第393話 エルサの暴走を阻止
「モキュモキュ……やっぱりキューは素晴らしいのだわ……次は漬物の方を、あー……だわ? どうしたのだわ?」
暢気にキューを食べていたエルサだが、口にキューの浅漬けを入れようとしたところで、皆から見られている事に気付いた。
こぼれたキューのカスや、汁によって口の周りが薄緑になってるけど、これはいつもの事だ。
……エルサ、自分は女の子だって主張してたけど、皆に見られてもそこを気にしないのはどうなんだろう……? なんて、どうでもいい事が頭に浮かんだ。
「エルサちゃん……えっと、今食べてるキューなんだけど……リク、後はお願い」
「俺?」
「エルサちゃんと一番近いのはリクでしょ? 暴れて、部屋や城を壊さないようにお願い」
「……仕方ないか……保証はできないけど……」
「もしもの時は、私が取り押さえるの!」
「頼むよ、ユノ」
姉さんがエルサに説明しようとして、すぐに俺へと振った。
多分、ワイバーンを回収した時の話を思い出したんだろう。
あの時は、キューが食べられなくなるのが嫌で、王都へ急いで帰ろうとしたんだったか……。
さすがに、部屋の中で暴れたりはしないだろうとは思うけど、キューへの執着心が強いエルサの事、どうなるかは予想がつかない。
仕方なしに、姉さんや他の皆から懇願するような目を向けられ、俺が説明役になる事を承諾する。
ユノがもしもの時に備えると手を挙げてくれて、念のためお願いしつつ、自分でも一応結界の準備をする。
オシグ村でユノに破られた事もあるから、完全とは言えないけども……。
ともかく、エルサへの説明だ。
「えっとな、エルサ。今お前が食べてるキューがあるだろ?」
「あるのだわ。いつもの通り、最高に美味しいのだわ」
「それは良かった。でな? そのキューが今、値段が上がってしまってるらしいんだ」
「キューが高くなったのだわ? けど、リクはお金があるのだわ。気にせず買うのだわぁ。んぐ……モキュモキュ……美味しいのだわぁ!」
キューの値段が上がった事をエルサに教えたけど、俺が色々と褒賞やら冒険者としての報酬をもらっているのを見ているため、お金がある事がわかっているエルサは、暢気に言いながら持っていたキューを齧る。
皆が見ている中だというのに、好物のキューを食べて満足そうにできるのは、ある種大物かもしれない……いや、ドラゴンなんだけどな。
確かにお金はあるから、価格が倍やそれ以上になっても、買えるのは間違いないんだけど……量が確保できるかわからない。
「あのな? 価格が上がるって事は、キューが不足してるって事なんだ。このままだと、食べられるキューの数がどんどん減って……最終的には、一日一本とかになるかも……?」
「なんですってだわ!! それは由々しき事態なのだわ! どうしてキューが不足してるのだわ!?」
「それは、これから調べないといけないとわからない。だからな、エルサ。もう少しキューを食べる量を減らして……」
「今すぐ調べるのだわ! んぐっ! リク、私に乗って調べて回るのだわ!」
「ちょ、ちょっと待ってくれエルサ! ユノ!」
「はいなの!」
「むぐーぐわ!」
キューの数が足りなくなる可能性を教えると、途端に激しい反応をするエルサ。
一日一本は言い過ぎかもしれないが、このまま値段や数が不足していくと、一般の人はそれすらできなくなるかもしれないしな。
これから調べて原因を突き止める事を伝えると、エルサは持っていたキューを自分で押し込んで全て食べ、のっかっていたテーブルから飛んで部屋の窓近くへ行く。
窓の手前で床に降り、その場で大きくなろうとしているのか、エルサの体がにわかに光り始めた。
慌てて叫びながら、ユノに声をかけた。
俺の言葉に答えて、すぐさま取り押さえに掛かったユノは、目にも止まらぬ速度で動き、エルサを捕まえて抱き上げ、口を抑えた。
ぐむって……口を抑えられてるから、だわが言えなかったのか……。
それはともかく、口を抑える必要まではなかったんじゃないのか、ユノ?
光が収まってるから、尋常じゃない速さで動いてくれて助かったけど。
「……はぁ……驚いたわ。まさか急に大きくなろうとするなんて……」
「そうですね、陛下。エルサちゃんがここで大きくなったら……」
「大惨事だな。部屋が破壊されてしまう」
エルサが急に大きくなろうとした事に、姉さんとモニカさん、ソフィーが驚きながら話してる。
他の皆も、まさかそう来るとは思ってなかったらしく、驚いたまま固まっていた。
エルサが大きくなるって……俺を乗せようとしてたみたいだから、多分いつも空を飛ぶ時の大きさだろう。
大きくなったエルサは、部屋に収まりきるわけもなく、この部屋が破壊される事になる。
そうなったら、ワイバーンの襲撃よりも城への被害が大きそうだ。
部屋の中にいる皆も危ないだろう……まぁ、最悪結界で守れたとは思うけど。
ともかく、ユノが捕まえてくれたおかげで、エルサが大きくならずに済み、ホッと一安心。
今度から、エルサが何かをする可能性のある話をする時は、俺かユノが抱き上げて離れないようにしてからにしようと思う……うん。
「ぐむー! ぐむー!」
「捕まえたの!」
「よしよし、偉いぞユノ。ありがとうな。けど、口を抑えるのはやり過ぎじゃないか?」
「そうなの? じゃあ……」
「ぷはーっだわ! 危うく窒息するところだったのだわ! 何なのだわ!」
口を抑えたままのエルサを、俺の所へ連れて来るユノを褒めつつ、口を抑えるのはやり過ぎだと伝える。
首を傾げて、エルサの口を抑えていた手を外すと、大きく息を吐き出すエルサ。
鼻も抑えられて、呼吸ができなくなっていたのかもな。
「とりあえず、落ち着いてくれエルサ」
「落ち着けないのだわ! キューがなくなってしまうのだわ! 由々しき事態なのだわ!」
「いや、なくなりはしないと思うが……とにかく落ち着け。今から調べるにしても、もう夜だ。店は閉まってるだろうし……どこを調べるつもりだったんだ?」
「……キューを作ってる所、だわ? もっと多くのキューを作るように、空から強襲するのだわ!」
「それは止めてエルサちゃん!?」
落ち着くようにエルサへ声をかけるが、キューの事で頭がいっぱいなため、ユノの腕の中でじたばたしている。
言い聞かせるように、今から調べる事はできないと伝えると、強襲するなんてとんでもない事を言い放つエルサ。
それはさすがに……と言う前に、姉さんから強めの懇願が入った叫びが。
まぁ、ドラゴンが空から畑を強襲とか……魔物が襲って来たのと変わらないからな……。
変な混乱や問題を起こる想像しかできないから、止めるのは当然か。
「エルサ、そんな事をしたらキューを作ってくれてる人達も、怖がって逃げ出すだろ。そうじゃなく、まずは何故キューが不足してるのかを調べるのが、重要だ」
「むぅ……だわ。でも、明日からキューが食べられなくなるのは、嫌なのだわ」
「さすがに、明日からいきなりキューが無くなるなんて事はないから、安心してくれ。――ですよね、ヒルダさん?」
今すぐキューが食べられなくなる、というわけではなく、このままでは数が減るという話だったはずだ。
俺は、ヒルダさんに視線をやり、そちらへ現状の確認をした。
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