第465話 のんびりとしたカフェでの時間
「リク様は、魔物を討伐する力だけでなく、思慮深いのですなぁ。このクラウス、感服致しました! すぐに、手配致しましょう!」
「あ……行っちゃった……受けてくれたって事で、いいのかな?」
「まぁ、いいんじゃない? それにしても……種置いて行っちゃったわね……」
「そうね。明日には王都へ帰らなきゃいけないのに……あ、私もエヴァルトへ連絡しておこうっと」
俺の提案や説明を聞いて、何やら興奮した様子のクラウスさん。
思慮深いって……わりと思い付きだったんだけど……クラウスさんにはそう見えたようだ。
そのままの勢いで、すぐにエルフの集落や村へ連絡をするため、勢い込んでトニさんを連れて退室してしまった。
止める間もなく出ていったので確認しそびれたけど、お願いを受けてくれたと思っていいのか、首を傾げる。
それに対して、モニカさんが溜め息混じりに言いながら、テーブルの上に置かれたままになっているスイカの種を見る。
モニカさんは、話は聞いていたようだけど、またユノが話を遮らないように相手をしてくれていた。
明日俺達は王都に帰るから、できれば今日中に種を渡しておきたかったけど……まぁ、直接渡せなかったら、誰か他の人に頼んでもいいか。
エルフの集落が関わっているから、フィリーナはついでにこちらに来てからの事を連絡するため、部屋を出て行った。
伝令か何かを頼むんだろうけど、明日は出発でそれどころではなくなるかもしれないから、今のうちにという事なんだろうね。
部屋に残った俺とモニカさん、エルサとユノで用意されていたお茶を飲みながら、スイカの種を眺めて少しだけ休憩。
皆、話に夢中だったけど、お茶くらいは飲んでいけばよかったのになぁ……と、飲む人がいなくなり、冷めてしまったカップを見ながらため息を吐いた。
「はぁ、皆もう少し落ち着いてゆっくりしたらいいのになぁ……」
「原因はリクさんにあると思うんだけれどね……まぁ、皆楽しそうだからいいのかな?」
「そうかな? ……そうかもね」
お茶を飲みながら、ゆったりと椅子の背もたれに体重をかけつつ、呟く。
モニカさんが苦笑して、原因は俺だと言うけど……考えて見れば確かにそうかもね。
フィリーナが魔力を練る事だとか、集落への連絡をというのは、俺が言い出した事が原因なのは間違いないし、クラウスさんが忙しいのは……俺のせいだけでもないと思うけど、スイカの事を追加して仕事を増やしたのも間違いない。
結界を張って、問題の一つを解決したのも確かだから、クラウスさんの方はプラスマイナスゼロってとこかな?
「リク、喉が渇いたのだわ」
「そう? それじゃ……冷めてるけど、皆が手を付けなかったお茶を飲むといいよ」
「わかったのだわ」
カフェに入って来て、話を始める前に皆がそれぞれ飲み物を頼んでいたんだけど、フィリーナとクラウスさんはそれに手を付ける間もなく話に夢中になり、出て行った。
だから飲みかけという事はないし、このまま手を付けずに残すよりはいいと思う。
ちなみに、軽食くらいは頼めばあるんだけど、帰ったら獅子亭の料理が待っている事もあって、何も頼んでいない。
美味しい食事が待ってるとわかってるのに、別の物でお腹を膨らませるのは、もったいないよね……この店の料理が美味しくないというわけじゃないけども。
「んっ……冷めてるのが丁度いいのだわ」
「暖かいお茶は駄目だっけ、エルサは?」
「淹れたばかりのお茶は、熱すぎて飲めないのだわ」
「……飲み方を考えると、仕方ないか」
俺の頭からテーブルに降りたエルサは、後ろ足だけで器用に座り、前足……両手を使ってカップを持つ。
そこから、前に突き出してる鼻と口をカップに入れて、中に入ってるお茶を飲んだ。
冷めてるお茶を満足そうに飲むエルサを、モニカさんと見て和みながら、猫舌だったかな? と思い聞いてみる。
人間とは違って、カップを傾けて口に流すといった飲み方ではないため、熱かったら飲めないのも当然だよね……鼻とか特に。
猫舌かどうかはともかく、大きくなったら人間に近い飲み方もできるのかな? と思いながら少しだけまったりとした時間を過ごす。
ユノは、お茶を飲むエルサの尻尾を指先でいじりながら、まったりしているし、エルサの方もそれをわかってて、ゆっくり尻尾を動かしていて、お互いのんびりしてるようだ。
そういえば、珍しくエルサが飲み物の要求をしたけど、いつもならキューをおやつに食べたいと言い出す頃だったはずだ。
けど、それをせずにキューではなくお茶で喉を潤そうと考えたのは、エルサはキューを食べ過ぎないよう気を付けてるという事かもしれない。
あと、マックスさんが昨夜言っていたように、帰ったらスイカを食べられるという事も大きいのかもしれないね。
「そういえば、リクさん?」
「ん、どうしたのモニカさん?」
暇潰し……というわけじゃないけど、お茶を飲んでまったりしていると、ふと思い出したようにモニカさんから声をかけられた。
ほんの少しだけ視線が鋭くなっているのは、気のせいなのだろうか……。
「……リリーフラワーの……ルギネさん、だったかしら。あの人の事は、どう思ってるの?」
「ルギネさん? えっと……」
モニカさんから聞かれたのは、ルギネさんの事。
どうしていきなりそんな事を聞かれるのか疑問だったけど、ルギネさんの名前を出した瞬間に、またモニカさんの視線が鋭くなった気がしたので、その疑問を口に出せなくなってしまった。
エルサとユノは、何故か体を竦ませて、俺やモニカさんから離れるように、テーブルの端へカップを持って移動した。
「……悪い人じゃないんじゃないかな? 最初に会った時は喧嘩腰だったけど……あれはソフィーといる事での勘違いが原因だしね。魔物討伐も真面目にやってたし、向上心もあるみたいだしね」
背中に嫌な汗が流れるのを意識しながら、ルギネさんの事を考えながら、モニカさんに伝える。
マギアプソプションの討伐は、俺への対抗心みたいなのも感じたけど、結局モニカさん達も気持ち悪くて積極的に戦わなかった相手に、ルギネさんは臆する事なく向かっていった。
向上心については、昨日街を散歩する時、俺について来る事で参考になる事がないかと考えてたみたいだしね。
……結局お婆さんの治療や、俺の剣に魔力を吸われてしまった事で、それどころじゃなくなったけど。
参考には、ならなかっただろうなぁ。
「ふーん。そうなのね。まぁ……確かに魔物の討伐は真面目にやってたわ。そこのところは、私に何か言える事はないけど……」
マギアプソプションとまともに戦ったのは、俺とルギネさんだけだったからね。
マリーさんに叱られた事もあって、モニカさんはそこに何かを言ったりする事はなさそうだ。
「でも、その後の事はちょっと……」
「その後?」
「リクさんが、ルギネさんを抱き上げて運んだ事よ。それに、昨日もそうだったし……」
「あぁ……あの時の」
「……私だって、あんなふうにされた事がないのに……」
「ん?」
「なんでもないわ。でも、わざわざリクさんが抱き上げなくても良かったと思うのよ」
モニカさんが聞きたい事は、結局俺がルギネさんんを抱き上げて運んだ事だったらしい。
途中、小さく何か呟いたようだけど、聞き返しても首を振って誤魔化されるだけだった……何を呟いたんだろう?
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