第450話 お婆さんの家へお見舞い


 孫である男性に、お婆さんの具合を聞いたけど……。

 足が悪いと言うのは、年老いた人に多い症状のような気がする。

 これ自体はルギネさん達に責任はないけど……足首の異常と手首を痛めた、かぁ。

 骨にひびが入ったとか、捻ったとか……かな?

 知識があまりないからわからないけど、痛みに耐えて立っていたらしいから、折れてはいないと思う。


 この世界に、レントゲンなんてものがないから、骨に異常があるとわかっても、精密な検査をする事はできないし、ひびが入ってるかどうかを調べる事もできないだろう。

 調合した薬を使って、あとは自然に回復するのを待つくらいかな。

 もしかすると、それだけでお婆さんが治るかどうかは、わからない。



「えーと、そのお婆さんがいる場所を教えてもらえますか?」

「教えてどうするんだい? あぁ、その子を行かせてお見舞いでもするのか」

「まぁ、そんなところです」

「お見舞いするの!」


 お婆さんの怪我の具合を聞いて、なんとなくこのまま治らないんじゃないか……と思い始めてる俺。

 年齢がかさむと、怪我の治りが悪くなるだけでなく、骨に異常があった場合、そのまま……というのを、この世界に来る前に聞いた事があるせいかもしれない。

 だったら、ルギネさんの時やエルフの集落の時のように、俺が治せばいい。

 ユノがお世話になってるみたいだし、それくらいの事は、してもいいよね。


 男性に頼んで、お婆さんの家を教えてもらい、一緒に来て謝ると責任を感じてるルギネさんを連れて、そこへ向かう。

 家の場所は、軽く聞いただけで大丈夫。

 ヘルサル防衛戦の準備をしている時、連絡係として街中を行ったり来たりして、完全に地理を覚えたからね。

 

 露店で商売できなくなる程の怪我を負っていると聞いて、お婆さんの家へ向かっている最中は、ルギネさんとアンリさんの二人は言葉少なだった。

 責任を感じてるんだろうなぁ……まぁ、アンリさんはそれでもエルサを離さなかったけど。

 ……エルサが離れないせいもあるかもしれない。

 


「誰だい?」


 ヘルサルの街を歩いて、お婆さんの家へ到着した俺達。

 木造平屋の入り口をノックすると、中からしわがれたお婆さんの声。

 良かった、怪我をしていて動くのがままならなくても、声はそれなりに元気そうだ。


「すみません、リクです。お見舞いに来ました!」

「お婆ちゃん、お見舞いに来たの!」

「リク……? この声は、ユノちゃんかい!?」


 俺の名前には、少々訝し気な声が返って来たけど、ユノの声には驚いてる声が中から聞こえて来た。

 ユノはまだしも、俺の名前……あまり覚えられてなかったんだ。


「お婆ちゃん、入ってもいいの?」

「もちろんだよ、入っておいで。すまないけど、私じゃすぐに扉を開けられなくて!」

「わかったの!」


 ユノが続いて中に声をかけると、入ってもいいと許可が出た。

 多分、足の怪我で思うように動けないから、扉を開けられないから、勝手に入って来てという事だろう。


「お邪魔しまーすなの!」

「失礼します」

「おやまぁ、ユノちゃん。よく来てくれたねぇ!」


 元気よく扉を開けて、中に入るユノに続いて、俺も家の中へ。

 ルギネさんとアンリさんは、顔を合わせる事を躊躇しているのか、扉の前で立ち止まったままだ。

 家の中は綺麗に整理されており、居間と台所が一緒になったダイニングのような場所で、椅子に座っているお婆さんが俺達を迎えてくれた。

 奥の方に廊下と、部屋の扉がいくつか見えたから、さっきの孫の男性か誰かと一緒に住んでるんだろう。

 怪我をしてお婆さんの一人暮らしは、生活もままならなくなるから、その部分は少し安心。

 俺達を迎えてくれたお婆さんは、座ったままで、嬉しそうな笑顔だ……主にユノにだけ向けられてるけどね。


「お婆ちゃん、大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。これくらいの怪我、すぐに治して、またユノちゃんに珍しい商品を見せてあげるからね! ……つぅ!」

「……無理はしない方がいいと思いますよ?」

「アンタは、ユノちゃんと一緒にいた子だね。そうか……アンタがリクかい。噂は聞いてるよ」

「噂……?」

「街を救った英雄だってね。まぁ、私はゴブリン達が襲ってきた後に、この街に来て商売を始めたからねぇ。今まで知らなかったんだよ」


 ユノに元気だと示すように、右手を振るお婆さんは、すぐに痛みで顔を歪めた。

 痛めてるのは、右手の方か……右利きだったら、生活も不便だろうな。

 そう思いながら、無理をしないよう注意をすると、俺を見たお婆さんが噂を聞いたとの事。


 ユノの買い物をした時、お婆さんは大通りで露店を開いていたけど、ヘルサルのあちこちを行き来していた防衛戦前では見かけなかった。

 そうか、ゴブリン襲撃の後に来たから、知らなかったんだと納得。

 俺の事を知らないようだったのは、初めて会った時に感じたが、後から来たんだったら当然だね。

 以前から街に住んでいても、俺の事を知らない人も時折いるしね。

 ……むしろ、騒がれない分、知られてない人の方が接しやすい時もあるからなぁ。


「あー、あはは、そうだったんですね」

「知らない事とは言え、失礼な事をしてたらすまないね。街を救った英雄様に相手だ、もっと敬って欲しかっただろうに」

「いえ、それは全く。むしろ、普通に接して話してくれる方がありがたいですね」

「そうなのかい? 冒険者は功績を誇る事が普通だと思ってたんだけどねぇ……?」

「皆から散々言われてるので。それに、俺なんかが皆から敬われるってのも、ちょっと慣れないので。今まで通りに接してくれればいいんですよ」

「普通とは違う冒険者……だからこそなのかもねぇ。そうかい、アンタがそう言うなら、今まで通りにさせてもらうよ」

「はい」


 苦笑している俺に、軽く頭を下げるお婆さん。

 噂というか、ヘルサルを守った事を聞いて、俺が功績を誇らしく思ってると考えたんだろう。

 確かに、町を守った事は誇らしいけど、俺一人の功績じゃないと思う。

 協力してくれた皆がいるんだし、俺一人英雄と言われて祭り上げられてもなぁ……と思う。

 王都の城下町のようになったら、ちょっと面倒だしね。


 そう思って、今まで通りで大丈夫だとお婆さんに伝えると、珍しい物を見たように目を瞬き、ニヤリとした笑顔を見せて頷いた。

 変に敬われたりするよりも、普通にしてくれてた方が話しやすいしね。

 今まで通りで十分だ。

 ……それはともかく、まだルギネさん達は入って来ないのかな?


「お婆ちゃん、もうお店には出ないの?」

「ごめんねぇ、ユノちゃん。アタシは出たいんだけど、孫がねぇ。無理はするなって止めるんだよ。大丈夫さ、すぐに怪我を治して、店に出るから!」


 お婆さんに懐いてるユノが近付いて心配そうな表情で聞くと、元気の良さをアピールするように、明るい声を出す。

 けど、それも空元気というかなんというか……お婆さんじゃなくとも、骨に異常があるような怪我なら、一日二日で治る事は普通ない。

 嘘というより、ユノに過度な心配をかけないように気遣ってるんだろうなぁ……。



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