな事は考えてはいなかったんだけど……」
ハウス栽培は、ガラスやビニールを使って温室を作り、一年を通して内気温を一定にする事で、季節が変わってもずっと同じ物を栽培できる……というものだった気がする。
農業に関してはあまり詳しくないから、正しいのかわからないけど、おおよそそんな感じだと思う。
冬なんかは、内部を温かくするのが大変とか夏は冷やしたりなど、温度管理をする必要があるみたいだけど、一定に保たれた温度で栽培された作物は、品質を保ちやすいとかなんとか聞いたような気もする……違ったかな?
あと、ちゃんと管理していれば確か害虫とかを減らせるんだったけ……これはこの世界における魔物も同様、と考えられるのかもね。
「考えていなくとも、結果そうなったのだから関係ないわ。ともかく、ハウス栽培ができるのなら、この国の作物事情は一気に変わるわよ? それこそ、一年中キューを作る事だって可能よ」
「キューをなのだわ!?」
興奮した様子で力説する姉さんに、キューと聞いてエルサが大きく反応。
とりあえず、エルサは少しおとなしくしていような? キューを年中栽培すると決まったわけじゃないから。
おとなしくしてもらおうと、モニカさんとユノに預けて、可愛がってもらう事にする……ソフィーも手を出したそうだね……まぁ、いいんじゃない?
「ガラスは高価で採算が合わないし、ビニールなんて生産できないから、諦めていたのだけど……その結界があれば、ハウス栽培を実現して生産力を向上させる事ができるわ! なんてったって、広大な農場を簡単に覆えるくらいなんだから!」
「まぁ、ガラスやビニールを使って覆うよりは、簡単にできるよね……俺が結界を張るだけだし」
「陛下、その……ハウ栽培? というのは、それ程の物なのですか?」
「そうよエフライム! 魔物を引き寄せない事で、人や作物への被害が抑えられる。さらに天候による影響を減らせられるから、作物を確実に管理する事ができるわ。農作業をする人の手間すら減る事も多いはずよ。あとそうね……これが最大の利点だと思うのだけど、年中同じ作物を育てる事ができるから……例えば、取引される作物が効果になる時期を狙って出荷する事で、利益を増やす事もできるわね」
「それはすごい事ですね陛下! 民の負担を減らせられて、利益も増えるのなら、民が……後々は国全体が潤う事ができる!」
「そうなのよ。さらに言うなら、天候に左右されないために不作になる事も減るはずよ。つまり、豊かな国にする事ができるはずだわ!」
「おぉ……ハウ栽培とはそこまで……」
「一応言っておくけど、ハウス栽培ね、エフライム」
作物に関する事なので、次期子爵家当主のエフライムが興味を持ったようだ。
まぁ、領地を治めるのなら、そういう事も考えないと駄目だからなんだろう。
興奮が収まらない姉さんに力説され、ハウス栽培の素晴らしさを理解したエフライムは、そのまま引き込まれるように興奮し始めた。
せっかくエルサをおとなしくさせたのに、興奮している人が増えちゃった……。
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