第386話 王都での新しい噂



「護衛依頼の報告もしないといけないのにねぇ……」

「あぁ、そういえばそれもあったね」


 エフライムとレナの二人を、無事王都まで送り届けるという依頼は、冒険者ギルドを通した正式な依頼だ。

 当然どうなったかを、ギルドに報告する必要がある。

 問題は特になかったし、友人達と一緒に王都へ来ただけのような感覚で、護衛依頼を達成したという感覚は薄いけども。


「リク様、依頼達成のための物は、ここに」

「ありがとうございます。けど、これをどうやって届けたものか……」


 メイさんが取り出した書類を受け取る。

 それは、護衛依頼が達成された事を証明する物で、エフライムがやったんだろう確認印のようなものが付いていた。

 魔物の討伐と違い、護衛などの人が相手となる時には、依頼が達成されたかを依頼者、または依頼対象者に確認してもらう必要がある。

 魔物だと、討伐証明部位を持ち帰ればいいけど、人相手だと証明する品のような物がないからね。

 虚偽の報告がされないための処置で、当然の決まりだろうと思う。


「リク様、町の様子なのですが……もしかしたら、大丈夫かもしれません」

「ヒルダさん? 本当ですか?」


 俺が受け取った書類を確認し、テーブルに置いてどう送り届けようかを考えていたら、お茶のおかわりを注いでくれながら、ヒルダさんが教えてくれた。

 けど、本当にもう大丈夫なんだろうか?

 城を出てすぐ人に見つかり、すぐに大勢に囲まれた熱狂ぶりを考えると、十日やそこらで落ち着くとは考えにくい。


「リク様が外に出た場合は、難しいかもしれませんが、他の方でしたら大丈夫だろうと考えています」

「俺以外なら?」

「はい。実は、噂話の類になりますので、陛下よりあまり人に話すなと言われているのですが……リク様なら当事者ですので、お耳に入れてもよろしいかと」

「噂話? それが、俺以外なら大丈夫という根拠になるんですか?」


 どんな噂話なんだろう。

 姉さんは、俺の知る限りで噂話なんてくだらない……というタイプだったから、広めるなと言うのはわかる。

 まぁ、そんな事を言いつつ、結構下世話な話とかが好きだったりもするんだけどね。

 それはともかく、その噂話のおかげで、俺以外なら町に行っても大丈夫なのか……。

 それなら、俺は城にいて、モニカさんやソフィーが代わりにギルドへ……という事でもいいのかもしれない。


「以前、私がリク様にお願いした事は覚えていますか? 授与式の後……リク様と陛下が話した後です。今考えると、馬鹿な事を申したと反省しておりますが……」

「ヒルダさんが話した事……? えぇっと……」


 あれはなんだったか……確か俺と姉さんが親しくしてて、ヒルダさんが浮いた話一つない姉さんに対して、男としてとかなんとかだった気がする。

 確かあの時は、この世界に来るまでに姉さんと俺が、本当の姉弟だったと知る直前だったと思う。

 事情を知る前だったからとはいえ、ヒルダさんとしては、あれは失言の部類なんだろう。

 伏し目がちになりながら、ちらりとモニカさんの方へ視線をやるヒルダさん。


 モニカさんはヒルダさんの視線を受けて、首を傾げてるね。

 あの時の話は、俺とヒルダさん……それとエルサやユノくらいしか知らないから、他の人達にはわからないだろう。


「姉さんと、という話でしたね。それが何か関係してるんですか?」

「あの時は、私の失言でしたが……町では今、陛下とリク様が将来一緒になるのではと、まことしやかに囁かれております」

「「「えぇ!?」」」


 噂話を説明してくれるヒルダさん。

 その内容に俺ではなく、モニカさんとレナ、それと何故かメイさんが驚いて声を上げた。

 モニカさんは俺と姉さんの関係を知っているからわかるけど、何故レナが驚くんだろう……?

 メイさんはまぁ、よくわからない。


「パレードの際、陛下とリク様は馬に騎乗しておりましたが……その際、距離が近く仲睦まじい様子が評判になり、さらにそれがお似合いだ……という噂に発展していったようです」

「確かに、俺と姉さんは近かったけど……」


 パレードの時、モニカさん達は馬車に乗ってたけど、俺と姉さんはお互い馬に乗って並んでいたのは確かだ。

 それに、周囲にあまり聞こえないようにだけど、パレードの最中話をしていたのもある。

 それが、俺達を見ていた街の人達が、仲睦まじい様子と勘違いしたのだろう。


「リク様は国が認める英雄ですし、実際に王都を救って見せました。あの時見ていた者達は、魔物の襲撃の脅威に晒された者達でもあり、皆リク様には感謝しております。そして、陛下は今に至っても浮いた話一つない事が、国民の関心の一つとなっております。世継ぎ問題もありますが、誰と婚姻するかで、国の将来が変わると考えられているようです」

「……そうなんですね」

「さらに、リク様が好意的に国民に受け入れられている事で、陛下と共に国を引っ張って行く事、守ってくれる事に期待しているようです。なので、この噂は驚くべき速度で町中に広まりました。……まだ他の街や村には行っていないようですが、それも時間の問題かと」


 王都そのものが襲われたばかりだから、町の人達の関心は国がこれからどうなって行くのか……という事を考えるのは仕方ないと思うし、当然の事だと思う。

 誰しも、不安な将来像しか見えない国で、安心して暮らして行きたくないからね。

 そう考えると、明るい話題というか、安心感を得るためには当然の帰結で、多くの人に仲が良い事を見らてる分、噂を信じる人が多いんだろう。

 それにしても、近い距離感で話してただけで、そんな噂に発展するなんて……相手が女王様だし、普通の人が親しく話す事はできないと考えると、当然かもしれないけど。


「この噂話により、人々の関心はリク様と陛下に向けられています。アルネ様とフィリーナ様は、判断しかねますが……モニカ様やソフィー様、ユノ様であれば町に出られても問題ないかと存じます」

「そういう事なんですね」

「まぁ、私達はエルフだしねぇ……」

「そうだな。珍しい者と考えると、関心が薄れていても以前のような事が起こり得るかもしれんな……」


 ヒルダさんの説明に、フィリーナとアルネが苦笑する。

 確かにエルフは町中だと珍しいから、パレードや俺とは関係なく人が集まるかもしれない。

 二人共美形だから、ナンパ目的の人が近寄って来る可能性もあるしね。


 それはともかく、人の関心や噂って、こんなに移り変わりが激しいんだなと実感する。

 携帯やインターネットがない世界なのに、俺が王都を離れてた十日程度の間に、人伝で町中にそんな噂話が広がるなんてなぁ。

 人の噂も七十五日なんて言うけど、新しい噂が出ると、その広がりは七十五日待つ必要はないようだ。


「まぁ、噂なら仕方ないね。それじゃあ、冒険者ギルドへの報告は、モニカさん達に任せようかな?」

「そうね。リクさんはもう少し、町に出るのは我慢した方が良さそうね。しっかり、達成を報告して、報酬を受け取って来るわ」

「あぁ、そうだな。ロータの事も含めて、報告して来よう」


 モニカさんとソフィに顔を向けて、報告を任せるように言うと、二人共頷いて承諾してくれた。

 嬉しそうな表情をしているのは、自由に外を歩けるとわかったからだろうなぁ……羨ましい。

 何故かモニカさんだけは、少し複雑そうに何か考える仕草もしていたけど。

 あれは何だったんだろう……?



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