第431話 ガラスの掘り出しに成功



「斬れない程硬いのは、俺自身もびっくりだけど……さすがに剣を使うなら言ってよ、ソフィー」

「すまないな。どれだけ硬い試したかったんだ。……私の剣の方が折れそうな手ごたえだったぞ?」

「それは、喜んでいいのかな……?」

「何はともあれ、ちゃんと土の棒ができたんだし、それを持ってエルサちゃんで空に行きましょう? それができた事で、リクさんが魔法を失敗する可能性も低いとわかったんだしね」


 いきなり剣で斬ろうとしたから、びっくりした。

 棒を持っている手にも、結構な衝撃が来たし……ソフィー、結構本気で振ったんじゃないかな?

 そう思って注意するように言うと、謝りながらもあまり悪びれた様子はなかった。

 まったく……。


 棒を持ったまま、話していると、何かを考えていたモニカさんが悩むのを止め、声をかけられる。

 確かに、悠長にしてたら時間ももったいないから、さっさと終わらせよう。

 モニカさんが付け加えた、失敗する可能性が低いというのは、土を移動させて固めるという事ができたんだから、穴を開けるのも大丈夫だろうという事だと思う。

 穴を開けるよりも、イメージしづらかったから、これで成功したのなら、確かに大丈夫そうだね。


 土の棒を持ったまま、エルサの所へ移動。

 フィリーナがずっと何やら考えてたけど、エルサの所まで来た段階で、「アルネに任せるわ」とか呟いて考えるのを止めた。

 ……何を任せるんだろう?


 フィリーナへの疑問は一旦置いておいて、土の棒を地面に置き、大きくなったエルサの背中に乗った後、口で咥えたエルサから棒の端を受け取る。

 そのまま、ふわりと浮き上がって棒を持ったまま空へ。

 地面に付く程の長い棒があるからか、エルサが飛びづらそうにしてたけど、仕方ない。

 なんとか、翼の動きを邪魔しないように、背中の後ろの方で待機。

 ゆっくりと魔力溜まりの直上へ移動してもらう。


「ここかな?」

「もう少し右ね……そう、そこよ」

「ここだね」


 エルサの背中から、身を乗り出して地上を確認しつつ、土の棒を目標の場所へ。

 フィリーナの指示に従って、棒を動かして魔力溜まりの中央……ガラスの埋まっている場所へ持って行く。

 コツンという衝撃を手元で受け、土の棒がしっかり地面に触れているのを確認。


「穴を掘る場所にしっかり触れてるようだね。それじゃ、ここから魔法を使って……」

「しっかり、魔法が伝わるようにイメージするのだわ。棒を伝うようにだわ。ここで魔法が具現化するようには考えないのだわ」

「わかった」


 エルサの助言を受けて、イメージを開始。

 棒を持ちながら、棒ではなくその先の触れている地面の土を移動させて穴になるようにイメージ。

 ただ、穴を掘っただけだと、底からガラスを取り出すのが難しいか……どうしようかな。

 そうだ、土を移動させられるんだから、それを使ってガラスを地上に持って来ればいいのか……。


「イメージできたよ。それじゃ……って、皆、離れ過ぎじゃない?」

「いえ……今までの事があったから……」

「失敗する可能性が低いと言っても、全くないわけじゃないからな……一応?」

「リクの魔法は、周囲への被害が酷い事もあるから……」

「私に乗られてるから、離れられないのだわ……」

「楽しみなの!」


 目を閉じてイメージをし終わると、傍には誰もおらず、エルサに乗っていられるギリギリの位置まで皆が移動していた。

 口々に失礼な事を言われた気がするけど……今まで確かに失敗したり、周囲に影響を与えた事もあるから、甘んじて受け止めようと思う。

 空を飛んでまで魔法を使おうとしてるのは、俺がやった事が原因だしね。

 エルサは俺達を乗せて飛んでるために離れられないのはわかるけど、唯一俺の傍で目を輝かせて魔法が使われるのを待っているのはユノだ。

 俺の味方はユノだけか……魔法の失敗に巻き込まれても、自分でなんとかできるからかもしれないけど。


「……今までが今までだから、仕方ないか。じゃあ使うよ?」

「ワクワク」


 口でワクワクと言っているユノ以外は、頷くだけで緊張した様子だ。

 それを見ながら、イメージを固めた魔法の名前を決め、口に出して発動する。


「ムービングアース」


 土色になった魔力をさらに練って、魔法を発動。

 手に持った棒へふんわりとした魔力が纏わりつくが見える。

 それが最初はゆっくりと、すぐに目で追うのもやっとなくらいの速度で、棒を伝って地上へ向かう。

 魔法というか、魔力って、こんな感じに移動するんだなぁ……。


 そんな事を考えながら見ていると、数メートル離れた地上で土がモコモコと移動しているような動きが見える。

 離れてるので、はっきりとは見えないけど、一旦深くまで開いた穴が、日の光を受けてキラキラと輝く破片のような物が、地上へと上がって来た。

 ついでに、穴も埋められてる。

 さらに、土ではないマギアプソプションの物と思われる、複数の塊も地中へ飲み込んでいく……こんな効果、イメージしてなかったんだけどなぁ。

 まぁ、土を動かしたら、簡単に埋めたマギアプソプションの死骸が出てくるのは予想してたけど、埋め直す手間が省けたと思っておこう。


「あのキラキラしたのが、ガラスかしら?」

「そのようだ。多分、陽光を反射しているんだろう」

「今、マギアプソプションが地中に飲み込まれて行った気がするんだけど……」

「そこは、リクの魔法だから、細かい事は気にしないようにするべきだな」

「こちらに変な影響がなかっただけ、良しとするべきね」


 魔法を発動してから、地上の様子を見ていると、離れた場所でフィリーナ達も様子を見ながら何やら話しているのが聴き取れる。

 はっきりとはわからなかったけど、光を反射するガラスを見て確認してるようだね。

 ユノは、俺の隣で楽しそうに地上を見てる。

 もしかすると、ユノにはここからでも地上の様子が全て見えてるのかもしれない。



「魔法は成功したみたいだけど……これはどうするの?」


 ガラスが地表に出て来た事を確認し、エルサに降ろしてもらってすぐ、俺がまだ持っている土の棒をモニカさんが示しながら聞かれる。

 土の棒は、俺が魔法を使った影響なのか、所々爪の先のような穴ができているが、まだまだ形を保っている。

 それどころか、さらに硬くなったような気がするのが手に持った感触から伝わって来るんだけど……?


「ただ長いだけの棒……いや、異常なくらい硬いが、それでも使い道がな……」

「うん、ないよね……」

「叩いても崩れたり折れたりもしないし……どうしようもないわね。適当な場所に埋めておきましょう」


 ソフィーとフィリーナが、土の棒を触ったり、叩いたりしながら確認。

 最終的には、そこらに埋めて見なかった事にすると決めた。

 俺かユノあたりが何かをしたら、流用できるかもしれないけど、今はそれを考える時間も惜しい。

 もう、大分日が傾いて薄暗くなって来てるしね。


 魔力溜まりの調査に来たんだから、その影響があるかもしれないガラスを確認するのが先だ。

 まぁ、畑から離れた場所に埋めておけば、特に問題もないだろう。

 土でできたものだし、土に還すだけだね。

 適当に地面に置いて、土をかけて埋めておく。

 掘り返されたりしないように、大分離れた場所に埋めたから……多分大丈夫だろうと思う……。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る