第406話 ヘルサルのキュー状況



「このまま噂が広まって行ったら、王都だけでなく、ヘルサルでもキューの値段が上がったり、数が不足し始めるかもしれないわ」

「そうだな……話を聞く限りでは、影響を受けるだろうな」

「そうね……確かに、キューの値段が上がって来ているわね」

「もうこっちでも、価格に影響があるんですか?」

「新しい料理を作るにあたって、キューの仕入れを増やしたんだけどね。仕入れを増やしてもキュー一つに対する値段が下がっていないのよ。いつもなら、値引きしてくれるんだけど……値引きがなかったわけじゃなくて、値引きをしてあの価格なのだと思うわ」


 マリーさんには、何やら思い当たる節があったようで、詳しく聞いてみると、少しだけ仕入れの値段に影響が出てきているようだ。

 大量に仕入れれば、キュー一つ辺りの値段が下がる……というのはわからないでもないけど、どうやらその値段が下がっていないらしい。

 というより、値段が上がったうえで値引きをしているから、一つあたりの価格が下がったようには感じられないんだろう。

 獅子亭の金庫番もしている、マリーさんならではの意見だね。


「そうなのか? あまり気にしていなかったが……」

「アナタは気にしなさ過ぎなのよ。仕入れの値段が上がれば、料理の値段も上がるのよ? そうすると食べに来てくれる人が減る可能性も出て来る。色々考えなきゃいけないんだから……」

「む、むぅ……そうか……」


 マックスさんは、料理を作る事に集中しているから、こういう話に弱い。

 仕入れの事とかも一応は考えてはいるんだけど、金額とか、店に出す料理の値段とかは、マリーさん担当だしね。

 利益が全てじゃないかもしれないけど、それがなければ店としてやっていけない。

 多く仕入れる物の価格が安定せず、今後さらに高くなったり、不足する可能性があるというのは、マリーさんにとって難しい問題なんだろうなぁ。


「と、ともかく、話はわかった。王都を追い出されたわけじゃなくて安心したぞ?」

「あはは、さすがにこんなに早く追い出されるような、悪い事はしませんよ」

「そうよ。むしろ、歓迎され過ぎて大変なくらいなんだから……」

「パレードの話は、ヘルサルでも聞いたぞ。なんでも、陛下と仲良く町を闊歩したそうじゃないか?」


 マリーさんに詰め寄られてタジタジになったマックスさんは、話を変えるように俺達へと話を振る。

 急に話を変えたから、マリーさんは不満そうだったけど、苦笑しながらマックスさんにのっておく。

 王都では、追い出されるどころか、人が集まってくるから、のんびり町を歩く事ができなくなってるからなぁ……と、モニカさんの言葉にも苦笑。


 というか、パレードの話ってどこまで広まってるんだろう?

 この街にも、姉さんと俺が云々って噂が広まってるらしいって事に、さらに苦笑しかできない俺……。


「リク君とモニカちゃん達が、王都でも活躍してるのはわかったけど……そろそろ、紹介してくれてもいいかしら? その……エルフよね?」

「ん、あぁ、そうでしたね……」


 苦笑しっぱなしになりながら、マックスさん達に王都で行われたパレード後の話をしていると、カテリーネさんがワクワクするような期待感を出しつつ、フィリーナの方へ顔を向ける。

 マックスさんやマリーさんは会った事があるし、お昼を食べてる時も普通に話してたから、紹介するのを忘れてた。

 そりゃ、始めて見るエルフが目の前にいるのだから、紹介して欲しいよね。


「えっと、以前エルフの集落に行った時知り合った……」


 カテリーネさんとルディさんに、フィリーナの事を紹介し、今は王都に滞在して兄のアルネと一緒に、俺達と行動を共にしている事を説明。

 そこからは、カテリーネさんの質問責めが始まる。

 ほとんどが、城でレナやメイさんと初めて会った時と同じく、年齢と美容に関する事だったけど。

 モニカさん、ソフィー、フィリーナ、カテリーネさんの四人でテーブルを移動し、話し込み始める。


 ルディさんが止めようとしたけど、無理だったようで、肩を落としてる。

 女性のこういう話は、男には割り込んだり止めたりは無理だよなぁ……。

 同じ女性であるマリーさんは、我関せずの様子を装いつつも、しっかりフィリーナ達の話を聞いてるし……ユノは……。

 ユノだけは、興味なさそうにエルサをつついてるな。


 まぁ、実はこの中で一番長生きしていて、若さを保っているしな。

 ……元が神様なんだから、長生きというより、存在していると言った方がいいのかもしれないけど。


「あぁ、そうだ。リク」

「ん、どうしんたんですか?」


 女性の話にがメインになった店内で、こめかみから冷や汗を流しながらも、マックスさんが俺に声をかける。

 ルディさんも似たような感じだけど、こういう話って、男は肩身が狭いよなぁ……。


「ヤンがリクに会いたそうだったぞ? Aランクになった事もある、一度冒険者ギルドに報告に行ってもいいんじゃないか?」

「そうですね。王都へ行くとは言っていましたが、そこからヘルサルに帰らず、そのままでしたし……」


 確かに、ヤンさんとは一度会って話しておきたいと思う。

 王都へ行く時は、ただ勲章授与式のために……というだけでヘルサルを出たし、そのまま何も言わず、王都で冒険者活動してたからなぁ。

 本来、こういう事に報告義務とかはないんだけど、お世話になった人だし、一度話しておかないと。

 それに、王都と違ってヘルサルは自由に街を歩けるから、冒険者ギルドに簡単に行けるしね。


「少しはゆっくりできる時間があるんだろ? それなら、冒険者ギルドに一度行ってみるといいぞ」

「わかりました。明日は……クラウスさんと話さないといけないので、時間があるかわかりませんが、ヘルサルにいる間に、ヤンさんの所に行きます」


 今日も合わせて四日あるしね。

 時間には余裕があるんだから、冒険者ギルドに行けるだろう。

 昼食も終わり、なんだかんだとキューを食べ尽くしたエルサは、テーブルに置いておき、男性陣で片づけを始めた。

 ササっと片付けて、夕方からの営業の準備をしないといけないからね。


 女性陣は……美容だ若さだとの言葉が飛び交って、白熱した論争を繰り広げてるようだから、肩身の狭い俺達で片付けた。

 営業の準備を始めるまでに、終わるといいなぁ……。



「ふぅ……久々だったから、少し疲れたかな」

「リク……キューの事は、明日わかるのだわ?」


 獅子亭の手伝いも終わり、以前のまま残っている部屋に戻って、一息つく。

 夕食時の獅子亭は、以前よりもさらに活気があって、行列ができているくらいだった。

 前よりも忙しい中、手伝った俺とモニカさんはブランクがあるからか、少し疲れてしまった。

 店を閉めた後、夕食を頂きながら休憩したけど、部屋に戻ると一気に疲れが出たようで、思わず息を漏らしてしまった。


 そんな俺を見ながら、目の前にふわりと浮かんだエルサが、キューの事の確認をする。

 よっぽど気になって、それで頭がいっぱいなんだろうね。

 他にも考える事があるんじゃないか、とは思わなくもないけど、長く生きて来たエルサが、これだけ必死になれるような好物は初めてなんだろうなぁ……と考えて、注意するのは躊躇われた。



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