第407話 クラウスさんの予定
「決定するかどうかはわからないけど、ヘルサルでキューが作られるかどうかがわかると思う」
「そうなのだわ……いっぱい作ってくれるといいのだわぁ」
「そうだなぁ。皆が欲しがる物を作るんだから、街にとってもいい事だと思うし……多分大丈夫だと思う」
気になるのは、キューの需要が収まった時だけど、そのあたりはこれから考えればいい。
差し当たって、重要なのはキューが不足してしまうのを避けることで、エルサの食べる分を確保する事だし、皆が買うのを躊躇ったりしないようにする事だ。
高くなったり、数が少なくなったら、普通の人には買えなくなるかもしれないしね。
それに、もしキューの消費が減ってきても、獅子亭のようにキューを使った料理を広めれば、ある程度維持はできるだろうしね。
キューか……きゅうりとほぼ同じ物だし、色々と使い道はあると思う。
まぁ、そのあたりは姉さんや、国とか街の人が考えてくれるんじゃないかな。
もちろん、全て任せっきりというわけじゃなく、ここまで関わったんだから、有効な手立てを思いついたら、提案してみるようにしようと思ってるけどね。
「ともかく、今日はもうする事がないから、お風呂に入ってさっさと寝よう? 空を飛んで疲れてるだろ?」
「あれくらいなら、なんともないのだわ。けど、キューの事を考え過ぎて、疲れてるのは確かなのだわ」
「いきなり、キューがなくなるような事はないんだから、考え過ぎなんだよ。ほら、お風呂に入ってリラックスするぞー」
「わかったのだわ……」
キューの事を聞いた時から、ずっとその事ばかり考えてるんだろう。
自分じゃどうしようもない事をずっと考えるのは、それはそれで疲れるものだと思う。
体を動かしてるかどうかは関係なくね。
ひとまず、頭を空っぽにして休めるよう、お風呂にエルサを連れて行って、丹念に毛を洗ってやり、いつもより緩い温風で気持ち良さが長持ちするように、乾かしてやった。
これだけで、エルサが完全にリラックスできたとは思わないが、多少は楽になったと思いたい。
ドライヤーもどきの魔法で、温風を当ててやってる時、いつものようにコテンと横に転がって寝たから、大丈夫だろう。
寝顔も寝息も穏やかだしね……悪夢は見てないと思う。
「ただいまなのー」
「しー……」
「エルサ、寝てるの?」
「いつもと同じだよ。毛を乾かしてる時に寝たんだ。それに、キューの事ばかり考えて、頭が疲れてたみたいだしね」
「エルサは考え過ぎなの……」
「ははは、そうだね」
エルサをベッドに連れて行っていると、モニカさん達にお風呂に入れてもらっていたユノが、部屋に戻って来る。
エルサを起こしてしまわないよう、口に人差し指を当てて静かにするよう合図をする。
それと見て、小声になりながらユノが寝ているエルサを覗き込んだ。
小声で話しながら、やれやれといった様子のユノの髪を、ドライヤーもどきで乾かして、ベッドに入った。
いつものように、エルサを挟んで川の字だ。
ユノはエルサが気持ちよく寝れるように、仰向けのお腹をゆっくりと優しく撫でながら、一緒に寝た。
こうして見てると、ユノがエルサの保護者みたいだな……。
って、元々ユノがドラゴンを作ったんだったか……そう考えると、母親みたいなものなのかもな。
エルサのお腹に手を置いたまま、寝てしまったユノに毛布をかけ、俺も夢の中へ――。
――――――――――――――――――――
翌朝、朝食を頂いて、クラウスさんの所へ行こうか、まずは獅子亭の準備を手伝おうかと考えていた時、ハーロルトさんが訪ねて来た。
「リク様、クラウス殿は本日、仕事が立て込んでいるそうで……昼の休憩時になら、話をする事ができるそうです」
「昼ですか……クラウスさんの方は、それでも大丈夫なんですか?」
何やらクラウスさんは仕事で忙しいらしい。
昼の休憩の時になら……という事だけど、それはクラウスさんが休憩する時間で、昼食の時間でもある。
そんな時に俺達と話しをするのは、休憩にならないんじゃないかと、少し心配だ。
「大丈夫だそうです。むしろ、リク様と話をするのであれば、仕事を全て放り出してでも……と言っておりました」
「あははは、相変わらずなんですね」
「秘書のトニ殿が、クラウス殿を止めておりました。仕事に差し支えなく、リク様と話しをするならば昼の休憩時だろうと」
「あー、トニさんが見張ってるなら、抜け出せそうにありませんからね。わかりました、昼ですね」
俺のファンを公言して憚らないクラウスさんだから、仕事を放りだす事も厭わないんだろう。
そこは仕事をきちんとして欲しいと思うけど、トニさんが見張ってるなら安心だ。
クラウスさんが大丈夫であるなら、昼に会って話をする事にしよう。
「クラウス殿と話しをする場ですが……どこがよろしいでしょうか?」
「え、クラウスさんのいる所に、俺達が行くと思っていましたけど?」
「いえ、それが……リク様と話をするのに、仕事がチラつく場所では行いたくないとの事でして……むしろリク様がいる所に、クラウス殿が行くと息巻いてるそうです」
「えーっと……そうなんですか……それじゃあ、獅子亭……は、駄目ですね」
「……そうですね」
まぁ、元々が昼の休憩時間なのだから、仕事とは離れたいのかもしれない。
とは言え、俺達が話す事も仕事に関係する事なんだけど……クラウスさんがそう言うなら仕方ない。
そう考えて、話す場所を獅子亭にしようとしたけど、昼の準備を始めているマックスさん達を見て、却下した。
ハーロルトさんも周囲を見て、同意するように頷いている。
昼休憩という事は、昼食の時間でもあるから、その時には当然ながら、獅子亭はお昼の営業時間だ。
人が押し寄せる店の中で、クラウスさんを呼んで話をするとしても、マックスさん達は許可してくれるだろうけど、落ち着かなさそうだしね。
昼の営業を邪魔しないように、他の場所にするべきだ。
ヘルサルで、落ち着いて話をする所かぁ……カフェのような場所はあるし、知ってるけど、そこが相応しい場所かどうかわからない。
あまり多くの人に言いふらすような内容でもないから、できるだけ信用できる場所がいいと思う。
そういう意味でも、人の出入りが激しいお昼の獅子亭ではダメだろうし……。
「リクさん、それなら冒険者ギルドはどうかしら?」
「冒険者ギルド?」
「えぇ。あそこなら、人が来ない部屋も用意してくれると思うわよ?」
どこで話せばいいのかを考えていたら、近くのテーブルで、ゆったり食後のお茶を飲んでいたモニカさんから提案される。
冒険者ギルドかぁ……ヤンさんに会うのにも丁度良いし、行ってみるのもいいかもね
「それに、ヤンさんとも一度話しておかないといけないし……街の事なら、冒険者にも関わりが出て来るから、その話もね」
「街の事も……そうか、確かにそうだね」
俺達の事をヤンさんに報告する以外にも、街ぐるみで農地をするのであれば、冒険者にも関わって来る。
簡単な手伝いのような依頼から、農地に近付く魔物を討伐とか、警護をしたりね。
その辺りの事もあるから、ヤンさんも交えて話した方が、手っ取り早いとモニカさんは考えたんだろうと思う。
言われてみれば確かにと、俺もモニカさんに同意した。
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