第403話 予定より早くヘルサル到着
「ほら、エルサ。皆大変だったんだぞ?」
「ごめんなさいなのだわ。キューの事を考えてたら、結界を忘れていたのだわ」
キューの事で頭が一杯なのは、ここ数日を見ていればよくわかってるけど、ここまで暴走するとは……。
俺の結界に当たった事で、少しは冷静になれたみたいだね。
一応反省したようだし、次からは気を付けてもらおう。
「急いで行っても、ゆっくり行っても、どちらにしろキューの事はそう変わらないんだから、気を付けてくれよ?」
「……わかったのだわ。もうあんな動きはしないのだわ……結界を忘れないよう飛ぶのだわぁ」
「うん、それならいいんだ。それじゃ、行こうか」
今日中にヘルサルに行って、明日にでもクラウスさんと話すくらいで考えてるから、エルサがどれだけ急いでも結果は変わらない。
エルサを注意し、反省を促した後、もう一度出発させる。
ちゃんと俺の結界は解いておいたけど、エルサは恐る恐る前へ進んだ。
またぶち当たるのが嫌なんだろうな……さっきのあれ、かなり痛そうだったし。
とはいえ、結界の事を後悔はしてない。
叫んでも聞こえてなかったし、あれくらいしか止める方法はなかったしね……多分。
「はぁ……今度は普通に飛んでるな」
「いつもよりは、少し荒い気もするけど……そうね」
「ふぅ……ようやく一息できるな。……もう王都が見えない位置か」
再び移動し始めたエルサ。
今度は結界が張ってあるし、さっき程の速度が出ていないうえ、妙な動きをしてはいないので、乗りながらゆっくりできる。
モニカさんとソフィーも、ようやく息が整ったようだ。
確かにいつもよりは、乗り心地が悪いというか、揺れるような気がするけど……それは多分、エルサがキューの事で逸る気持ちがあるからだろうと思う。
翼も忙しなく動かしてるしね……いつもは、もう少し動きが小さかったと思う。
ソフィーは、移動して来た方を振り返り、王都が見えなくなっている事を確認していた。
飛んでから、数分くらいしか経ってないのに、あんなに大きな王都を、何も邪魔される物がない空からも見えない場所まで来れたというのは、驚きしかない。
こんなに早く移動できたんだな、エルサ。
空を飛ぶのが楽しそうだから、そのうち俺だけが乗った状態で、自由に速度を出して飛んでみるのもいいかもしれない。
俺だけなら、振り落とされる心配もないし、エルサも気を使ったりしなくていいだろう。
もしもの時は、俺も結界が使えるしね。
……ユノ辺りは、ついて来たがりそうだけども。
そんな事を考えながら、いつもよりは多少早い速度を出しながらも、エルサの結界を越えて来るような影響はなく、空の旅を楽しんで過ごした。
初めてエルサに乗ったハーロルトさんは、空を飛ぶ事に慣れていないため、あまり楽しそうじゃなかったけど。
まぁ、最初の空の旅前半が、あんな飛び方だったら、楽しめるものも楽しめないか。
「着いたね」
「着いたわね」
「うむ、着いたな」
「王都からヘルサルって、近かったかしら……?」
「馬での移動が、馬鹿らしくなる程ですね」
「到着なのー!」
「到着なのだわぁ」
空の旅も終わり、ヘルサルの近くで地上に降りる。
さすがにヘルサルへ、直接エルサが降りるわけにはいかないからね。
初めての空の旅で、若干足元がふらついているハーロルトさんに手を貸しつつ、エルサから降りて、皆で呟く。
ユノとエルサは、ただ目的地に来た事を喜んでるようだけど。
まだ、時間は日が昇りきっていない……昼前くらいだ。
前回ヘルサルから王都へ行った時は、途中に昼休憩を挟むくらいだったけど……その半分くらいの時間で移動できた。
エルサ、気合を入れて飛び過ぎだろう……。
皆、これ程早く到着した事に驚いている様子だ……もちろん、俺も。
ヒルダさんに用意してもらった、皆用の昼食……必要なかったなぁ。
捨てたりするのはもったいないから、後で食べるけど。
「街へ行かないのだわ?」
「あ、ああ。行くよ、もちろん。皆、街へ入ろうか」
「そうね」
「ここでこうしてても仕方ないしな」
「久々なの!」
エルサがさっさと体を小さくして、俺の頭にドッキングしながら声をかけられる。
その声に、早く到着した事に呆けていた俺達も正気に戻り、ヘルサルへと移動を開始する。
移動の時間に驚きはしたけど、モニカさんとは故郷だし、ソフィーは獅子亭の料理が食べられるし、ユノは久々のヘルサルという事で、嬉しそうだった。
「懐かしいなぁ……」
「そうね。とは言っても、ヘルサルを離れてまだ、二カ月も経ってないわよ?」
「そうなんだけどね。でも、俺にとっては初めて来た街だから」
この世界に来た時、初めて訪れた街。
まぁ、ユノに放り出されて、近くにあった街というだけだけど。
それでも、ほとんど何も持っていない状態で途方に暮れそうになっていたのは、忘れられない。
獅子亭の皆に拾ってもらえなかったら、今頃何をしていたんだろうなぁ。
まだそんなに、多くの時間が経っているわけでもないのに、感慨に耽るような思いを抱きつつ、懐かしのヘルサルへ移動する。
エルサは俺の頭にくっ付いたまま、歩いてる俺達を急かすように手をペチペチしてるが、急がなくてもキューが逃げるわけじゃない。
宥めながらゆっくりと、ヘルサルへ向かった。
「それではリク様、私は先にクラウス殿の所に行きますので」
ヘルサルに入ってすぐに、とりあえず獅子亭へ向かおうとする俺達とは違い、ハーロルトさんはクラウスさんの所へ行くとの事。
なんでも、先に俺達がヘルサルへ帰って来た事を知らせたり、農地の事での相談をするため、先触れのような役割をするらしい。
「今日の宿は大丈夫ですか?」
「なんだったら、父さんと母さんに頼みますよ?」
「いえ、それには及びません。適当に宿を見繕う事にしています。時折こうして、王都以外の場所で安宿に泊まるというのも、楽しみの一つですから」
クラウスさんの所へ行くのはいいけど、ハーロルトさんがヘルサルで泊まる宿を心配して聞いてみる。
モニカさんも、獅子亭で泊まれるかどうか、マックスさん達に頼むつもりだったようだけど、ハーロルトさんは断った。
確かに、いつも自分がいる場所とは別の場所で、宿を探して泊まるのは楽しいかもしれない。
街や村ごとに、色々と特色も変わるだろうし、安い宿や高い宿でも、違いは出て来る物だと思う。
そういった違いを楽しむのも、趣味の一つなのかもしれないね。
まぁ、当たり外れとかもあるんだろうけど。
「わかりました。それじゃあ、俺達は獅子亭に向かいますね」
「はい。明日にはリク様と話をするよう、クラウス殿には伝えておきます」
「時間が取れたら、クラウスさんの所に行くので、報せてくれれば……」
「まぁ、クラウス殿なら、自分からリク様に会いに行かれるでしょうけど……了解しました」
確かに、クラウスさんなら仕事をサボって、秘書のトニさんに注意されながらも、獅子亭に来そうだ。
その様子が簡単に想像できてしまい、ハーロルトさんと苦笑しながら、別れた。
俺達は、久々の獅子亭だね。
マックスさん達、元気かなぁ……?
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