第394話 エルサを説得



「はい。料理人達は、今までの消費量を考え、数日分のキューは確保していると言っていました。これから先、もっと価格が高騰したり、数が少なくなる事を懸念して、私に相談した……という事になります」

「ほらな? とりあえずは、キューが食べられなくなる事はないから、安心してくれ」

「……わかったのだわ」

「「「はぁ……」」」


 エルサは、キューをすぐに食べられなくなるものと勘違いして、飛び出そうとしたらしい。

 頭の中がキューでいっぱいになっていて、焦ってすぐにキューがなくなると勘違いしたんだろう。

 エルサに話し掛けつつ、ヒルダさんに聞いて、キューが今すぐ食べられなくなるわけじゃないと伝えると、ようやくおとなしくなってくれた。

 じたばたしなくなったエルサを見て、他の皆が一斉に安心したような息を漏らしていた。

 大きくなったエルサを見た事がない、エフライムやレナ、メイさんはキョトンとしていたけどね。


「明日になれば、わかるのだわ?」

「んー、それはどうかしらね。早急に調べるようにするけど……数日はかかるかもしれないわ」

「まぁ、原因調査なんてそんなものだよね。最初から目星がついてたらいいんだけど……」


 今日はもう遅い時間だから、調査はできない。

 準備だけはしたとしても、明日朝から調査開始して、人から話を聞いたり、情報を調べる必要がある。

 キューを主に調べるんだろうけど、他の野菜も調べるだろうし……王都は広い。

 人数を大量に投入して……とかができれば、多少は早くなるだろうけど、差し当たっての脅威とかじゃないから、そちらにどれだけ人が割けるか俺にはわからない。


 まぁ、姉さんが調べるって言ってるんだから、それなりの人数が動くんだろうけど……。

 城の人達には他にも仕事があるわけだから、それだけを調べるためにという事もできそうにないね。

 センテくらいの都市ならなんとかなりそうだけど、倍以上の大きさがある王都で、しかも国の中心部。

 色んな所から物が入って来るから、調べるのに数日かかるのも仕方ないと思う。


「数日……もっと早くならないのだわ?」

「難しいわね。調べなきゃいけない事だけど、緊急の事じゃないから……やっぱり数日はかかるわね」


 ユノの腕に抱かれながら、クイッと首を傾げながら、姉さんに聞くエルサ。

 男の俺でも可愛い仕草と思える姿に、ソフィーが手を伸ばそうとして正気に戻り、引っ込めたりとしていた。

 レナは引っ込めたりせず、手を伸ばしてエルサの頭を撫でてたけど……。

 キューの事で頭がいっぱいなエルサは、気にしてない様子だ……気にする余裕がないのかもね。


「だったら、私も調べるのだわ。リクも一緒に! だわ!」

「俺も?」

「エルサちゃんがねぇ……手伝って来るのはありがたいけど……畑を強襲とか言われると」

「もうそんな事しないのだわ! 冷静になったのだわ!」

「そう? それじゃあ、手伝ってもらおうかしら……? あーやっぱり駄目だわ」

「どうしてだわ?」


 自分が手伝うと手を挙げたエルサ。

 何故か俺も一緒に調べると、巻き込まれてしまったが、エルサとは基本的に一緒だから仕方ない。

 俺も理由は気になるしね……それに、キューが安いに越したことはないだろうし……今は大丈夫でも、後で家計に打撃とか、笑えない状況になるかもしれないし。

 畑を襲わないと約束したエルサに、姉さんは一度は許可しようとしたけど、少し考えてその意見を翻した。

 人では大いに越したことはないと思うけど、どうして駄目なんだろう?


「だって、エルサちゃんとリクが一緒に行動したら……ねぇ?」

「あー、そうですね。まだ人に発見されたら大騒ぎになりますね」

「そうだな。私達でも、まだ指を差されるくらいだ……リクが町に出ると、以前と同じ状況になるだろう」

「確かにそうだね……俺とエルサはまだ、街には出られないか……」

「せめてあの噂が、風化してくれればねぇ……」


 モニカさんやソフィーでも、顔を覚えられてて指を多少は注目をされる状況だ。

 パレード直後よりマシになったとはいえ、一番注目されている俺やエルサが一緒に行動したら、人に囲まれるのは簡単に想像できる。

 姉さんの言うように、俺と姉さんが仲良さそうで云々……という噂がなくなれば、ある程度は動きやすくなるとは思うけどね。


「集まって来た人間達なんて、リクが蹴散らせばいいのだわ。キューの前には、有象無象なのだわ」

「だから、それが駄目だって言ってるの。そんな事をしたら、キューを食べるどころじゃなくなっちゃうわよ?」

「そうなのだわ?」

「まぁ、そうだね……」


 集まって来た人間を、俺やエルサが実力行使で排除していたら、手配される事にもなりかねない。

 さすがに殺したりはしないけど、手加減し損ねて怪我をする人は続出しそうだしね。

 いくら英雄と言われてても、そんな事をしたらすぐに悪人扱いだ。

 集まって来た人達に話して説得するくらいしか、方法は思いつかないけど……ほとんど興奮状態だから、俺の話を聞いてくれるかどうか……前はそれどころじゃなかったしなぁ。


「むぅ……どうすればいいのだわ……?」

「おとなしく待っておこうよエルサ。陛下が動いてくれるんだから、すぐになんとかしてくれると思うからさ」

「むぅ……むぅむぅむぅ……だわ」


 結局、その場ではエルサにおとなしくしてもらうという事で、夕食が終わり、解散となった。

 エフライムとレナは、メイさんと一緒に用意された貴族用の部屋へ。

 モニカさんとソフィーは、フィリーナやアルネと一緒に、城外の宿へ。

 さすがに、今日はフィリーナとアルネも宿へと帰って行った。


 ソファーだとあまり寝た気がしなかったらしい……俺への説教は終わったから、今日はゆっくり休んで欲しい。

 ユノは、もしもエルサが単独で暴走した時のため、俺の部屋に残ってる。

 エルサを実力行使で止められるのは、俺とユノしかいないから……という理由だ。

 まぁ、ユノは何度も部屋へ寝泊まりしてるから、特に問題はない……レナ以外はね。

 何故か、レナがユノが一緒にいるなら自分も! と言って部屋から出るのを渋っていた。


 懐かれてる証拠ではあるんだけど、エフライムからの視線が痛いから、我慢して欲しい。

 あと、メイさんは止める側だからね? 後ろで「そこです、もっと押すのですレナーテお嬢様!」とか、握りこぶしを作って応援しないで欲しかった。

 皆から説得されて、渋々部屋から出るレナを見送り、皆も追々退室して行って、俺とユノ、エルサになったところでお風呂タイム。

 ユノのお風呂をヒルダさんに任せて、上がって来た後で、俺とエルサが入る。


「むぅ……なんとかしないといけないのだわ」

「まだ言ってるのか? とにかく、姉さんが調べてわかるまで、俺達は待つしかできないだろう?」

「むぅ……だわ」


 自分で調べられないエルサは、むぅむぅ唸って納得が行ってない様子だった。

 仕方なしに、いつもより入念に毛の手入れをして、ドライヤーもどきの魔法もかけてやり、気持ち良く寝られるようにお世話してあげた。

 寝入ったエルサをベッドに連れて行き、ユノと俺で挟んで、一緒に就寝。

 もし夜中に起きてエルサが行動しないよう、ユノとモフモフの毛を掴んで離さないようにしながら。

 モフモフを堪能したいからじゃないぞ? 触り心地が良くて、気持ちいいのは否定しないけどね……。

 今日も気持ちよく寝られそうだ――。



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